出雲湯村温泉(いずもゆむらおんせん) 島根県大原郡木次町
某月某日、朝9時に電話のベルが鳴った。寝ぼけ声で受話器を取ると十数年来の友人からだった。数日前にその友人K氏とC氏の三人で温泉に行く約束をしていた。場所はまだ決めていなかった。とはいっても、K氏とは電話で岡山県の温泉(リフレッシュセンター?)に行こうかなどとは話していた。取り敢えずいつものようにその時の気分で東に行くか西に行くか、北へ行くか南に行くかを決めようかと思い、電話は早々に切って出発の準備をした。 予定では昼12時までにK氏宅へ着くはずだったのだが、途中の渋滞から少し遅れてしまった。早速K氏宅にてネット検索でどこかいいところがないかと温泉サイトを彷徨っていたら、ある個人HPに出雲湯村温泉という文字があった。どんなところだろうと覗いてみると、簡単な旅行記というか温泉巡り日記の様な体験談が載っていた。その中の「湯で人が来る古湯」といった様なことが書いてあった。何かインスピレーションの様なものを感じて、目的地をそこに決めた。 K氏の所用にて寄り道をしながらC氏宅へ向かうと、時計は既に15時を指していた。どこの温泉に行くの?などと雑談を交わしながら少しお邪魔をして、C氏の飼い主に「本当に出雲湯村に今から行くの」などと言われながら三人で出発した。我々の旅はいつもこうである。計画性が全くなく、その時その時で取り敢えず行動してしまう。 C氏宅のある福山市より国道182号線を北上し、東城町の町並みを抜けて国道314号線を更に北上した。東城町といえば、以前レポートした「東城温泉」のあるところだ。時間的にはこの温泉に入って帰るのが日帰りのコースなのだろうが、我々は何故か「出雲湯村」という場所に惹かれて温泉施設を横目にして通り過ぎた。ヒバゴンの出るという西城町を抜けてファミリーゲレンデのある三井野原を抜け、おろちループを回り、更に更に北上すると、福山市から約2時間半、ようやく木次町に辿り着いた。 既に太陽は山の陰に沈んでいて辺りは真っ暗である。交差点に立っている看板を頼りに「出雲湯村」という文字を辿っていくと、国道314号線沿いに温泉施設が見えてきた。しかし我々が行こうとしているのはそこではなかった。K氏宅でみたHPによると川を挟んで元湯があるという。しかも温泉施設と呼ぶより、地元の共同湯といった場所らしい。国道沿いの施設を通り過ぎるとすぐに川を渡る橋に行く道があった。早速国道を右に逸れ、橋を渡ると更に暗く、本当にここに元湯があるのだろうかと思える程だった。 橋を渡るとすぐに川へ下りる様な道が続いていた。乗用車でもやっと一台が通れるくらいの細道であったが、ぽつんとひとつだけ灯りが見えた。低速で車を進めると、「湯の上館」という旅館の看板があった。間違いない、ここだ。その旅館を通り過ぎると駐車場があった。確か、川岸に露天湯があるのを思い出し、車を止めて川へ下りて行った。周りは真っ暗だったが、湯煙が少しだけ上がっている場所があった。湯加減はというと少しぬるかったので、そこへ入るのは断念をして、共同湯へ入ることとした。 |
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| HPによると共同湯の前の旅館で料金を支払うらしい。先ほど見えてた「湯の上館」の引き戸を開けた。愛想のいい女将さんが出てきて、一人300円だという。100円玉をそれぞれ3枚づつ出して早速共同湯に向かった。残念ながらHPで見た建物は改装中であったが、その横に厠かとも思える新しい小屋が建っており、ドアを開けると我々3人が入ると窮屈な脱衣所があった。 いざ脱衣所の引き戸を開けて浴場へ入ると、飛び込んできたのは岩風呂だった。そして木桶と湯汲み兼洗い場。湯汲み場は家畜小屋で餌を入れる箱のようなものがあり、そこに竹で出来た筒から湯が流れ注いでいた。まずはそこから木桶で湯を汲み、身体にかけると何故かホッとする気持ちを覚えた。そして湯船につかる。よく年配の人が口にする「あぁ〜」という言葉が思わずこぼれてしまう程、何故か落ち着く。 泉質は無色透明であるが、少し温泉独特のヌルヌル感がある。更に循環湯ではなく、湧き出す湯に湯船よりこぼれ落ちる湯。小屋の木の匂い。洗い場を入れても6畳ぐらいだろうか。湯船も大人5人も入れば一杯になるような岩風呂だが、妙に落ち着く。湯量もたっぷり首まであり、目線にちょうど小窓がある。その小窓を開けると川が見下ろせる。辺りは真っ暗だったが、冬の朝風呂に入ったらきっと川霧が立ち上り、更に温泉の湯煙が混じりあう、情緒のある風景になるだろうと容易に想像できる。 時間帯がちょうど夕食時だったせいか、我々3人の貸切状態でゆっくりと時間が流れていった。まさに「湯で人が来る」何も飾り気のない温泉である。こんないいところは人に教えたくないなと3人で冗談を言いながら最高の温泉を味わった。 残念だったのは日帰りであったことと、出発が遅れて景色をゆっくりと見ることができなかったことであるが、それでも充分に満足できる湯であった。今度は愛想のいい女将さんのいる「湯の上館」に宿泊をして朝風呂、昼風呂、夕風呂と十二分に温泉を堪能し、ゆっくりとしたいところである。
しかし、我々の旅はこれで終わらなかった。C氏の飼い主には内緒にしようと思ったが、来る途中にK氏お薦めの蕎麦屋があり、帰りに食べて帰ろうかといっていたが、温泉を堪能している間になんと閉店してしまっていたのだ。(食べてないのだから許してくださいね>C氏の飼い主さま)仕方ないので、我々は温泉の余韻に包まれ、車のガラスが曇る程温まった身体で帰途に着いたのである。 最後にC氏宅へ到着後、C氏の飼い主さまが用意しておいてくれた夕食を食べてこの旅の締めくくりとしたのだ。(どうもご馳走さまでした。おいしかったです。) |
photo:koba
script:yoshhin