生徒指導・進路指導論I (2002年6月21日)

 

前回までやってきた資料の読みかたについて

●「中学生・高校生の悩み」(スクールカウンセラーについて)第三回
●「不登校状態になったきっかけと継続している理由」(小・中学生)第三回
●「生徒指導資料」(戦後以降の教育政策の変遷をみる)第三回
●「心と行動のネットワーク」(最新の生徒指導指針)第七回
●「中学生の学校信頼関係データ」(教育改革の効果)第九回
● 「高校生の進路状況:学校基本調査報告書から」(進路指導用の調査資料)第九回
 ※他に、労働白書、文部統計要覧、国勢調査なども参考になる

 以上の復習をしておくと今後の学習に役立つことを述べた

 

1、人間の理解のシステム

 「生徒理解」と「信頼」が大切で、コミュニケーションがかかせないというが、そのような「理解」、あるいは「わかる」というのがどういう構造なのかを把握しておきたい。これはこれまでにやってきたエクササイズの構造を考えることでもあるし、また教員のあるべき立場(位置)、役割を自覚するためでもある。

@左上のように「会話」をしている。
A会話して、相手のことを理解しようという状態は、お互いの「アタマ」の中でほぼ同時にその会話のシーンが再現されていると考えればいい。この場合、「相手」も自分の「想像」に過ぎないのだが、これは「客体」として自分が演じているともいえる。当然、理解できないことも多い。
B話していると、情報や、共感などから理解が増してくる。自分の経験と重なって理解できたり、相手のことがわかってくるようだ。

 

 このとき「やりとり」の中で相手を理解することをもう少し図示すると次のようになる。

言語レベルで知識としてわかる部分と、そして身体的に感覚レベルでわかることとがある。どちらかが重要なのではなく、「わかる」というのは両方が深まって実感を増すこと。役割演技で考えれば、その気になる、相手の身になるというのがこれにあたる。

 

 ちなみに第三者がこの「会話」をみている場合にはさらに複雑で、「アタマ」の中では双方とも「他人を演じる自分(の客体)」である。直接対応しているのでないからわかりにくい。しかし、「教員」はもっと複雑なのではないか。そしてこの第三者が「共感」をもって理解していかねば「傍観者」になりかねない。しかしまた複雑には「教員」は傍観者ではなくして時に「その位置」へと出たり、また「共感的理解」へと入ったり・・・、つまり「出たり入ったり」ということをすることが必要となる。固定的ではなく、また全て傾聴でもなく、公性が大きいためにそのような移動というかシフトのしかたが重要であろう。

 

 

2、役割演技による理解の練習−サイコドラマ−

 即興の劇を演じることで、心理的に仮想(疑似)体験によってその状況を理解するという精神療法の方法論の一つ。「役割演技」を意識的にすることで、相手の気持ちになりきって気づかせる練習にもなる。

 

 チーム選抜

 〇タイトル『不登校児童がいる家族の風景−朝−』

  家族の構成→父(女学生)、母(男学生)、お爺さんかお婆さん、子ども1、子ども2(子どものどちらかが不登校の設定、性別はどちらがどちらでもいい)、先生(生徒指導)

  計・6人 (二世帯の家族を構想してみた)

 

 ※役柄の性格設定(キャラクター)・・・話し合ってきめてもらう。

(例)母は心配。登校強制派。父は子育て放棄派、ゆえに母におしつける。でも子どもには甘い。祖父は「まぁまぁ」と言ってなだめる。弟は「みっともない」とクール。先生は熱血教師だけど強引。・・・等。

 

ストーリー→(例)不登校になりつつある子が風邪のような症状で寝込んで3日目。その子は子供部屋にいて、残りの家族が朝食をとっている。親のどちらかが「その子はどうしたんだろう」と心配するところからスタート。あとは真に役柄を演じてほしい。家族の会話としてお互いに相手に話しかけて「ふって」いく。

 流れとして・・・、(1)不登校の寝込んだ子を誰が起こしにいくか決めて、起こしにいく。すぐに起きて来てもいいし、でもぐずってもいい。そうしたら別の家族に起こしにいかせたり、心配して数人で見に行ってもいい。

 (2)そこに、連絡を受けてでもいいし、学校に連れていこうとしてでもいいけど、生徒指導のための先生(担任でもいい)が家庭訪問してくる。親の相談を受けたり、子どもをよびに行ったりする。子どもも反応を演じていく。

 ※とにかく、なんで不登校になったんだろう? そう心配、悩むことを、劇の中で考えてもらいたい。

 

 

進めかた

 ・10分間、組ごとに最初の開始時の舞台設定と、全体のキャラクター(性格)ぐらいを決めておく。ある程度の流れも話し合っておいてもいい。

 ・開始時の設定・・・、例えば朝食時に誰かが不登校児を起こしにいくというような場面から始めて、あとはお互いにふりながら話をすすめていく。決めておいた性格の立場どおりに(その役柄になりきって)ドラマを進める。

 ・登場の仕方は任せるが、学校から担任か生徒指導の先生が家庭訪問に来る。学校と家庭、子どもと教師、親子の関係を演じていく。

 ・時間は10分間でくぎる。

 

 「理解」の回路を「理解」するために様々なロールプレイングの方法があるが、今日は「不登校」という生徒指導上の重要な問題の一つを理解していただくために、それを「心理ドラマ」として演じてもらった。

 目的は、その「役」を演じることでその役の「心理」を想像してなりきってもらうということと、そのドラマを観ることで全体の問題点を知ること。また演技に問題があるとすれば、なぜ、そういうふうに演じてしまうのかという次なる課題もある。

 

 ・×・+・×・+・×・+・×・+・×・+・×・+・×・

 演技(略)

 ・×・+・×・+・×・+・×・+・×・+・×・+・×・

 

 はじめてのために、けっしてうまくいったとはいえないが、その問題点をすぐに指摘した。その場で役割をチェンジしてみたり、あるいは私が「不登校児童」の役になって「反応」を返して追求していくことで、母親役なり、教師役に「その立場」や「現実」を考えてもらった。それをみている「周囲」(全体)にも、「そういう難しさ」というものを理解させるようにした。

 「どう思ったか」というのまでをふりかえって、初めてこの「サイコドラマ」はできあがりとなる。心理学専攻の授業でやるサイコドラマもあれば、今回のような「不登校」理解を目標に場面(問題)設定してのものという目標設定があるというものもある。完全にシナリオがあるドラマもやるというのも教育的にはありえる。弁護士会が演劇をやっているとか、「いじめはやめよう」キャンペーンだとか、高校生の演劇でのよびかけだとか、そういう「手法」としての「教育ドラマ」もある。すべて「観たものにうったえかける」ことを目的としているが、今回のはエクササイズとして「演じてわかる」ことを特に重視している。今後もこういうロールプレイングを採り入れていく。原理的なこと、理論的なこと、歴史的なこと、資料等の現状分析。大きく分ければ「経験」と「知識」。本日やった「知的理解」と「感情的理解」のためには、その両方が必要である。

 

(「リアクションペーパー」−とくに演技についての感想を求めた−配布→回収)