白雪
「友雅さんは大人だから。」 諦めたように、困ったように君がそう言う時。 実は少し私が寂しいと思っている事、君は気がついてはいないだろう。 確かに、君から見たら私は『大人』だろうね。 なにぶん時間ばかりは君よりも倍近く生きているから。 見てきた物もきっと君とはまるで違うだろう。 笑顔の下で腹を探り合う宮廷の世界を。 甘やかな言葉が彩る虚構の恋を。 それなりに楽しんできた。 だからあの時まで、自分は多くのことを知っている『大人』なのだと思っていたよ。 そう・・・・ ―― 君に出会ったあの時まで あまりにも真っ直ぐな瞳を持った君。 幼い姫君だと思ったのは、ほんの僅かな間。 こちらの世界の女性では考えられないくらい短い髪を跳ね上げて、いつも駆け回る。 表情は心に従順で、見ているこちらが心配させられるほどに。 白雪、とそう呼んだのは戯れではない。 君は真っ白な降り積もったばかりの雪のように、柔らかく繊細でそれでいて深く美しい。 そう思えば思うほど、君に触れられないと心の何処かで声がした。 無垢で美しい神子殿に触れられるような男ではないと、私を糾弾する声が。 ・・・・けれど、不思議なものだね。 わかっていても、自分で自分を糾弾していてもなお ―― 君に惹かれる。 自分でさえも知らなかったような、喜び、憤り、楽しさ、苛立ち、そして本気を知る。 本気で君を愛おしいと思う。 本気で君が欲しいと思う。 だから、真っ白な白雪の柔らかな髪に触れ囁く。 「神子殿」 「か、からかわないでください!」 ぱっと頬を染める君を見つめて、余裕じみた顔の下で私が何を想っているか、君は知らない。 「ふふ、そんなに頬を染めた姿はまだ幼げだね。」 わざとそんな風に言うのは、そういうと君が少し悲しそう顔をするから。 そう、そういう感情に絡められていまうといい。 君に躊躇わず触れられる八葉(おとこたち)など見る余裕も無くなるほどに。 そうして 「早く、大人になりなさい。」 ―― 早く、汚れてしまいなさい 私が、君に釣り合うように・・・・ 赤く染まったあかねの頬をなぞった指先に、甘い痺れが残った 〜 終 〜 |