作者:DOTEさん


 タイトルリスト
 ・ヤンキーシスター編
 ・ギタリスト編
 ・風邪編


  〜妹劇場 ヤンキーシスター編〜

「このクソ兄貴! 死ね! 二度死ね!」
 私は怒髪天を衝いていた(今時言わない)。
 なんと、気が弱いけど優しいと思っていた兄貴の部屋に、私の下着が置いてあったのだ!
「いや、違う、違うんだよ、これにはいろいろと訳が……」
「なにがいろいろだ! このエロエロクソ兄貴が!」
「上手いことは上手いが不自然だから40点」
「うっせー! 黙れこのハゲオタ!」
「ハゲちゃいないぞ……」
「黙れっつってんだよ、下着泥棒めが!」
 私は棚に置いてあった辞書を手に取ると、そのまま兄貴に投げつける。
 しかし、兄貴は高校卒業証書の入った筒で辞書を弾いた。
 元野球部なんてその場しのぎの設定にしやがって!
「ふふふ、勉強不足だな妹よ。これが限定ボックス版おくさまは女子高生(定価2700円)だったりしたら、お兄ちゃんは受ける他なかっただろうに」
「なんでテメェの勉強なんてしねぇとなんねーんだよ!」
 兄貴の余裕げな態度にキレた私は、ベッドの上に座った兄貴に直接殴りかかった。
 肉の感触が拳で弾け――ない。
 なんと、兄貴は私の腕を掴んでいたのだ。
「忘れたか妹よ。お兄ちゃんは空手の道場に通っていたということを」
「なんだその取って付けたような設定は!」
 怒鳴り散らす私に、兄貴はゆっくりと覆いかぶさってきた。
 まるで、恋人を抱きしめるように……ってええええっ!?
「どうした、顔が真っ赤だぞ妹よ」
「ど、ど、ど、どうしたもなにも、な、何やろうとして……!」
「何をやろうって、ナニをやるに決まってるじゃないか」
「☆□△××!?」
「こういうノリにからっきし弱いのは、子供の頃とかわらないな」
 兄貴は私の首筋に顔を寄せると、一瞬だけ口付ける。
「ひゃっ!?」
「いつもは気の強いこと言ってても、こうなると可愛らしいじゃないか」
「う、うるさい!」
「体は正直じゃぞ〜、かっかっかっか」
「バカ……あ……」

 おわり。

  〜妹劇場 ギタリスト編〜

「兄ちゃん、付き合ってくれない?」
 いきなり部屋に入ってきた妹は、開口一番そう言った。
「つ、付き合う!? いきなり何を……」
「バカ。変な意味に取んないでよ。ギターやってって言ってるの」
「はいはいさいでっか」
 俺は苦笑しながらベースを受け取り、譜面に目を通す。
「パイプライン……レトロな選曲だな」
「遅れてるわね〜、時代はランナウェイよ! ダイアモンドヘッドよ!」
「さすが我が妹、流行り廃りに惑わされないのは立派だぞ」
「えへへ〜照れるにゃ〜」
「いや、褒めてないし」
 早速ギターを始める二人……しかし、妹のギター捌きの下手さ具合に脱帽。
「お前……ピック持つ前にクラシックギターで練習しろ」
「そんなのやだ! エレキがいいの! 松本なの! HISASHIなの!」
「ギターやんならエリッククラプトンとか聞けよ……」
 俺は妹の背中から手を回すと、ギターの基本を教えにかかった。
「まずは簡単なコードを覚えてだな……」
(ん?……この匂い、シャンプーの匂いか。いい匂いだな。くんくん)
「や……やめて……」
 いつの間にか妹の首筋を嗅いでしまっていたらしい。
 妹が顔を真っ赤にしている……ムム、これはかわいい。
「わかるか? FからGに変えるときは……」
「や……っ……あ……」
「話を聞いてるのか? 妹よ」
「そ、それは……」
「仕方ない……お仕置きだな」
 肩から妹の顔を見上げ、俺は不敵に笑む。
 妹の唇は半開きになっていた……

  おわり。

  〜妹劇場 風邪編〜

「お〜い、大丈夫か〜?」
 俺はノックもそこそこに、妹の部屋に入る。
「バカ、確認ぐらいとってよ」
「すまんな。荷物が多くて余裕がないんじゃ」
 ベッドの傍らにある椅子に腰掛けると、机の上に荷物を置いた。
「まずポカリ。これは暇あったら飲むべし。熱があると水分すぐ無くなるから、ちょっと多めぐらいまで飲んじゃって結構。
 あと塗れタオル。これ干しとくだけで、寝起きの喉の具合が全然変わる。一枚あれば二日持つけど、とりあえず明日、俺が替え持ってくるわ。
 次にリゲインと薬。どっちも食後に飲め。
 最後にうどん。麺が延びる前に食いな。ネギは残すなよ」
「あ、ありがと……すごいね。風邪博士だね」
「任せろ。伊達に虚弱体質やってない」
「そりゃ自慢じゃないっしょ」
 上体を起こした妹に、うどんをトレイごと渡す。
「誰が作ったの?」
「俺だよ。わりぃか」
「ううん。そんなことない」
 ずずずずず〜……と、妹がうどんをすする音が部屋を満たした。
「なんだ、遠慮してんのか? そんなかわいい食べ方しないで、普通に食えって」
「バカ。これが普通なの。お兄ちゃんと違うんだから」
「あ、ネギついてんぞ」
「な……!」
 俺は指を妹の頬に当て、ネギを取ると、それを自分の口に入れる。
 妹はそれを見て言葉を無くした。
「どうした? 熱がひどくてバカになったか?」
「ち、違うよ! 私の口についたネギなんて食べたら、風邪移っちゃうってば!」
「あ、そっか」
「そっかじゃないよ! 早く戻して口ゆすがないと!」
「も〜飲んじったもん」
「駄目だよ! 私のせいで風邪になっちゃうなんて……」
「なに? 心配してくれてんの?」
「当たり前でしょ? 私のせいでお兄ちゃんが風邪になっちゃったら悪いじゃない」
「いいよ。お前の風邪だったら」
「え……?」
「うつしたら早く治るんだろ? お前が風邪で寝込んでるぐらいなら、慣れてる俺が風邪ひいた方が、世のため人のためってもんっしょ。それに、そうなったらお前に看病してもらうし」
「なんでそんな風に……」
「看病してくんねーの?」
「そりゃーするよぉ……でも……」
「……かわいいとこあんじゃん、お前」
「バカ! もう知らない!」

 〜妹劇場 風邪編2〜

「入るよ〜」
 その声が聞こえた途端、部屋の扉が開けられた。
「断りぐらい入れろよ」
「お兄ちゃんに言われたくないっつーの」
 色々と荷物を手にした妹は、俺のベッド脇の椅子に腰掛けると、勉強机にそれを置く。
「はい、ポカリに濡れタオルにパブロンにゼナ」
「助かる」
「助かるじゃないわよ。こうなるってわかってて、なんであんな事したかな〜」
 俺は風邪だった。
 そして、その感染元は目の前にいる妹だ。
 しかしこの場合、妹が悪いわけではなく、妹の口元についたネギを食ってしまった俺が悪いのだが。
「油断したな」
「油断じゃないわよ。私は注意したんだからね。恩に着せないでよ」
 妹の口調はきつかったが、濡れタオルをハンガーに干したり、部屋の掃除をしてくれたり……いい妹を持った、と今さら実感する。
「そーいえば、うどんは?」
「今、作ってるわよ。そういうのって、私から言い出すのを待つものじゃない?」
「腹が減っててたまらんのだ」
「もぉ……味でとやかく言わないでよね」
 妹が台所から持ってきたうどんを、早速食べにかかる。
「ん、旨いでない。いいお嫁さんになれるぞ」
「うどんなんて、麺ゆでて麺汁入れるだけでしょーが。大体、お兄ちゃんも作ってたでしょ」
「あ、そうだったな。じゃ、俺もいいお婿さんになれるな」
「そうね。風邪の時にうどん作ってくれる旦那って、結構ポイント高いと思うよ」
「お前的にどうだったよ、俺のうどんパフォーマンス」
「パフォーマンスって……まあ、いいんじゃない。きっと、女の子は喜ぶよ」
「女の子じゃねーって。お前に聞いてるの」
「わ、私?」
「そーだよ」
 頬を桜色に染めながら、自分の顔を指差す妹……なかなかカワイイではないか。
 まあ、これが兄バカというものなのだろうが。
「私は……うん、嬉しかったよ、普通に」
「普通にって何だよ」
「普通は普通。別に変な意味はないんだから」
「変な意味って何ですか〜? 教えて教えて〜」
「バカ……っ!」
 頭を押さえて嘆息する妹……その手を、俺が不意に握る。
 交差する視線――しかし、妹はすぐに視線をずらしてしまう。
「こっち見ろよ」
「イヤ」
「こっち見ろって」
「ちょっ、や……」
 妹の頬に俺の手をあて、無理矢理こちらに顔を向かせる。
 そうしてやっと、妹は俺の顔を見る。
「どーした? 顔が真っ赤だぞ」
「か、風邪がぶり返しただけよ」
「それだけ?」
「当たり前でしょ」
「ホントに?」
 ゆっくりと、顔を近づけてゆく。
「ほ、ホントだって!」
「耳まで真っ赤だぜ」
「や……」
「かわいいな、お前」
「……風邪……また移っちゃうよ……」
「一度ひいた種類の風邪は、免疫できて絶対ひかねーんだよ」
「ダメ……」
「もう遅い」
 唇を交わす。
 妹の唇はとても熱く感じた。

  妹劇場 〜風邪編3〜

 父は長期の単身赴任、母は一日中パチンコ三昧。
 そんな家庭に育ったから、俺と妹は一般的な兄弟なんかより、ずっとお互いを理解していた。
 俺は体力はないけど色々と物知り、妹は要領が悪いけど手先が器用。
 いつでも俺が妹の手を引いて、面倒なことを押し付ける。
 そんな関係だったので、妹の口調はだんだんとキツくなった。
 でも、妹が困ったときは、いつでも俺が助けてやった。
 算数の点数が上がらない時、同級生にいじめられた時、友達と喧嘩してしまった時、高価な絵画にダーツを刺してしまった時……
 妹は困ったことがあると、すぐ俺に頼ってくる。
 同年代の奴らよりませていた俺は、どんな時でも妹に的確なアドバイスをしてやった。
 さすがに初潮の時は、俺も混乱したものだったが……とまれ。
 俺たちは他の兄弟みたいに、いがみあうような関係にはならず、本当に仲のいい兄弟として育ってきた。

 去年の春、妹が中学校に進学した時の事だ。
 その時、俺は中三だったが、中高一貫の私立に通っていたため、至極まったりとした日々を送っていた。
 対して妹は公立の中学。
 親には親なりの経済事情があるのだろうが、自分の立場の気楽さ具合を承知していた俺は、妹を憐れに思った。
 不良の多い学校で有名だったし、親とはほとんど別居状態となっている環境だけに、非行に走らないとも限らない。
 それ以降、俺は妹の世話をいつも以上に焼くようになった。
 それが春のこと。
 いつからだろう、妹のことを意識しはじめたのは。
 確かなことはわからない。
 ただ現実として、年を越して一月となった今、俺と妹はキスまでする関係となってしまった。
 勢いだったとはいえ、妹もまんざらでもなかったようだ。
 これから俺はどう振舞うべきか……俺は病床につきながら、そんなことをぼんやり考えていた。
 止まりそうになかった。
 はちきれそうなほどの、この胸の鼓動は。

 〜妹劇場 風邪編4〜

「彼氏できたの」
 突然だった。
 二人とも風邪が完治し、期末試験の勉強を始めるかどうかを決めかねる頃。
 居間で夕食をとっていた俺に、学校から帰ってきた妹が開口一番そう言ったのだ。
「……は?」
「彼氏が出来たの。手芸部の先輩」
「……手芸部の彼氏?」
「そう。メチャメチャ格好いいんだから。どこかの誰かさんみたいに、麺汁臭いキスなんてしない優しい人よ」
 マフラーと手袋をテーブルに置き、ハーフコートを脱ぐ妹を眺めながら、俺はやっと状況を理解した。
 つまり、妹に彼氏が出来た……ただそれだけの事なのである。
 一般的に見るならば。
「手芸部で格好いい先輩ねぇ……なんというか、個性が溢れてそうだな」
「父親が証券会社の支店長で、母親は日舞の先生なんですって。趣味は読書と音楽鑑賞、最近はボードレールと吉田兄弟がマイブームらしい」
「やけに詳しいな」
「だって彼氏ですもの」
 不自然。
 親よりも妹との付き合いが長い俺は、それを敏感に感じ取っていた。
 焦っている……いや、避けている、といったほうが正しいか。
 まるで、俺との関係に一線を引くために、慌てて彼氏を作ったような……まあ、自分本位に考えすぎかもしれないが。
「ずいぶん急だな」
「別に。同じクラブだったし、よく話しもするし。お兄ちゃんと同い年だから、話も合うしね」
 同い年。
 学校の先輩と聞いた時点で、それは十分に予想できたことだった。
 そんなのわかっている――それでも。
 その言葉を聞いた途端、俺は立ち上がっていた。
 妹を見ると、目を丸くしながら言葉をなくしている。
「当てつけか?」
「な、なにが……」
「はぐらかすなよ」
 俺は妹に歩み寄る。
 妹はあとじさるが、壁に阻まれ動けなくなった。
「や、やめてよ、大声出すわよ」
「出せばいい。その代わり、俺は歯止めが利かなくなるぞ」
 息がかかる程度まで詰まる距離。
 妹は視線を床に落としながら、喉を上下させた。
「来ないで」
「こっち向け」
「ちょっ、やめてよマジで!」
「こっち向けよ!」
「っ――!」
 俺は妹の顎を掴み、無理矢理こちらを向かせた。
 勢いに任せていた、この前とは違う。
 俺は明らかに、妹に恐怖を与えている。
「逃げんなよ」
「いや……ダメ……」
「ダメじゃない」
「ダメに決まってるじゃない! だって、私達兄弟なのよ?」
「わかってる」
「だったらこんなの……!」
「わかってんだよ!」
 唇を寄せながら。
「ダメ! こんなの異常なんだから!」
「仕方ない」
「今ならまだ……!」
「手遅れだ」
 唇をあわせ、舌を突き入れる。
 妹は初めこそ抵抗したが――やがて、向こうからも舌を絡めてきた。
 唇を離す。
 妹は頬に雫をつたわせながら、噛み切るようにつぶやいた。
「もう……もう、何もかも遅いんだから……!」
 言いながら、俺の首に両手を絡めると、今度は妹のほうから口付けしてくる。
 俺は、妹の小さな体を抱きしめた。
 妹の胸は俺の胸と同じように、激しく鼓動していた。

 〜ツヅク〜