三匹の子猫
「藤姫ーーーーー!」 パタパタと軽やかな足音をたてて龍神の神子、元宮あかねは自室に駆け込んできた。 「まあ、神子様。どうなさいましたの!?」 あかねを迎えるために局にいた藤姫は、駆け込んできたあかねの姿に目を丸くした。 今朝、あかねは力の具現をすべく天真と頼久を共に出かけたはずだ。 なのに、今駆け込んできたあかねはどいうわけか、泥だらけで、しかも手には三つの毛玉・・・・否、三匹の子猫を抱いているのだから。 すっかり驚いている藤姫にあかねは、えへへと照れたように笑って言った。 「今日ね、力の具現をするために松尾大社に行った時、神社の裏手の森から猫の鳴き声が聞こえてね。 なんだろう、と思って行ってみたらこの子達が泥沼にはまってて・・・・」 「それで思わず泥沼に入って助けられたのですね?」 優しく、行動的な彼女の性格と今の格好を見れば容易に想像できる成り行きに藤姫はため息をついた。 案の定、あかねはちょっと苦笑して頷いた。 「うん。でも思ったより沼が深くて頼久さんに助けてもらっちゃったけど。」 少し赤くなるあかねを見て、藤姫は思わず家臣である青年に同情したくなった。 きっと彼女を誰より大切に想っている頼久が胸が潰れるぐらい心配したであろうから。 とはいえ、それもまたいつもの事でもある。 すでに何度かこの型破りな神子様の行動で驚かされている藤姫は、ゆっくりため息をついて言った。 「・・・・ともかく、その汚れをどうにかいたしませんと。すぐに湯浴みの準備をさせますわ。」 「ありがと、藤姫!・・・・えっと、できたらこの子達も洗ってあげたいんだけど・・・・」 八葉を一発ノックアウト出来る上目使いの「お願い」をされて、藤姫はくすっと笑う。 「わかっておりますわ。」 「やった!ありがとう。」 ―― やっぱり神子様は最強のようだ。 「ミャーミャー」 風呂上がりのあかねは、同じく洗いたての三匹の子猫と遊んでいた。 泥でボロボロだった毛並みも、すっかり乾かされてフワフワで、気持ちも良いけれどくすぐったい。 「こーら、くすぐったいってば。」 あかねは肩に乗っかって首にじゃれついてくる子猫を優しく叱る。 しかしそんな事を気にした様子もなく、じゃれつく子猫。 くすくす楽しそうに笑うあかねを見ていた藤姫は、ふと思いついたように言った。 「神子様、その子達にお名前をお付けになりませんの?」 「あ、そうだね。うーん、どうしよう・・・・」 片手で子猫の喉をじゃらしたりしながら、あかねは改めて子猫たちを見つめた。 自分達の名前が付けられているなど知らない子猫は相変わらずマイペースにあかねに擦り寄る。 ―― 相変わらずあかねの肩まで登って頬に身をすり寄せる、子猫のくせに妙になつっこり黒い子猫。 ―― その黒を引き下ろしたそうだが、あかねに登ることを躊躇ってあかねの横で恨めしげな顔で黒を見上げる茶トラの子猫。 ―― そして、他の二匹の事など我関せずで、あかねの膝の上に居場所を確保している顔が半分で色の違う三毛の子猫。 「・・・・似てる」 「・・・・似ていますわね」 同時に言って、あかねと藤姫は顔を見合わせて笑った。 後日、めでたく「友」「頼」「泰」と名付けられた子猫たちが、遠慮無くあかねにじゃれついているのを、彼らに一字を与えた者達が複雑きわまりない目で見ていたとか。 〜 終 〜 |