10月23日のNHKテレビ放送によると、40〜50歳代の中高年の自殺が1万人と増えていると言う。年間の自殺総数3万人の3分の1の比率で、交通事故の4倍に当たると言うから驚く。まさに厳しい社会環境を反映しているようだ。
番組は、従来多かった自殺の背景を取り上げた番組ではなく、残された子供達の心の痛みにスポットをあてた内容だった。まず、自殺の親を持った為の「いじめ」である。見ていて何とも寂しく、許し難い気持ちになる。
それとは別に、父親の苦しんでいる状況を感じ取れなかった自分。何も話してもらえなかった自分。最も辛いのは、自分達家族ががそこまで追い込んでしまったのではないかの思い等、他人には話せない悩みを抱え込みながら生きる苦しみがそこにあった。本当に心が痛む。
11月27日の読売新聞では、中高年の自殺急増は、「出口の見えない長期不況」が背景であり、厳しいノルマ主義やリストラなど、職場での慢性化した緊張状態から、神経症になったり、うつ状態になる人が多いと指摘している。そして、病院の精神科医は、「自殺を考えている」と訴える患者が少なくないと言う。
とりわけ、打たれ強いと言われて来た、団塊の世代の増加が、統計に現れている。この年代は、組織で生き残る為の戦いが、リーグ戦<一度負けても次のチャンスがある戦い>から、トーナメント戦<負けたら後は無い戦い>に変わる年齢で、「団塊の世代 擦り切れる」というタイトルで記事が構成されていた。
これらを見ていて、10年程前に会った友人の話を思い出した。
今から約30年前に同じ職場で働いていた3人がソフト会社を設立した。発起人の社長は大変な行動派で、後を振り返らず何でもプラス思考の親分で、私もこの30年間、仕事を離れて大変親しくお付き合いをさせて頂いている。
そして、”石橋をたたく”慎重派で、人前に出ることは勿論好まない。何時も自分の事は後にするような人柄の友人が常務として、身を粉にして頑張っている。その友人が、どうしても今日は飲もう、聞いて貰いたい話があると言う。大変おとなしい性格の持ち主なので、こんなに積極的な誘いを受けるのは、大変珍しい事だった。
昔話に花を咲かせ、青春時代の歌をカラオケしていたら、他のお客さんはもう帰ってしまった。この、そろそろカンバンに近いと言う時間から友人の話が始まったのである。
設立当時は、社長にも気を配りながらも年下のもう一人と一緒で、一体感が感じられる充実したスタートだったと振り返る。そして、社長のバイタリティー溢れる活動は、まさにコンピュータ隆盛の流れを掴み、300名を越える会社に成長した。しかし、業績に併せ課題も急速に拡大し、実務の切り盛りをしている常務も、全てに対応でき無くなりつつあった。
徐々に社長とのスピードの違いからくるストレスも加わり、精神的な重圧に何時押しつぶされるかの毎日である。従業員の不満も直接・間接耳にし、大いに責任を感じる。時には、自分不在で方針が変わってしまう事への反発も沸いてくる。もう何年、この重圧の中の生活が続いているんだろう。
そんな日々を送っているうちに、潰瘍など体調不良で病院通いも多くなった。立場上、どんな事があってもきっちりしていた会社を、休む事も多くなる等から、自殺も頭の中で考えるようになってしまった。そんな中で、何とかしなければと焦り、カウンセリングを受けに病院を回り始める様になっていた。
そして、3つ目の病院を訪れたあの日、家族には心配を掛けないようにと、いつもの雰囲気で家へ帰ったが、奥さんのこわばった顔が玄関に待っていた。「あなた、どうしたの」と覗きながらの強い口調に驚いたが、落ち着いて話を聞くと、今日行った病院に奥さんの友人がいて、「貴女のご主人が診察を受けに来た」と連絡があったという事だった。
それほど悩んでいた事を全く知らなかったと、奥さんは電話を切った後から、涙が止まらなかったと言う。今まで、お父さんだけに頼っていて、どんな気持ちで仕事をしているのかさえ考え無かった。後悔の気持ちが一杯で、出来るなら直ぐにも会社に行って連れて帰りたい気持ちだったと言う。
「お父さん、私の田舎へ行こう。食えるぐらいの畑は、長男のお兄さんに頼んで必ず貰うから。子供達の勉強は私が見る。絶対しっかり育てるから。だから、田舎へ行って家族一緒に過ごそう」と、もう既に気持ちは決めていると言わんばかりの激しい訴えだった。何とも信じられない展開だったという。友人も涙。話を聞いている私も貰い涙。そして友人は決心した。決心しなければ女房にすまないと思ったと言う。
数日後、社長に辞表を提出したが、以前なら全く考えられなかった行動だったと、苦笑いを浮かべながら話してくれた。社長は大変驚いた様だが、「一時預かる。結論を出すまで、今まで通り続けて欲しい」と言われたそうだ。以降、何にもなく、今日になっているらしいが、会社では、言いたいことが言えるようになり、悩むことが少なくなったという。
世の中高年の男性、皆この様な奥さんと一緒なら大変幸せである。そして、いざと言う時の奥さんの有り難さ、家族の絆の大事さを教えているように思えるのである
この話は、社長には話さない約束をしていたが、今年、社長を退かれたので、勝手に解禁という事にした。
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