中学一年生のモモちゃんには、悩みがあります。
……え? 中学生なんだから、悩みくらい誰でもあるですって?
確かにモモちゃんには、同級生に比べると背が低いことだとか、胸の大きさが足りないことだとか、運動が苦手なことだとか、色々あります。
でも、それだけじゃないんです。
今、一番の悩みは……お兄ちゃんのことなのです。
「ただいま〜」
夕方になって、今日もモモちゃんは家に帰ってきました。
「あっ」
玄関には、女の子用のかわいらしい靴が置いてあります。でも、モモちゃんのものではありません。
「まさか……」
モモちゃんは急いで家の中に入りました。
すると……。
「あ、おかえりー。モモちゃん」
「おかえり、モモ」
居間にいた二人が、モモちゃんに声をかけます。大好きなお兄ちゃんと、最近隣に引っ越してきた、従兄弟のメイちゃんです。ちなみにお兄ちゃんは大学二年生で、メイちゃんはひとつ年下の、小学六年生です。
「メ、メイっ」
モモちゃんは、ぷるぷると震える手で、メイちゃんを指差します。
「あ……あんた、何してんのよっ」
「んっとね〜、お兄ちゃんのお膝にね〜……座ってるの。てへっ」
メイちゃんは照れくさそうに笑うと、お兄ちゃんにぎゅっと抱きつきました。
メイちゃんも、モモちゃんのお兄ちゃんのことが大好きみたいです。
「わーっ、わーっ、わーっ」
でもそれが、モモちゃんには許せません。
なぜなら……お兄ちゃんに甘えていいのは、自分だけだと決めているからです。
「やめなさいよ、メイちゃんっ。お兄ちゃんに迷惑でしょっ」
「そんなことないも〜ん。ね?」
「ね〜?」
メイちゃんに抱きつかれて、お兄ちゃんも嬉しそうです。ちょっとにやけてます。
「もうっ、お兄ちゃんたらっ」
モモちゃんはぷんぷんです。
モモちゃんには、お兄ちゃんが嬉しそうな理由が、ちゃんとわかっていました。
「ねえねえ、お兄ちゃ〜ん」
メイちゃんはますます甘えた声を出しています。
「メイね〜、またおっぱいが大きくなったみたいなの〜」
「へえ〜、そうなんだ。それはいいことだね〜」
にこにこするお兄ちゃん。
メイちゃんの胸が押し付けられて、気持ちよさそうです。
大学生と小学生が抱き合っている姿は、ちょっと危険なにおいがします。
「も、もうっ。やめなさいよっ」
モモちゃんは、二人の仲のいい姿を見せられて、我慢ができません。
でも残念なことに、お兄ちゃんは既にメイちゃんのおっぱいに誘惑されています。
そうなんです。お兄ちゃんは、女の子のおっぱいが大好きなのです。
お兄ちゃんによると、「おっぱいは男のロマン」なのだそうです。
それならモモちゃんもおっぱいで誘惑すればいいのですが、残念ながらボリュームがたりません。お兄ちゃんは大きいおっぱいが好きなのです。
モモちゃんは最近、ようやくブラをつけ始めたばかりなのですが、メイちゃんは何と、既にCカップもあります。
「ずるいずるいずるい〜っ」
メイちゃんを指さし、モモちゃんは悔しそうに言います。
「何でメイばっかり大きくなるのよぉ〜っ」
お母さんは「モモもそのうち大きくなる」と言っていますが、お母さんも胸が小さいので、信用できません。それ以前に、自分の将来が見えたような気がして、モモちゃんは余計に落ち込みました。
「もう……モモちゃんは子供っぽいなあ」
しょうがない、というように首をふるメイちゃん。
身長ではぎりぎり一センチ勝っているだけに、胸で十センチ近くも負けているのは屈辱的です。しかも年下に子供っぽいと言われてしまいました。
「子供っぽくてもいいもんっ」
モモちゃんはお兄ちゃんをとられたくないので、なりふりかまっていられません。
「お兄ちゃんっ」
「な、なんだい?」
モモちゃんの迫力に、お兄ちゃんも少々押され気味です。
「お兄ちゃんは、わたしのお兄ちゃんなんだよ?」
「そ、そうだな」
「だから……お兄ちゃんの責任として、わたしをかわいがってくれなきゃダメなんだからっ」
モモちゃんはそう言うと、メイちゃんを押しのけて、お兄ちゃんに抱きつきました。
「わわっ」
お兄ちゃんは後ろに倒れてしまいます。
お兄ちゃんを押し倒す妹というのも、なかなか背徳的です。
「ダメ〜っ。メイもメイも〜っ」
メイちゃんはすぐに起き上がって、もう一度お兄ちゃんに抱きつきました。
「お兄ちゃ〜ん」
「わたしをかわいがって〜」
モモちゃんとメイちゃんは、二人でお兄ちゃんを取り合います。
お兄ちゃんの立場からすると、嬉しいけれど困った状況です。
でも、モモちゃんのお兄ちゃんはスケベでした。
「!」
「?」
二人は弾かれたように顔を上げ、お互いを見ます。
下のほうを見ると、二人の胸を、お兄ちゃんが揉んでいます。
「よしよし。二人同時にかわいがろうじゃないか……ぐふぉあっ」
スケベ丸出しのお兄ちゃんに、モモちゃんとメイちゃんのアッパーカットが決まりました。見事な同時攻撃です。
「な、なぜ、いつもこうなる……がくり」
お兄ちゃんは力尽きました。
「お兄ちゃんのエッチ」
「スケベっ」
二人で顔を真っ赤にしています。
どうやらかわいがるというのは、おっぱいを揉むのとは違うようです。ある意味、当然なのですが、おっぱい大好きなお兄ちゃんには伝わっていないみたいです。
「ねえねえ、モモちゃん。宿題あるんだけど、教えて? 今日のは難しいの」
「うん、いいよ。じゃあ、一緒にしよっか」
メイちゃんのお願いに、モモちゃんもにっこりします。
お兄ちゃんが絡まないときは、仲がいいのです。
「ところで……ねえ、メイちゃん」
モモちゃんは、急にもじもじして言いました。
「おっぱいを大きくする方法って……ないかなあ?」
「じゃあ、宿題が終わったら、そっちも考えようね」
「うん。ありがとう」
二人は笑顔で階段を上っていきます。
今日も大好きなお兄ちゃんを誘惑する相談をするのでしょうか。
でもケンカにならないのが不思議です。
お兄ちゃんだけが、少し哀れです。
「あ、白だ」
階段の下で、お兄ちゃんは呟きました。
やっぱり哀れじゃないです。
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