教育制度論I(2001年12月7日)  

 

・・・今日の授業では「制度改革」のアプローチについて、まず不登校対策をもとにして考えてもらった。スクールカウンセラー制度の評価や民間への委託事業などについて、その意味を考えてもらうのが目的であった。ここから苅谷剛彦氏の「意欲低下」「神話性」というのにつなげていって終わり。次週、苅谷先生のテキストを読み込みます。

 

前回説明した事項

◆準備されている機関、組織、対応(制度)など
民間・・・フリースクール、フリースペース、夜間中学、予備校、山村留学
学校・・・サポート校、心の相談室指導員、スクールカウンセラー
行政・・・適応指導教室、児童相談所

 

 もう少し、具体的に示せば、文部科学省の不登校に関する主な施策は以下のとおりである

不登校児童生徒に対し柔軟な対応を行なう観点からの施策

  ・適応指導教室の整備

  ・不登校児童生徒の適応指導総合調査研究委託−スクーリング・サポート・プログラム−

  ・出席扱いについての措置

授業がわかりやすく子どもたちが進んで登校したいと思えるような学校づくりをめざす観点からの施策

  ・教育課程の基準の改善

  ・教員の資質向上

  ・教育相談体制の充実

  ・学校・家庭・地域の連携

 

さらにもう少し具体的にみていく。

1 登校拒否ひきこもりの背景

 登校拒否は時代とともに変化してきている、社会の鏡として様々な影響を受けているが、その背景として考えられるものとして5つの項目をあげる。

@少子化による人間関係の変化、崩れがみられること。
A地域社会の教育力の低下。
B学歴社会、幼児早期教育による新しいタイプの学力優等生の息切れがみられること。
C効率化優先の社会によって、競争原理の社会と家族の論理との間でゆがみ=矛盾が生じ、家庭内弱者の子どもに不登校やいじめ、援助交際などの症状があらわれていること。
D父性と母性の問題として、父性が昔のように受け継がれたり実子とのかかわりで機能しないように社会が変わっていることと、母性との問題として母子密着や過剰適応の問題があること。

 以上がその特徴として考えられる。

 特に問題なのは母子関係で母子分離ができるか、あるいはできずに母子分離不安があるかで問題が起こり、「仮想現実」に逃げるか、「未熟化」により学級崩壊などに陥るか、人間関係力が育たず摂食障害やひきこもり、アパシー型不登校が増えてきていることである。

 

2 タイプ別見分け方の一例

 多様な症状であり、原因も様々であるからある程度タイプ分けしてとらえる必要がある。文部省分類型の7つの区分(学校生活に起因する型、あそび・非行型、無気力型、不安などの情緒混乱型、複合型、意図的な拒否の型、その他)が代表的なもの。親との関わりでいじめ、校内暴力、学級崩壊、キレる子、援助交際、不登校、摂食障害、神経症、アパシー化、家庭内暴力、家出、ひきこもり長期化、薬物依存、等の分布を表示してとらえるものもある。

 

3 不登校追跡調査の途中報告(概要)

 三段階の追跡調査の方法と分析(途中)の結果みられるだいたいの傾向をお話しさせていただきました。

 平成5年卒者の不登校原簿をもとに基礎調査を行ない(対象:25992人、有効回収率74.2%。平成10年11月〜平成11年2月)、その後に郵送法によるアンケート調査を実施し(対象:3307人、有効回収率42.1%。平成11年3月〜4月)、さらに了解をいただいた中から電話によるインタビュー調査(対象:952人、有効回収率49.1%。平成11年9月〜10月)を行なった。

 不登校継続のタイプ分けを行ない、「学校生活の問題」、「非行・遊び」、「無気力」、「情緒的な混乱」、「自ら好んで(意図的)」、「複数の理由」、「その他」に分類し、現在の状態(学生、就労、不就労など)と照らし合わせて分析を行なった。

 社会適応しているのは「非行・遊び」タイプであり、次は「自ら好んで(意図的)」というタイプである。自己に対する肯定感があるので、当時は自分探しであったといえる。現在は充実感をもっているタイプである。「非行・遊び」タイプについては昔は犯罪にむすびつく理由の多くが、貧しいがゆえにということであったが、現在このタイプの「不登校」等の問題行動については「自分の存在証明」ということがあるようである。

 同各タイプごとの不登校当時の様子についても詳細な項目について調査している。その分析から「自我防衛」、「離脱志向」、「学歴志向」、「フラストレーション傾向」、「安心空間志向」、「方向喪失」、という特徴に分けてその傾向を裏付けている。

 詳細はまだ発表前であり、ここに掲載はできないが、大きな傾向としては、「学校生活の問題」グループの特徴は「自我防衛」が多くみられるようである。「情緒的な混乱」グループも「自我防衛」が多くみられるのが特徴である。以上の二つは若干の差異もみられる。

 「無気力」グループは「離脱志向」、「方向喪失」、「自我防衛」の特徴がみられる。やや「離脱志向」が強めに表れているか。

 「複数の理由」グループは調査の結果としては多い順から、「自我防衛」、「方向喪失」、「フラストレーション傾向」・「離脱志向」の特徴がみられた。

 前述の社会適応しやすい「非行・遊び」グループは「離脱志向」と「フラストレーション傾向」が強くみられるのが特徴である。また「方向喪失」も若干みられた。

 もう一つの社会適応しやすい傾向をもつ集団である「自ら好んで(意図的)」のグループは「離脱志向」と「安心空間志向」が強くみられるのが特徴である。

 ちなみに詳細は記さなかったが、その項目として、「自我防衛」のカテゴリーには「体調がすぐれない」、「他人の目が気になる」、「あせりや不安を感じる」、「孤独やさびしさを感じる」、「くやんだり情けなく思う」がある。

 「離脱志向」には「学校の友人とつきあう」、「家から外出」、「学外の友人とつきあう」、「夜遊びなどをする」という項目がある。

 「学歴志向」のカテゴリーに含む項目としては「塾など外で勉強」、「自宅で勉強」という項目をつくっている。

 「フラストレーション傾向」としては、「口論やけんかをする」、「ものにあたる」、「いらいらする」の項目がある。

 「安心空間志向」のカテゴリーには「趣味を楽しむ」、「家族と会話」とがある。

 「方向喪失」として、「時間をもてあます」、「やる気がおきない」、「ぼんやりして集中できない」、「生活時間が乱れる」の各項目がある。

  以上の各項目ごとに答えをチェックして、どのような傾向がみられるのか分析した。その結果が上に述べた「特徴」である。

 

  *以上の追跡調査の報告がまたれる。現在の不登校対策に大きく寄与すると思われる。