●賑やかな夜

 夜、歩いていて気づくことがある。普段なら到底聞こえないような遠くの音や僅かな音が聞こえてくるのだ。耳を澄ませば本当に色々な音に気づく。国道を走るトラックの音、貨物列車の規則正しいジョイント音、高圧電線を吹き抜ける風の音。夜の静寂は普段なら聞こえない、気づかない音を主役にささやかな活動をしている。

 子供の頃から私はこの音がとても好きだった。夜になると部屋を抜け出して近くの広場や河原で耳を澄ませていた。2km以上離れた国鉄の線路から聞こえる音は幼い私の心を捉えて放さなかった。貨物列車やブルートレインなど、日常では行くことのできない所へ向かう列車がこの闇の向こうに走っているのかと思うとワクワクした。いつかはあの列車が向かう所へ行ってみたい、ずっとそう思っていた。

 今でも夜に出歩くのは好きだ。きらびやかな灯りに飾られた夜の街は、なにか違う世界に来たような気になって楽しい。酒を飲みベロベロになって家路に向かう途中、ふと遠くから響く懐かしい音に気付いてしばらく聞き入ってしまったりする。夜の闇の中には私の密かな楽しみが隠されているのだ。夢を生み出す音の競演、今日も「静かに」繰り広げられている。ちょっと耳を澄ませてみませんか、ほら、聞こえてくるでしょ・・・





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