31  足が震えた  「多少の差、実は大きな違い」??
「足が震えた」体験が2つあるが、今振り返っても背筋が寒くなる。

1つは、多くの人が体験していると思うが、雨の中の運転での事である。
秋は日が落ちるのも早い。その日は雨の中で、始めたばかりのゴルフを楽しんだ後、私は仙台市を縦断して自宅に帰る途中だった。

上りの右車線はかなり渋滞していたが、私の走っている下り車線はゆっくりだが流れている。 雨は益々激しくなり、対向車のライトで見辛い中、普段よりはゆっくりの時速40km程で、車間距離も適度に取り,注意しながら走っていた。

突然、右側の車の間から黒い服を着た人が飛び出し、前の車との短い車間を横切ったのである。反射的に手はクラクションを押し、足は強くブレーキを踏んでいた。そして、目に入った光景はスローモーションで、完全に左ボンネットで引っ掛けてしまったと思えた。

次の瞬間、何事も無かったように、左の歩道を小走りに急いでいく人の後姿があった。ほんの僅かのタイミングだったろう。この時は、心臓が壊れたのではないかと思えるほど激しく鼓動し、ブレーキを踏む足は縦の震えが止まらなかった。10分ほどで落ち着いたが、無性に腹が立つと同時に、あの急停車に後ろから追突されなかった幸運とが混じって、複雑な気持ちだった。

2つ目は、海岸での出来事である。
長男がまだ小学校の時であるが、小児喘息気味で本人も色々と苦労していた。中でも、風邪に強くなろうと、風呂上がりに冬の冷たい水を浴び続けていたのには、感心していた。

咳で苦しむ事を思えば、震えるような冷たい水も耐えられたのだろうか。小学6年まで、仙台の寒い冬を薄いシャツと半ズボンで学校に行っていた為、大変珍しがられていた。
身内のお婆ちゃんからも、「服を買うお金がないのか!」と、冗談を言われた事もあった。

さらに、潮風が気管支を強くすると聞いたので、出来るだけ海岸へ遊びに行くことにしていた。子供達にとって、砂浜での遊びは格別楽しいもので、行楽と兼ねたものだった。

8月の終わり近く、今日も浜辺に遊びに来ていた。いつもの通り、二人の子供と一緒にひざまで海水につかって、波打ち際で遊んでいた。太平洋の海は、この時期を過ぎたあたりから波が高くなり、土用波として気をつけるように言われている。

20分程わいわい楽しんでいただろうか?フッと前を見ると、それまでに無い大きな波が直ぐ近くまで押し寄せてきた。「おお〜イ。大きいのが来たぞ〜」そう叫びながら、2人の手をしっかり掴んだ。

寄せる波は、今まで足首の上程度だったものが、ひざの下までになるが、少しフワッとする程度でそんなに危険は無い。

ところが、この波が帰っていく時である。一気に引いていく為、海水はひざ上になり、その上猛スピードで沖へ帰っていくのである。流されないように頑張って立っている足元の砂はどんどんえぐれ、股下まで海水に浸った。

子供たちの身体は海水の流れに押し上げられ、完全に水平になったまま、一所懸命私の手に掴まっている。例えれば、突風の中の鯉のぼりのような状態だ。

私は、両手で必死に二人を捕まえているが、子供たちが引っ張られる力に、1ミリmずつ手からずれ始めた。子供の手が肩から抜けるんでは無いかと思うほど必死で掴んでいたが、ついに握力の弱い左手から長男が外れて、沖に持っていかれた。

私は、とっさに右手の妹を抱き上げて、安全な後ろの砂に放り投げ、直ぐ長男が流された方向の海水を探した。腰までつかるところまで進んだが、子供らしきものは全く見えない。

次の波が向こうから私に立ちむかうように来た。兎に角、頭でも良い。足でも、手でもいいから、何か浮かんで欲しい。大きな声で子供を呼ぶが、だんだんうめき声のように変わっていく。そして、顔から血が引いていく感覚と、頭が真っ白になる状態を始めて体感した。

次の瞬間、後ろで妻の大きな叫び声がした。「お父さん。後ろ後ろ」。振り帰ったその目に、長男がころころ転げ、10m程左後方の砂浜に打ち上げられている光景があった。全身の力が抜けるのと、身体が小さく震えるのが同時に来て、へなへな倒れこんでしまった。

おそらく早い時期に手が放れていたら、海中に引き込まれたと思うが、手が放れたのが遅かった為、次の波に乗るような形で上に押し上げられ、更に次の波で浜辺に運ばれたものと思う。あの時の、手が抜けそうになりながら頑張った時間が、助かった要因だったと思っているが、、一瞬タイミングがずれていたらと思うと、やはり寒気を感じる、忘れられない出来事だった。

この外にも、幾つか危なかった思い出が在るが、僅かの違いで【大事に至らず】に、ここまで来れている事を、今は感謝している。



               ティ・タイムへ           M310topへ

     雑感


01/10/14