1.顔面神経麻痺の診断と治療(ホームの一番初めは面白く書いていますのでご覧ください)
はじめに
顔面神経麻痺は早期受診(治療)が重要です。少し長いのですが、2顔面神経麻痺のリハビリテーションの前まで、じっくりと読んで頂きたいのです。また、少し余裕があれば、リハビリテーションの部分もご一読下さい。
中枢性と末梢性
顔面神経麻痺には中枢性と末梢性とがあり、「中枢性」は脳腫瘍、脳梗塞等の合併症に多く見られます。
「末梢性」は日常生活に於いてしばしば見受けられますので、主に末梢性顔面神経麻痺について説明します。
なお、三叉神経痛(俗称「顔面神経痛」)と混同されますが、別のものです。
この麻痺で来院した患者総数から見た診断別分類と患者数の割合は次の如くでした。(神戸大学大病院、耳鼻咽喉科、顔面神経外来の統計より)
a) ベル麻痺 ・・・・・・・71%
b) ハント症候群 ・・・11%
c) 外傷 ・・・・・・・・・・ 9%
d) 耳性 ・・・・・・・・・・ 4%
e) その他 ・・・・・・・・・ 3%
f) 不明 ・・・・・・・・・・ 2%
ベル麻痺とハント症候群の原因と症状
上記のうち多数を占める a) ベル麻痺と b)ハント症候群 の診断別による原因、特有な症状を列記しましょう。
a)ベル麻痺の原因・・・ 単純ヘルペスウィルス−1型の再活性化によるもので、このウィルスは最近の村上らの研究報告報告では60%が再活性化するとされています。
ベル麻痺の症状:朝、口紅をぬろうとしたら唇が片方へ引っ張られていた。
片方の眼瞼が閉じにくい。
歯磨きしていたら片方の口角から唾液がもれた
数日前から片方顔面の違和感に気づく。
b)ハント症候群の原因・・水痘帯状疱疹ウイルス
ハント症候群の症状:顔面麻痺の前に片方の外耳道、口腔内または耳介に帯状疱疹が生じ、なお、帯状疹は顔面麻痺と同時にまたはその後に生じることもあります
さらに場合によっては帯状疱疹がない場合もあります。
その他に眩暈、耳鳴り難聴が優先する場合もあります。
ハント症候群の症状は ベル麻痺に比べて麻痺も重症が多く、後遺症も出やすいのです。
診断方法
中枢性麻痺と末梢性麻痺の鑑別の仕方
*オデコにシワ寄せが出来るか否かによる鑑別
麻痺側のオデコにしかシワ寄せが出来ないとき、出来ても弱いとき・・・末梢性
両方のオデコにシワ寄せが左右対称にできるとき・・・中枢性
完全麻痺か不完全麻痺か
麻痺の程度を知るため、次の10項目の顔面運動をして採点します。
@顔の緊張度合い(普通の顔で)
Aオデコのシワ寄せ
B軽い閉眼
C完全閉眼
D瞬目(瞬き)
E鼻のシワ寄せ(鼻の上で両眼の間)
F両口角を外側へ広げ「イー」と云う
G口笛
H頬をふくらませる
I下口唇の可動(左右への)
10項の採点評価ですが、Mayによる細見の採点(100点満点法)と柳原の採点(40点満点法)とがあり、我々の研究グループは皆さんにも判りやすい前者を採用しています。
正常に出来るものを10点(柳原法4点)、減弱5点(柳原法2点)、 消失0点(柳原法0点)とし、合計が100点満点(柳原法40点満点)で10〜15点(柳原法8点) 以下を完全麻痺とし、これ以上の点数を不完全麻痺としています。ですから上記10項目の顔面運動を自分でやってみれば自分で採点ができます。
麻痺の部位を知るための検査
麻痺の障害部位を知るために次の5検査を行います。
1)聴力検査、2)耳小骨筋反射検査(contra)、3)涙分泌検査、4)味覚検査、5)NET検査(神経興奮性検査のことで顔面神経の生死を判定)を行います。
早期受診のお勧め
顔面神経麻痺について種々述べてきましたが、申し上げたいことは麻痺がもし起こったら1日も早く、遅くとも1週間以内に、此の疾患に造詣の深い耳鼻科の先生に診てもらって頂きたいのです。
つまり、神経の変性が末梢部分まで進行し終わるのに10日少々かかるのですが、2週間をすぎると手遅れとなってしまいますので、早期受診をお勧めしているのです。 (上記の5検査によりまず障害部位を診断してもらえます。)
早期に治療を開始したにもかかわらずそれでも発症7日〜10日後に悪化することがあり、発症2週間までは予断を許せないのです。
早期受診されますと!
*1週間、2週間 20日、40日でおよその経過、または予後が話してもらえる。
*後遺症についても話してもらえる。
*日常生活における留意点も聞くことができる。
*側頭骨内の障害部位により当初数週間は全く改善しないこと。
*ハント症候群の場合は4〜6ヶ月の間は全く動かないこともあります・・・などの適切な説明を受けることが出来ます。
以上のようなことを説明をしませんと、患者さんは一向に良くならないと思い込み、針で治った人の話を聞くと即そちらへ走る・・・早く CT, MRI を撮りに脳神経外科へ行かなくちゃ大変よ!と横やりが入る・・・結果、早期治療開始のチャンスを逃すことになります。
残念なことですが、耳鼻科とは知らず他科で経過をみてもらっていて耳鼻科へ来た時はすでに遅く顔面神経の反応は消失し完全麻痺となっていて、泣きじゃくる女性に接することもあります。 また、あちこち転医している間に結局、初期治療を逸し不幸な顔で悩んでおられる方も見受けます。
治療方法
治療と入院の必要性について
1979年ドイツのStennertが血流改善剤とステロイド剤を中心とする点滴静注療法を施行し、治癒率96%という結果を報告しました。
この方法は入院を原則として10日間点滴加療を要とするものですが、その後海外はむろん国内でも続いて追試がみられ、その結果、優れた治療方法である事からその有効性が報告され現在に至っています。
ベル麻痺の中でも不完全麻痺の予後は良好であるといわれています。しかし、発症初期に来院し不完全麻痺であったにもかかわらず、7日前後から14日前後で完全麻痺に移行する場合があるので、私は当初から点滴静注療法を行っています。特に入院を必要と思われます症例は50歳以上で、かつ、7日目前後に完全麻痺に移行する人です。
また、年齢に関係なく糖尿病のある人も入院加療が必要です。
再度、早期治療の必要性について
上にも述べましたが、末梢性顔面神経麻痺の主な原因には下記の2種があります。
1)ベル麻痺・・・原因不明であると云われてきましたが村上の報告から単純ヘルペスウイルス・Type1(Herpes
Simplex Virus Type1)であることが判ってきました。麻痺患者の60〜65%はこのタイプです。
2)ハント症候群・・・この場合は水痘帯状疱疹ウイルス(Varicella
Zoster Virus)検査結果が4倍以上の陽性で返ってきます。麻痺患者の10〜15%はこのタイプです。
以上からベル麻痺も単純ヘルペス・ウイルスType1が50〜80%陽性に出ることが報告されましたし、ハント症候群では水痘帯状疱疹ウィルスが陽性に出ることが判っていますから、いずれにせよ検査結果が出る4〜5日までの間は両疾患ともに抗ウイルス剤を処方するほうが安全ですよ!と申し上げたいのです。
ハント症候群の水痘帯状疱疹ウイルスは強烈に神経障害を起こしますので勿論後遺症が出ます。ですから、当初 ハント症候群かベル麻痺かハッキリしない場合には必ず抗ウイルス剤とステロイド剤の両方の点滴でカバーすること が重要と考えています。
ハント症候群の場合、発症3日以内に抗ウィルス剤を投与しないと効果が出にくくなると云われています。採血しましても最終的な診断は4〜5日後になりまので、治療開始日はベル麻痺、ハント症候群のいずれの疾患にも対応できる様な治療が必要です。
重ねて申しますが、最初の4〜5日を無駄にしないで下さい。早期に受診すれば、ベル麻痺、ハント症候群いずれの場合であっても、それなりに対応できるのです。
麻痺が・・・
A)初期から高度な人
B)初期軽度でも1週目前後に悪化する人
C)軽度で悪化しない人 以上の3つに分かれます。
A)B)C)に関しては点滴治療を当初1週間ほど毎日施行しますので通院可能な距離の方。 点滴終了後は、1週間に 1度来院できる距離の方は当院をご利用くださいませ。只、糖尿病のある方はステロイドを使用しますので内科医と耳鼻科医の両者で経過観察が必要ですので病院へ紹介致します。
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2.顔面神経麻痺のリハビリテーション麻痺が始まったら1か月間は温熱療法のみでマッサーシはしません
A)急性期・バイオフィードバック(発症2か月目に入るとソフトに行う!)
バイオフィードバックとは、意識下にコントロールされていない生理的な変化を意識下にコントロールする事をいいます。(例えば自分の意志で瞬きすることがこれに似ています)。この方法は必ず鏡をみながらしなさいよ!の意です。
顔面神経麻痺の後遺症が発症4か月前後に出てくることは随分以前から認識されています。ですから経過を診ているうちに後遺症が出そうなのがわかってきますから如何にしてそれをリハビリで少しでも早いうちに軽減できないものかと考え出されたのが次の方法です。
前記、診断方法の項で完全麻痺か不完全麻痺かの10項目の顔面運動を採点をしました。この@緊張 (リラックスした顔)からI下口唇下動までの顔面運動が少しづつ健側に近づくように頑張って欲しいのです。
@緊張(リラックスした顔で):自分で鏡をみますと全体像の顔から健側と比較してどこと、どこがおかしいかがわかります。
A前額作皺(オデコのシワ寄せ):オデコにシワが寄らないので寄るようにするリハビリ。健側の額が一緒に挙上しないよう健側の手で額を押さえたまま、天井を何度も見るようにする。そして患側の額にシワが寄るよう行う。オデコの前頭筋は上下に走行なので上下に用手的伸長マッサーシを行う。
B軽閉眼と C完全閉眼:健側の瞼(眼輪筋)を手で押さえておいて患側の眼を何度も何度もつぶる練習。上下の瞼の筋肉は円から楕円形に走行なので円を描くようにシッカリと伸長マッサージを行う
D瞬目(瞬き):健側の瞼を手で押さえておいて患側のウインクを何度も行う練習。
E鼻作皺(両眼の間にシワ寄せ):手で健側の額、眼、鼻半分を押さえて、患側の内眼角にシワを寄せる練習
FGrin(両口角を外側へ引っ張る):口角を引っ張りながら「イー」と云う、此の時も健側の頬と口角を手で押さえていて患側の口角を外側へ「イー」と引っ張ると同時に患側眼は閉じそうになるので真上の天井を見上げること。
(こうしないと上まぶたが下がってくるから)。これが大事!
G口笛とHBlow out cheaks(頬をふくらませる):右頬は左手の親指(口腔側に)と人差し指と他の全部の指(外側に)で挟む様にして、左頬は右手の親指(口腔側に)と人差し指と他の全部の指で(外側を)で挟む。この頬骨筋は口角と耳を結ぶ線上にあるので頬全体を上下、前後、円を描くように伸長マッサージを行う。このときに痛みがあるのは筋肉に既に拘縮(こわばり)が始まっているあかしなのです。
I下口唇可動(口角を片方づつ外側へ最大限引っ張る):健側の口角を手で押さえて患側の口角を外側へ引っ張る。口輪筋は唇の周囲を円形に取り巻くので人差し指、中指、薬指で円を描くように又左右への伸長マッサージも忘れずに行って下さい。
(回数、時間、期間)・・・ 1日: 朝と夕の2回、1回あたり 10分間、発症2 か月目又は3か月目から始める2つに意見に分かれています。そしてリハビリ、マッサージともに9〜10か月間はやって下さい。急性期に強力で粗大なやり方では後遺症の軽減にならないので、あくまでもゆっくりとソフトに患側(両側同時に行うのではなく)の個別的筋力強化が大事なのです。
(顔面神経麻痺の後遺症は下記の数字の赤字5種類ありますが、1)と2)が圧倒的に多いので急性期の場合は特に 1)と2)をゆっくり・ソフトに、慢性期の場合はしっかりと行ってください。
)
1)過誤再生または病的共同運動:唇をとがらすと患側の眼の開きが細くなる(Synkinesisと呼んでいる)上記Fを行う と患側の眼の開きが細くなる。
2)拘 縮:顔のこわばりの事で患側の鼻唇溝が深く、上口唇の動き不良で、健側の顔が麻痺したかのように見える。
3)痙 攣:瞬目と同時に口角がピクピク痙攣する。
4)ワニの涙:食事と共に涙が出てくる事で、上記の1)、2)よりも早く発現してくる。
5)アブミ骨筋性耳鳴:表情筋の動きに伴い患側に耳鳴りがする。
○ 回復の兆しは遅くても4か月以内に発現するようですが、同時に後遺症も始まります。そして8〜9カ月で定常状態に戻ると云われています。(報告者により回復の時期、期間に多少のズレがありますが、ハント症候群の場合は特にベル麻痺よりも遅れがちで6か月位回復の兆しが見えないこともあります
)
○ 急性期のリハビリ開始時期は報告者により異なりますが発症2カ月以内、あるいは3カ月以内が良い!の
二つに分かれています。
○ 開始時期が2〜3カ月目のいずれであれ、リハビリをしないよりも行ったほうが一層良い結果が出ていることを申し添えます。
B)慢性期・バイオフィードバック(発症4か月に入るとシッカリとおこなう!)
上のA)急性期の場合は あくまでユックリ・ソフトに行って下さいと話しました。慢性期の場合は筋力強化ですので、しっかり行ってください。
C)マッサージ
手の指でもって「顔のリラックス」を保ちながら顔面表情筋の伸長マッサージを行い 顔面筋の拘縮(こわばり)を軽減 し、やわらげることにあるのです
顔面神経麻痺の5大後遺症!(多い順)
1)過誤再生(病的共同運動)・・唇をとがらすと患側の眼の開きが細くなる・・よって口唇をとがらして患側の眼を大きく開ける練習
2)顔面のこわばり・・頬の筋肉が硬くなってくる・・よって急性期のGのマッサージを!!
3)ワニの涙・・食事と共に涙が出てくる
4)けいれん・・瞬きと同時に口角がピリピリけいれんする
5)アブミ骨筋性耳鳴り・・表情筋の動きに伴い患側に耳鳴りがする
D)バイオフィードバックならびにマッサージが不要な症例!!
後遺症なく完治する症例は下記のような例ですが、神経麻痺は軽快するまでの期間が非常に長いものですから主治医と話し合ってください!
○ 発症2週間以内にもう回復の兆しが見られる症例(但し、一見回復と見えても治るのに2カ月以上要した症例は除外します。この場合は過誤再生が出現します。)
○ 発症30日の時点で顔面運動が60%以上の回復を示す症例。
○ 2か月以内の時点で顔面運動が90%以上の回復を示すものは後遺症なく完治します。
以上、これらに満たないか、これら以上の日数を要する症例は何らかの後遺症が出てきます。これらが出る可能性は経過観察中に本人も主治医も段々とわかってきますので、その時期がきましたら主治医の指導を受けてください。
最後に症状の改善のためには本人の非常な努力を要しますので、十分な回復が得られる前にリハビリテーション をあきらめてしまう例が少なくありませんが、既に結果が出ているのですから頑張ってください。
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