言葉が通じなくても、ジェスチュアでけっこう何とかなるものだが、ジェスチュアが通じないのが、電話なのである。俺が初めて外国で電話をしたのは、韓国の太田(テジョン)市でだが、バスで知り合った男子大学生のチョ=ヒョンソンくんを、翌日呼び出そうとした時だ。
その前に、韓国の公衆電話の使い方だが、例えば100ウォン硬貨を入れて通話し終えて、お釣りがあっても、受話器を掛けないのがマナーなのだ。というのは、一時通話停止ボタンがあって、これを押して受話器を電話機の上にのせておくと、次の人がそのお釣りの分でまた別の人に電話をかけられるのだ。お金がたりなくなったら、その人が追加する。日本で言えば、100円玉を入れて、10円だけ通話しても、そのままボタンを押して、お釣をとらずに立ち去り、次にその電話を利用する人は、ボタンを押すだけで90円分まで通話できるというワケなのだ。だから、公衆電話があって、受話器が上に乗せてあれば、タダで電話できるわけだ。韓国にもテレカがあるけど、旅行者にとれば、この「マナー」がとても助かるし、俺は韓国のそんなところが好きだなぁ。
さて、チョ=ヒョンソンくんに電話する時、日本語ができる本人が出るとは限らない。「もしもしチョヒョンソン氏のお宅ですか?私は日本から旅行中の☆☆というものですが、ヒョンソン氏は御在宅でしょうか?」と、ジェスチュア抜きで話さなければならないのである。これは、やっぱり大変だぞ。面と向かって会話しててもなかなか通じなかったりするのだから、電話はやっぱり難しい。朝鮮語については俺も習いに行ってたことがあって、この時も一応ヒョンソンくんを呼び出せたけど、それでもオモニ(お母さん)相手にドキドキだった。
また、飛行機のリコンファーム(予約確認)の電話も大変だ。パックなら旅行社が代わりにやってくれるが、気ままな一人旅では、飛行機の搭乗確認を72時間前(3日前)とかにしないといけない(これが必要ない航空会社もある)。これをしないと、キャンセル待ちの人に座席をまわされて、搭乗できなくなるおそれがある。高い航空料金も戻らない。
俺の知人で猿好きのおじさんが、中米ニカラグアから日本に帰る時、このリコンファームを忘れて、座席を失ってしまい、日本行きの飛行機がなくて、途方に暮れ、ともかく太平洋を渡ろうということで、ソウルに一旦飛び、やっとついた名古屋空港でもトラブって、ヒヤヒヤの帰国だった、ということだ。メキシコに行くときも、その人に「kurochanもリコンファームだけはちゃんとしときや!」と言われていた。
リコンファームはそれほど大事なんだ。直接空港へ行ってチケットを見せれば何ということはなくすむんだけど、これが電話だと、やっかいなのだ。格安チケットを買いつないでのメキシコ旅行だったので、USAのダラス=フォートワース空港へ帰りの便のリコンファームの電話した時。受話器の向こうで女性の空港職員が早口の英語でペラペラと喋るので、搭乗することが確認できたのか、ひょっとしてキャンセルしてしまったのか分からなくなってしまった。ごっつ不安になって、再度片言の英語で確認するが、またしてもペラペラ・・・・。・・・・?
やがて、こっちが分かってないということに気づいてくれたんだろう。彼女は「Good Night!」と言ってくれる。「心配しないでいいのよ!」という意味だろう、とは思いつつも、悪く解釈できないこともないと考えると、不安はつのるばかりだったけど、「わからん!え〜い、しゃあないわい!」と割り切ることにした。
【1996年度添上高校生徒会通信に連載】2001-2-9加筆