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ズシっと唐突に背中に重みがかる。 「?」 突然の加重に、一瞬だけ胡座の上に乗せて読んでいた雑誌の方へ体勢が傾いた知盛だったが、すぐに持ち直した。 そして振り返りもせず、雑誌の続きに目を落とす。 なにせ、知盛にこんな事をする人間はこの部屋に・・・・というか、たぶんこの世界に一人しかいない。 振り向かなくても背中に当たる感触で想像がつく。 背中合わせに寄りかかっているのだろう。 春日望美・・・・かつて知盛の世界だった京で龍神の神子と呼ばれ、現在は恋人である紫紺の髪の少女が。 だから好きにさせておく。 なぜなら、こういう時、望美は自分でない『知盛』を想っている事が多いからだ。 望美が救えなかったという『知盛』。 自分ではない、彼女と死線で剣を交えた『知盛』を。 好きに思い出させてやっているだけ、知盛としては大分甘いと思う。 だから、振り返らない。 一言で言えば面白くない。 たとえ望美がどんなに『知盛』と知盛が同じだと言おうとも、やはり自分の記憶にない事を思い出す姿は面白くないのだ。 これが『知盛』でない他の男だったとしたら即刻押し倒すのだが。 などと物騒な事を考えていたら。 ズシっと、また背中から重さをかけられた。 「おい・・・・」 珍しい望美の反応に、知盛は思わず声を出した。 こういう時の望美は大概寄りかかったまま無反応なのが普通だったから。 しかし振り返ろうとして、知盛は一瞬動きを止めた。 そして・・・・ 「・・・・クッ」 「何、笑ってるのよ。」 酷く面白そうに漏らした笑いに、望美の咎めるような声が飛んできてますます可笑しくなる。 (・・・・なんだ・・・・そういう事、か) 「ちょっと、知盛?」 グイグイ、と背中で押してくる望美の声は怒っている様に聞こえる。 ―― けれど、その中にある拗ねた響きを聞き逃すほど知盛は鈍感ではなく。 強引に体を半回転させると、支えを失ってバランスを崩した望美が小さな悲鳴を上げて知盛の膝に転がり込んできた。 その頭を上手く片手で受け止めて、覗き込む。 上下でかちあった視線に、知盛は口の端を上げた。 「俺に、構って欲しかったか?」 「なっ!」 目を見開いた望美が、みるみる赤くなるのを愉快な気持で見下ろす。 「違うのか・・・・?」 「ちが!・・・・わ、ない・・・・かも」 「クッ」 (本当に、退屈しない・・・・) 気が強いかと思えば、こんな顔をする時もある。 笑ってしまうほど、惹かれてやまないのだ・・・・望美というたった一人の少女に。 「〜〜〜いつまで笑ってるの!」 「これは失礼・・・・構って欲しかったんだったな。」 「〜〜〜〜〜〜〜そ、そうよ!構って!」 開き直って赤い顔のまま、そう言う望美に。 「・・・・御意」 未だ収まらぬ笑いを浮かべたまま、知盛はゆっくりと口付けを落とした。 〜 終 〜 |