生徒指導論  (第八回・6月8日)
 
 前々回の講義で、自己嫌悪や自己否定で引きこもっている少年の話をしました。その状態から自己肯定へもっていき、他者理解と自信をもってもらうには「論理療法」で考え方をかえていくことが有効だと思っているんだと言ったと思います。少年とお話しをしてきました。長い時間、傷つき苦しんできた少年で、そして今、ようやくたちなおるきっかけをつかみつつあるんだなと感じました。「たちなおる」というのは単純に学校に行くとかではないです。実際問題学校はもはや卒業できなくても各種検定で高校入学資格(つまり中学校卒業資格)、大学入学資格(高等学校卒業資格)がとれるのですから・・・。それよりも「自信」をとりもどして暮らせることがいちばんだと思います。
 ここにはかけませんが・・・、自傷行為、自己否定がみられますし、その心的世界はやはり独特の様相をみせてくれます。描く絵やそういう感覚に鋭さというか独特のものがつくりあげられます。なお、単純にはいいきれませんが、この「絵」などには「観念的世界観」があらわれると思います。いや、この「観念」は前回までに説明した「固定観念」と重なるのですが、「考え方」であり「アタマの中の世界」です。他者や事物を理解するときに動く劇場であり、思考の世界です。そこで「他者の感覚を想像すること」が理解への回路なんだとお話ししたかと思います。まさに「ヒトの身になって考える」「相手の立場になって考える」「親身になる」ことで想像がつく・・・、理解できてきます。これは「経験」「体験」的に許容量が増えてくるものでして、その「劇場」で再現できるのは「仮想体験」が「自分の体験」として「実感」できるから・・・、わかってくるのだともいえますね。
 そして私の知る少年は精神科医に分裂症だと診断されて数年間投薬を受けていました。この投薬はおそろしい弊害があります。仰精神薬はようするに眠り薬のようなものです。おちつくけれど、眠らされます。安定はするけれど強制的に睡眠にいたらせているのだともいえます。すると人間の生理としてはどうなるか。・・・身体が起きるべき時間を強制的に抑圧されることになる。生理的に不純になります。いや脳や諸器官が実体感を失うというかそれらのコントロールも判断力も失っていきます。人間は「夢」をみますね。この「夢」をみることのウェートが増えるというか、夢遊病とはいいませんが「夢」の世界の重みが増してくるといいますか、とにかく運動や思考の時間が平常時のようにもてなくされてるわけですから「観念」の世界にもアンバランスな面が出てきます。この「観念」の世界がこのあいだ説明した「アタマの中」の劇場だとすると、人間不信に陥り、そして抑圧され、それによりコミュニケーションと他者感覚が薄れていく中で、この劇場のアクターたる自分が、どんどん「他者との共通の体験」を認識できなくなっていきます。ある種、眠らせる、睡眠を誘引するわけですから感覚・神経を麻痺させる効果がないわけではありません。その通常の生理ではない状態に強制的にされていくなかで、幻覚・幻聴も出ることがあるそうです。その幻覚が、まちがった、現実離れした感覚がアクターとして固定されていくと、まるっきり現実とは違うことを考え信じ込むことにもなります。これも固定観念ですし、そういう観念的世界にはまりこんでいくことはありえます。
 新理学的に転移・逆転移などの状態の問題もありますが、とにかくそのような状態から抜け出せるように、そういうことまでも考えていく必要がある・・・、それが現実の問題です。さて、他者理解は難しい・・・。今回もエクササイズを一つ試してみましょう。
 
 
 自己紹介ゲーム(2)
 今回も心理理解のためのロールプレイングを試してみようかと思います。簡単なエクササイズをやります。前回と同じくまず「自己紹介」をしてもらいます。10分間また話して見てください。
 (「ネームプレート」→抽選→組み合わせ)
吉永 高橋 小沼 吉江 神尾 米村 中沢 岩崎 石田
関口 峯坂 小室 宍倉 鈴木 久保田 秋本 福見 岸田・杉本
 
 (10分後)
 はい。辞めてください。前回と同じくこれから交換して自己紹介をしてもらいます。「わかる」ことを知って、意識している今回は少し違った結果がでると思います。
(名札回収→ルール説明→抽選→自己紹介)
 →今回はじめて参加の米村さんが久保田くんを演じたが、かなり理解していた。
 
 いまのは、前回のと同じ単純な対人理解ですね。しかも一度やっているからその意図がわかる。しかし、例えば教員の生徒理解はもっと複雑です。直接マンツーマンの対応以外にも理解しなくてはならないこともある。
 カウンセラーならこういう単純な「ききとり」が重視ともなりますか。しかしなんどもいいますが、クラスの中ならどうでしょうか。複数だとどうなるのでしょうか。そういう面まで、とりあえずその難しさを知っておくのはいいかと思います。その方法、そのためのエクササイズがあります。(板書)
 
 ◆エクササイズ2
 2対2で自己紹介といいますか、対話をしてもらいます。その際に少し条件をつけます。まずは抽選でその登場人物を選びます。ご協力をお願いします。
 
 女性A=石田さん、女性B=吉永さん。男性C=鈴木くん、男性D=峯坂くん
 
 条件:2対2だが、その中で特に「女性Aと男性C」が、また「女性Bと男性D」とが話すようにする。自然にグループの中で話分けというか、話があるどうしに分かれたかのような設定。5分間ぐらい。喫茶店のようなイメージでいいので、その客の一員として他の皆さんにもその周囲にいてみておいてもらう。
 
 時間終了後、板書でそのシステムを示す。
 ・・・いま、よく話してもらいましたが、ここで主たる話相手でない方について「自己紹介」可能でしょうか。もちろん少し話が完全に分かれてしまいましたから他方のパートナーのことまでわからなかったと思います。(鈴木くんにきいてもやはり吉永さんのことはわからない)
 でも、現実には直接話せなくとも興味があったり、なんかの拍子に共感することがあればわかっていく面がありますよね。ですから単純な1対1じゃなくてもさらにもっと複合的になっていってもわかっていくそういう方向があります。
 そしてもう一つですが・・・、まわりの人もこれに参加しています。まわりで「見ていた、聞いていた」わけですね。ですからその会話や状況からわかっていくことがあるはずです。・・・そういって、周囲の立場からの理解、第三者的な位置からの理解を考えることができます。
 →いちばん近くに座っていた秋本くんにきく。
 □秋本くん演じる石田さん(鈴木くんと話しをして)・・・音楽の話で共通することがあったことと、なんとなく理解できてきたことが語られる。かなり興味をもってきいていたことがわかった。
 □秋本くん演じる吉永さん(峯坂くんと話しをして)・・・「正直に言ってきいていなかたので洞察したことを話します」とのことわりのもと、アドリブでしっかりとまとめられた。
 ●秋本くんにとって、手前側に位置した鈴木くんと石田さんの会話が「わかりやすい」のは当然です。会話ゲームに参加した4人すら隣のペアの話しはききとれないものですから・・・。それに秋本くんもミュージシャン、鈴木くんもそうでさらに石田さんも詳しいことからそちらの話題に引き込まれやすいしわかりやすい、共感しやすいのも当然です。
 すると位置によって大きな規制を受けるのも当然だし、全体が複合化すればそれを把握するのは当然困難になります。ドラマのシーンだって注目すべき役が会話しているシーンは目にのこってもその周囲の細かい背景的設定にまで目がまわりません。そうすると「わかろう」という範囲というか集中がないとやはり(複雑的人間関係では)「わからない」のですね。難しいわけです。ですから、「わからない」から「わかる」努力が教員には必要かな、と・・・。もし、そこにサインが表れるようなことがあるのならばですね。
 逆に設定・距離・配置によっては、スタンス、ポジションによっては、直接に話す・聞くではなく理解できていくのだという事実もあります。そういう理解していく回路、メカニズム、わかっていくことを学んでいくエクササイズでした。
 
 
 ★「論理療法」についても、次回に前回皆さんに書いてもらった「固定観念」の部分を確認・分析することをやって終わります。
 今日、最初に話した「アタマの中の世界」と「観念の世界」と「論理療法のビリーフ」の世界は同じものと考えて下さい。そして今のエクササイズで「想像したシーン」もそういうものです。
 そのなかで、何かことがおきたときに、自分が思い込みで自らの行動を規制して、しばって、追い込んでしまっていないか・・・、そういうことがあったのならば、本人以外のあなたがそれを指摘して「考え方・受け止め方をただす」ことが有効になります。
 もちろん「あなたのために」という方向性のもと、「あなたをわかる」というのを前提に「わたしはこう思うけど、あなたのとらえかたは違う」としてあげること・・・、そういうバランスとタイミングが必要です。
 普通のカウンセリングでもその「受容」から「刺激」へのきっかけが重要となります。「受容」一辺倒ではらりがあかないような場合、有効な「刺激」を与えることが必要となりますが、そのときに「固定観念」から解放してあげるものであって、ただただ強制するものであってはいけません。今日は時間がないので、一部の意見をあげておいて、次回その内容についてお話しします。
 
◆ 人間には思い込みがある。→「固定観念」をみつけよう!
  「そのとき、彼女はどう思ったか?」
例:「遅刻して音楽室に入ったが・・・、それから不登校になった」
〇「普段からクラスメイトから見放されているという孤独感を抱いていた。・・・ジロッと見られたということでクラスメイトは私を嫌っている・・・と確信」(コム)
〇「遅刻して(入ったから)・・・変なふうにみられ、それがもとでいじめがおきると思ったから・・・」(セキ)
〇「味方が誰もいない。いるのは敵と他人だけ・・・」(ミネ)
〇「自分を受け入れてくれない、つまり自分という存在を否定されると考え」(カワタ)
〇「自分よりも強い子たちは自分を嫌っているのかもしれない」(イワ・シズ)
〇「黙らせたところで、クラス全員が敵にまわる可能性が高い・・・」(スズ)
〇「本当の親友だったり仲良しだったら・・・対応してくれるはず・・・、私は不用だということ」(フクミー)
〇「自分の居場所はないし、自分を必要としてくれる人もいない・・・自分の存在価値はない」(ヨシナガ)
〇「彼女たちが苦手だと思い込んで・・・」(スギモト)
〇「私を責める目線・・・、友だちがいないと思っていた・・・居場所がない」(キシダ)
〇「他人に必要とされなくて自分は一人きりで学校生活を送っていると思った」(クボタ)
〇「自分は周りの人に受け入れてもらえないんだ・・・」(カミオ)
〇「友だちもできないしみんなが私を嫌っているような気がする・・・」(ヨシエ)
〇「にらまれる以上のいじめが始まりそうな気がした」(タカハシ)
〇「自分の気持ちが満たされず居心地が悪い」(イシタ)
〇「視線を恐れた・・・みんながこわいから、敵だから、非難されたと・・・」(オヌマ)
〇「自分がのけものにされていると感じた・・・被害妄想・・・」(ハセガワ)