記事タイトル:管理人の新作:改 


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お名前: シャディー   
この作品の続編を執筆中、ぶっ倒れてしまいました・・・(苦笑

<背徳の翼:前編>
 
これは人間と、異種族が共存していた国、『ミラージュ』での物語である。
その異種族達は「翔族」(しょうぞく)と呼ばれ、
姿形こそ人間とそっくりだが、その背に翼を生やしている。
翼には強大な魔力が秘められており、自由に空を駆け回ることができた。
身体能力でも、人間のそれを圧倒する。また彼らは長寿であり、
1個体あたりの平均寿命は400〜500年とも言われている。
 
そんな翔族と人間が共存できたのは、彼らが自分達よりひ弱な存在である人間を、
決してないがしろにする事が無かったためである。
ミラージュの中で、翔族と人間は別々に街をつくり暮らしていたが、
両者の交流は盛んに行われていた。
そして争いが起こらぬよう、毎年人間の王と翔族の王が交代で国を治め、
長きにわたり平和が保たれてきたのである。
 
そんな時のことだ。
ある翔族の街で、大勢の翔族達が突然発狂して暴れ出すという、奇妙な事件が発生。
凶暴化は数時間でおさまったものの、その翔族に傷付けられた人間も現れ、
人々の間に大きな動揺が生まれた。
事件当時、国を治めていた人間の王は、これを何かの病と判断。
万が一人間へ感染してしまう事を恐れ、一時その街全ての翔族達を、巨大施設に収容することに決めた。
翔族らもこれに従い、数人を街に残して、殆どの翔族達がその施設に赴いた。
しかし、そこで彼らを待ち受けていたものは・・・・・・
 
<第1章 謀略>
 
「脱走者だ!!」
「翔族の男が2人、逃げ出したぞ!!」
 
人間達の怒号が飛び交う中、背に翼を生やした2人の男が、
風のように走り抜けてきた。
逃げながら、紅い翼を持った翔族が叫ぶ。
「くそっ、やはりこれは人間共の罠だったのかッ!」
「あぁ・・・待っていたのは人体実験だ。」
碧色の翼の翔族が答える。
「俺も確かにみたぜ、発狂した同胞から、
 機械のようなものを取り出すのを!」
「間違いない、あれで同胞を操っていたんだ・・・・」
 
紅い翼を持つ男の名はラヴァーン。碧色の翼を持つ男の名はラルクという。
2人は人間の手によって実験台にされる直前、拘身具を破壊し、
研究室から逃げ出したのである。だが施設の規模は大きく、
未だ施設内部から脱出できずにいた。
 
彼らは、分かれ道にさしかかった。
「どっちだ!?」
「・・・右は駄目だ、追っ手が来ている」
「それなら、話は早い!」
2人は左へ進路を取ると、それまで以上の早さで走り出した。
翼を持つ者の独特な走りには、並の人間では追いつけない。
 
「・・・陛下、いかが致しましょう?」
一人の男が国王に声をかけた。男の名はギュスターブ。この国の大臣だ。ひどく太っている。
「フフフフ、1人くらい余計に逃げても構わんさ。
 それにしても、実にいい逃げっぷりじゃないか。
 若さとは素晴らしいものだね」
答えたのは、国王ヴェルギス。高齢なようだが、その背は一切曲がっていない。
しかも、かなりの長身だ。
「お言葉ですが陛下、彼らは長寿です。見た目こそ若者ですが、恐らく、
 我々より100年以上は年をとっていることでしょう。」
「おっと、そうだったねギュスターブ君。」
ここは王城の一室。きらびやかな部屋には似つかわしくない、巨大な機械が幾つも並んでいる。
そして無数にあるモニター画面の1つに、懸命に逃げるラヴァーン達の姿が映し出されていた。
この機械のおかげで、王城から離れた場所にある施設の様子が、手に取るように分かる。
国王はモニターに映る2人の姿を見つめながら、冷たく微笑んだ。
「だが、100年以上生きていても、中身はまだ幼子のようだ・・・。
 自分達が逃げたのではなく、『逃がされた』のだということに、まるで気付かぬとは。
 無知は身を滅ぼすよ」
ヴェルギスは振り返ると、低く、しかし威厳のある声で言った。
「あまり施設内で迷われても困る。3番・4番ゲートを開けてあげようじゃないか」
「かしこまりました。」
そう答えると、ギュスターブは遠隔操作でゲートを開けた。
 
「・・・見ろ、ラルク! 向こうが出口じゃないのか?」
「罠かと思ったが、うむ、そのようだ」
「行くぜ!出口は近い!!」
勢い良く飛び出した2人は、月光に照らされる庭へと躍り出た。
「・・・・・・・・やったぞ! ここは、・・・屋外だ!!」
施設内で時間をくったものの、とうとう2人は脱出に成功したのだ。 
「・・・すぐに追っ手が来る。いったん、私達の街まで戻ろう・・・。
 幸い、ここから街はすぐだ。」
「あぁ・・・悔しいが、そうするしかないか。待っていてくれ、同胞達。
 必ず助け出してやるからな!!」
2人は街へ向け再度走り出し、暗闇の中、丘を駆け下りていった。
 
「俺もクサイとは思ったんだが・・・・
 まったく!施設に向かわなかった同胞達が利口だったぜ。」
「いや、ラヴァーン。どうやら、・・・そうでもないようだ・・・」
「何?・・・・・あッ!!」
ラヴァーンの顔が凍り付いた。彼らの街から、煙が上がっているのだ。
 
無我夢中で街に駆けつけた2人を待っていたのは、燃えさかる炎と、同胞達の骸だった。
「こ、これは・・・・・!?いったい、どうした・・・・・」
「・・・恐らく、私たちがいない間に、
新たに発病した同胞が殺し合ったのだろう。最初に発病しなかった者達の中にも、
密かに装置を埋め込まれた者がいたのさ・・・・健全な翔族を殺すことなど、人間にはできっこない。」
「・・・そうだ、アイリス!!アイリスは!?」
アイリスとは、この街に留まったラヴァーンの恋人の名だ。
「さぁな・・・・・この炎の中では、確認のしようがない・・・・どこかに非難してくれているといいが・・・・・」
ラルクは比較的冷静だが、ラヴァーンは怒りに震えていた。
「国王は・・・・・何故こんなことをするのだ!!?」
「それは分からん・・・だがラヴァーン、今はとにかく火を消すぞ。」
「俺達2人だけで、か?」
確かに、ここまで大きく街が燃えているのである。
近隣の人間達が誰一人として駆けつけてこないのは、奇妙なことだ。
 
「許せぬ・・・・・俺は、人間共の街にも、炎を放ってくれるわッ!!」
「ま、待て、ラヴァーン! 長きにわたる人間と翔族との平和を乱すつもりか!?」
「うるさい!! 平和なら、もう既に引き裂かれている!! たかが人間ごときが、
 我ら翔族を手にかけたのだ!!」
「だが、この事件には何か裏があるはずだ! 早まるな、ラヴァーン。
 まだ全ての翔族がやられたわけではない。
 他の翔族の集落に行き、様子を見よう。それに、施設にいる同胞達はどうする?
 わたし達は、彼らを人質にとられているようなものだ。下手に動けば、
 彼らがいっそう危険な状態におかれるのは間違いない。違うか!?」
「・・・・・・。」
 
そんな2人の様子を、密かにうかがっている黒衣の女がいた。
知的な雰囲気を漂わせているが、まだ少女のようだ。
不思議なことに、少女は燃えさかる街の中で平然と立っている。
彼女は残忍な笑みを浮かべると、手にしていた装置のボタンを押した。
その途端、男のうちの1人に異変が起こった。
 
「・・・・・・・・・・んんっ!!? うぅウグ!!・・・・・ウオオオオオォオオッ!!!」
「・・・!? どうした、ラヴァーン!?」
「ガッ、ガアアァァァ・・・!!」
(これは・・・ 発狂した同胞達と、同じ症状・・・・)
ラルクはハッとした。
「しまった!!手術される前に脱走した私達は、まだ装置を取り出されていないのだ!」
「グギギギ!!ニンゲン、殺ス・・・・!!」
「待て!・・・・ぐわッ!!」
理性の輪が外れた彼の力は強大で、同族のラルクでも止めることができなかった。
「や、やめてくれ!! わたしたち翔族が、本気でその力を解放してしまってはッ・・・!!」
 
その日、一人の翔族の男により、国全体が炎に包まれた。
男の背には血のように紅い翼が生えており、神話における悪魔の様だった。
人々は怯え、逃げまどい、口々に叫んだ。「翔族は、悪魔の使いだ」、と。
 
その惨状を、グラスを片手に、自室から平然と眺め下ろす人物がいた。
「見たまえ、ギュスターブ君・・・・実に美しい焔(ほむら)だよ。こればかりは想像以上だ。
 あの猛り狂う炎の中、君は聞こえるかね?ある男の悲しい嘆きと、民達の泣き叫ぶ声が・・・・」
「はい、我が耳にもはっきりと聞こえます、国王陛下。」
「なんと見事な演奏だろう・・・・・心、引き裂かれる思いだよ。
 だが、そろそろ協奏曲(シンフォニー)にも飽きてきた。
 いつまでも、狂人に指揮棒を任せておくわけにはいかん。
 好い加減、決着をつけてもらわんとな」
 
人間達の住む街の中央広場に、ラヴァーンは立ちつくしていた。
そして彼は、今まさに、眼前で怯えている人間の女性を殺すつもりだ。
「あ、あぁあ・・・・」
女性は腰が抜けて、身動きすることもできない。
「・・・・・・・・死ネ。」
ラヴァーンは大きく両拳を振り上げ、一心に女性の頭に振り下ろそうとしていた。
「ひィ!!」
その時、後方から鋭い声がした。
「ラヴァ〜〜〜ンッ!!!」
追いついたラルクが全身全霊で呼びかけるが、
彼は振り向きもしなかった。
「・・・・・もう、私の声も届かないのか・・・・・・・ならば、仕方無い!!」
ラルクはそう言うと、疾風のごとくラヴァーンのもとに近づいた。
そして特殊な形状のスピアで、瞬時に彼の翼を切り落とした!!
そのスピアは翔族だけが扱える、ヴァピラスの槍というものだった。
「グハァッ・・・!?」
翼は、翔族の生命線である。完全に自我を奪われたラヴァーンも、これにはこたえた。
「・・・・・・・・・チッ!」
痛みのおかげで少し理性が回復したのか。ラヴァーンは舌打ちすると、片翼のまま逃げ出した。
「ラヴァーン!」
致命傷を受けたにも関わらず、彼は信じられないくらいの速さで消えていった。
そしてあとには、女性と、ラルクだけが取り残された。
ラルクは、女性の安否を気づかい、声をかけようとした。
「うっ・・・・」
だがそれは叶わず、ラルクは前方に倒れ込んだ。
施設からの脱走に、ラヴァーンとの格闘。とうに体力の限界を超えていたのだ。
 
ラルクによって命を救われたのは、美しい、金髪の女性だった。
「私は・・・・? ・・・・あの時、外に出て・・・・・そうだ、私は、この人に助けられたんだわ」
女性は、ようやく事態を理解した。
倒れている男の背に翼が生えているのを見て、一瞬驚いたが、すぐに思い直した。
「でも・・・・この人は、さっきの奴とは違うわ・・・・・」
そう言うと彼女は、ラルクを静かに彼女の自宅へと運び込んだ。
それは、白い屋根の家だった・・・・・・
 
「何!倒されたのはラヴァーンのほうだと!?
動揺して叫んだのは、大臣ギュスターブだ。
「それは本当か、ナオ!?」
「はい。ラヴァーンにとりつけておいた、オレのセンサーが反応しません。
 絶命したかどうかまでは分かりませんが・・・・」
そう答えたのは、翔族の街でラルクとラヴァーンを監視していた黒衣の少女だ。
国王ヴェルギスの表情も険しい。
「ふむ・・・・もう一人の個体名は、何だったかな。」
「ラルクでございます。」
「そう、ラルク・・・・・彼には・・・『シェル』を埋め込んではいないのか?」
「はい。ラルクまで逃げ出したのは、想定外のことでして・・・
 ラヴァーンの攻撃を受け、こちらも致命傷を負っているはずなのですが」
「失態だね、ナオ君。」
「申し訳ございません」
ナオは、深々と頭を下げた。
「オレの油断が原因です。どうかお許しを」
「まぁ良い。若さゆえの過ちだ。彼の脱走を軽視したワシにも責任はある。
 ところで、施設に収容した翔族達は元気にしておるかね。新たに捕らえた連中も?」
「全く、問題はございません」
「そうか。」
ヴェルギスはゆっくりと玉座から立ち上がり、そして命令を下した。
「では、ラルク・ラヴァーン、両個体の生死を即刻確認せよ。これを最優先事項とする。
 生存していた場合は捕獲。それが難しければ・・・・・・・殺しても構わん」
「ハッ!」
ナオとギュスターブは、敬礼すると部屋から出ていった。
ヴェルギスはそれを確認すると、窓際へと歩を進め、不敵な笑みを浮かべた。
「ククククク・・・・早く、早く。もっと完全な翼が欲しいものよ」
そう呟くと、彼の背中から邪悪な翼が出現した・・・・
 
 −−ラヴァーンによる一連の事件は、後に「紅蓮の惨劇」と呼ばれ、
 国中の人間が「翔族は悪である」と認識するにいたった。
 これ以後、国内外にまで及ぶ「翔族狩り」が行われ、翔族は徐々にその姿を消していった。
 翔族と人間との友好関係は、ここに終わりを告げたのである。
 
 だが事件に関わったもう一人の翔族、「ラルク」の存在は一切明るみにされず、
 ゆえに、あれだけの破壊を尽くしたラヴァーンが、何故姿を消したのか?
 という大きな謎が残った。しかし致命傷を受け、逃げ去るラヴァーンの姿が多数の国民に目撃されており、
 彼を撃退した何者かを、人々は「姿無き英雄」と呼んで称えたのである。
 この「英雄」を探すため、国王直々に大規模な捜索が行われたが、ついにそれらしき人物は発見できなかった。
 
 そして、15年の歳月が流れた・・・・・・・・・・・・・・・・
 
[2003年1月10日 7時43分13秒]

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