生徒指導・進路指導論F(5月31日)

本日の内容
  『心と行動のネットワーク』(今後の日本の指導の方向性)
  「ピア・サポート」(「教育」面による自主性を育てる指導)

 

(1)生徒指導に関する日本の最新の方針『心と行動のネットワーク』

 前回配布した『心と行動のネットワーク』という資料を読む。

 本年4月13日付けというように最新の生徒指導に関する方針である。以前に配った『生徒指導上の諸問題の現状と文部科学省の施策について』(「平成10年度不登校状態となった直接のきっかけと不登校状態が継続している理由との関係」をみてもらった)も、この2月に出された新しい情報だが、最新の情報をいかにとらえて分析しておくかが重要な課題となる(二つの資料は関係しあっていて、2月の報告の成果があって、それが反映されて出された提言・方針がこの『心と行動のネットワーク』である)。

 

 文部科学省初等中等教育局児童生徒課長・徳久治彦氏の「解説」。(参照)

「今回の報告の特徴」として、「学校だけが問題を抱え込んで対応するのではなく、学校・家庭・地域が、より一層連携を充実させていくことの重要性」が議論をすすめていくうちで改めてわかったという。単純にこれまでのように「家庭・学校・地域の連携」と「言うだけ」でなく、より具体的に「警察庁、内閣府、法務省、厚生労働省などで主に少年問題を担当している方々に会議のメンバーに加わっていただき、そのような地域のシステムづくりのために、『関係省庁との連携』を一つのキーワードとして、各省庁が密接に連携を取り合い、国のレベルでも共同して支援しようとしている点が特徴の一つです」と述べている。(従来の「縦割り」「分断」的構造が示されてはいる)

 

 *問題は複合的であるのに事実上連携は困難であった。「生活」と「教育」と「防犯」等は別のものとされていた。

●「学校」(文部省)とは分断されていた領域
・家庭内の問題、虐待→児童相談所・厚生省(現:厚生労働省)
・非行など→家庭裁判所・内閣府や警察庁の問題

 

 「一見おとなしく目立たない児童・生徒が、突然キレて暴力行為を引き起こすといったタイプの問題行動への対応」のために、その「心のサイン」を見逃さないようにして、さらにいままでも「情報の連携」はいわれていたのだから今後は「行動連携」をというのがその主旨である。

 ちなみに従来の問題行動を「非行行為」が特徴であったとしている。こういう把握だから生徒指導も「校門指導」型になっていた。これまで見てきたとおりである。それが最近ではストレスによる「突然」「凶悪事件」を起こす「いきなり」型に変わってきていると分析していて、「行動面での前兆は見えないが、心の面で問題行動に至る予兆がある」としている。行動面での前兆はおさえられているといえないだろうか。それがさらなるストレス要因となってきているということもあるのではないだろうか。

 徳久氏は「具体的には」として、家庭内で暴力があったり、ホラービデオを頻繁に観ていたり、凶器を携帯していたりといったことをあげている。詳細は文書中に書いてあるが(略)、これまでの問題児「重点的に指導」の方法からこれからは「心のサイン」を見逃さない方法へとかえていくのだと論じている。その際に従来の一対一から「チーム」として多角的に対応していく方法へかえていくのだと言っている。

 

「全文」においてはもっと詳細に記述されているので読んでみたい(略)。バスジャック事件などの結果、文部省が「児童生徒に命の大切さをしっかりと教える時間を持つよう依頼」したとか、今回「情報連携」から一歩すすめて「行動連携」にシフトするのに従って「児童生徒の発するサインをとらえる」ことを重要視するといっている。今後まとめて提言するのだろうが、こういうものはマニュアル化可能なのかに注目しておきたい。

 

  「児童生徒の問題行動の背景や要因」の項で、生徒自身に「善悪の判断などのモラルや道徳心、思いやり、忍耐力」が欠けるし、「社会性が未発達」で「自己表現力・コミュニケーション能力が低く、対人関係がうまく結べない」として、その背景を「都市化や少子化の進展やテレビゲーム、パソコンなどの普及などにより、大勢で遊ぶ、友人と語り合う、他人と協力し合うといった多様な人間関係の中で、社会性や対人関係能力を身に付ける機会が減っており、学校や地域社会といった本来社会性を育成する場で社会性が育まれにくくなっている」としている。しかしその分析と反省はない。

 そういう政策をすすめてきた過去への反省はないのが気にかかる。家庭や学校へはかなり具体的にいままでの対応が問題があったと指摘している。

 

 今回のこの資料は今後の日本の「生徒指導」の指針でもあるわけで、前にみてもらった「平成10年度不登校状態となった直接のきっかけと不登校状態が継続している理由との関係」(文部科学省初等中等教育局児童生徒課『生徒指導上の諸問題の現状と文部科学省の施策について』平成13年)の数値を反映させたものだともいえる。

 

不登校の要因・起因

その中の詳細な理由(%は全体中)

小学校
 

学校生活に起因(全体の20.2%)

友人関係10.6% 教師との関係2.1%

家庭生活に起因(全体の27.5%)

親子関係15.8%

中学校
 

学校生活に起因(全体の38.4%)

友人関係19.7% 教師との関係1.7%

家庭生活に起因(全体の17.4%)

親子関係 8.3%

 

 「家庭生活」の中でも「親子関係をめぐる問題」がその主要な要因となってきていることが数値として出てきている。これまでは文部行政が「家庭」にタッチするのは縦割り区分でも難しかったのですが、今回のこの追跡調査の結果から、これまでと違ってはっきりと言っている。「基本的な生活習慣や倫理観等が十分しつけられていない家庭の状況」として論述している。そこが特徴の一つ。学校についても「生徒指導体制が十分機能していない」として「一見平穏だがかえって問題行動が目立たなくなってしまった」というように、これまで講義で言っていたことと同じことを問題としてとらえているようではある。そして「地域社会の教育力の低下」や「情報化の波」の弊害に警鐘もならしていて、警察庁と科学警察研究所の研究成果として最近の少年事件22件の被疑者25人のうち、同様の過去の事件報道・ホラービデオ等が影響したものは13人にのぼるとしています。その悪影響を述べている。分母はともかく率としてはたしかに高いとも思える。

 以上のように書いてあるが、生徒指導的には「生徒指導の本来の意義を踏まえ、問題行動への毅然とした対応や、学校としての規律の維持といった指導的な面に加え、『児童生徒の心の揺れや悩み、不安等を柔らかく受け止めていく』という受容的な面や予防的な面を重視していくことも必要である。」として「予防」の側面を指摘している。そして「児童生徒が、自分たちが抱える問題を協力して自らの力で解決しようとする態度を育てることも大切であり、そうした観点から一層の指導の充実を図る必要がある」と生徒側からの活動を促すかのような記述がある。

 

 この予防と生徒参画の方法について今回と次回に学び、実践していきたい。

 

 しかし、「心」のサインへの対応とはいっても難しいことが多い。なぜ一見「良い子」を演じたのか、どうやってそのサインを見逃さないのか? 人間の内面の理解とはどうやったらできるのか? そういうことも考えていかなくてはいけないだろう。

 次に国立教育政策研究所の滝充氏のPEACEプランという方法がこの文部省案の根底にあるのだと推測している。次にそれについて学んでみたい。

 

(2) 滝充のPEACEメソッド ★滝充『学校を変える、子どもが変わる』時事通信社、1999年

 「突然型・いきなり型」「キレル少年」の問題行動→「心のサイン」を見逃さない

 「子どもがかわって」「わからなくなった」→「学校を変えようじゃないか」

 「これからの生徒指導には予防の観点が必要」

Preparation
 準備


 

Education
 教育


 

Action
行動


 

Coping
対処


 

Evaluation
評価


 

 

1、背景要因としてのストレス状況

◆ストレッサー(ストレスの原因)・・・学校、家庭、教師、友人、親との関わりやできごと
◆ストレス・・・心に負担がかかって心理的にひずんだ状態。身体的・抑鬱・不安感・不機嫌・怒り・無気力等の様々な症状がある。
◆コーピング・・・価値観、社会観、対人能力等で、ストレス要因(ストレッサー)からストレス症状に、またはストレス症状の状態から問題行動(不登校やいじめ、非行等)にうつる時に、その結びつきを促進したり抑制したりする働きのこと。
◆問題行動・・・不登校、いじめ、非行等の結果として表れた行動

 

 実践としては「傍観者」をつくらないで、生徒間で「問題」を共有して解決していく、−−つまり「共通の問題としてとらえなおしてその問題の構造自体を修正し、つくりなおしていく」−−ということをめざしていく。

 

2、実際の指導例・実践する方法

 ●イギリスのピア・カウンセリングの実例を紹介(略)

 ●オーストラリアでの実践例の紹介(略)

 ●滝充氏のホームページの説明部分を読む(略)

 ●滝充氏のテキスト、及び講演会でのレジュメ(資料)を参照(略)

 

例題:「いじめ」問題解決のために実際に学校でこの方法を行なうとき、どのように指導していくか?(次回・講評)