メキシコシティのソカロ(中央広場)は、コルテスが征服・破壊したアステカ文明の湖上都市テノチティトランの上に、その建造物の壁や土台で造られた国立宮殿(大蔵省と大統領官邸)や西半球最大の大聖堂などが建てられてできている。国立宮殿はパスポートの提示が必要なので、必ず持参すること。
そのソカロで、青年がパントマイムをやっていた。一人二役でプロポーズのジェスチャーをやっている。大勢の人の輪は笑いの渦だった。彼は、それを観客にもやらせようと、人選を始める。これまた、誰が選ばれるか楽しい期待にボクらは包まれる。ある女性が腕を引っ張られる。彼女は恥ずかしそうに断るそぶりを見せながらも、どうやらやってみる意志がありそうで、仕方なさそうに歩み出た。今度は男性役を引っぱり出そうと、青年が観客から男性を選び始めた。kurochanのすぐそばを通り過ぎようとしていた若い男の腕を、青年はぐいと引っ張った。この時だった。若い男は、キッとにらみ返し、懐から拳銃を出して青年に突きつけたのだ。笑顔で青年の動きを追っていた観衆も、固まってしまう。kurochanは、すぐそばにいたので、凍り付いてしまったね。下手をすれば、青年が危ない。銃口はこっちに向けられるかもしれない。若い男は、その後すぐに立ち去ったが、さすが、というか、その前年に大統領が射殺されたという、メキシコのソカロの一幕だった。
さて、国立宮殿の内壁にはスペインの侵略について壁画が一面に描かれており、戦争責任を認めようとしない日本との違いを見せつけられた。メキシコの場合は歴史的立場が違うけどね。まあ、現在のマヤ民族のおかれた状況を描いていれば文句ないんだけど。国立民族学博物館でアイヌ民族展があったときも、見事に和人の侵略の歴史が隠されていた。本当の愛国精神とは、歴史に目を閉ざすこととは違うはずなのに。小林よしのりもかつては『ゴーマニズム宣言』で、成田空港に、南京大虐殺やバンザイクリフの壁画を描くべきだ!と言っていたのになぁ。よしりん最近へんだよ!せっかく楽しいマンガをみんな楽しんでいたのに、いきなり銃口を向けられたみたいだよ。
ところが、大聖堂の横ではエロ本がバンバン売られててビックリ。沖縄のひめゆりの塔の前にある米軍払い下げの迷彩服屋に群がっていた観光客に感じた思想性の無さと、どちらがましかは分からないけど。
また、巨大な教会に入ってみて、その威容な壁画やキリスト像・マリア像、ひざまづく人々を見ていて、教義以上に偶像が大衆には意味を持つのではないか、そして子ども心や歴史認識に重大な影響を及ぼさざるを得ないのではないかと、おののいてしまった。かつてシスティナ礼拝堂でも動けなくなったkurochanだが、それはミケランジェロの仕業以上のものがあったのだろうか?
【1996年度添上高校生徒会通信に連載】2001-2-22大幅加筆