<コラム>「サンボと他の格闘技(その11)」 2005年3月31日

 「柔術」との接点・・・

 

「レスリングが意識されていたからこそ、今のような『サンボの関節技』がつくりあげられてきたのではないか」という私の考えを、ここまで少し書いてきた。さて、次に「柔術」についても少し触れておきたい。

「サンボ」を語るとき、特に日本では、これまで「柔道」の影響が大きく語られてきたということについては既に書いた。それは「柔道」の本家は日本であるし、またロシア側にしてもサンビストが「五輪」で活躍する場として「柔道」は重要な位置を占める。「レスリング」については、実はかつて「サンボ」は国際レスリング連盟(FILA)に加盟し、「レスリングの一スタイル」として認証を受けていたときがあった。フリー・スタイル、グレコ・ローマン・スタイルと並び、サンボ・スタイルとして認められていた。「ジャケット・レスリング」と呼ばれることがあったのはこのためである。「国際的な普及」のための措置ではあった。しかしモスクワ・オリンピックでの公開競技にすることができず(一般的には「レスリング」という種目で3スタイルもあり、階級制となると、メダル数が多くなってしまうと反対があったといわれている)、「レスリング界」内へ統合されることにはうまみがない。それで国際サンボ連盟(FIAS)として独立するに至った経緯がある。「ジャケット」着用という点において、柔道とは共通点が多く、「五輪出場」でも一番多く活躍できる場となってきている。そういう複雑な問題もあってか、「レスリング」と「サンボ」の関係はこれまで書かれてこないでいた。

しかし、初期においては「レスリング」の影響も強くあり、むしろ「柔道との違い」にはこのレスリングの影響があったと考えていると書いた。もちろん土着のバリバー(格技)の影響が強いが、関節技やテイクダウンのしかたに影響がみられるという意味において「レスリング」の影響は外せない。

さて、今回は「柔術」について述べてみたい。これも「影響」が語られることはあったが、しかし「柔道」重視の考えがあってか、「柔術も当時ロシア内に入っていた」程度の指摘にとどまっていた。柔道を伝えたのはオシェプコフで、その弟子がハルランピエフ。そしてサンボ創設前に「柔術」を伝えていた人物としてスピリドノフという者がいた・・・、とこの程度の記述であった。ちなみに今回の背景画像がオシェプコフ。「柔道」だけれど下が短パンなのはサンボに近いか? 当時の民族格技のうちいくつかは短パンのものがみられたが、それらの影響だろうか。

さて、「柔術」について述べていく。ロシア語のスペルでは“ДЖИУ−ДЖИТЦУ”と書く(ちなみに柔道のことは“дзюдо”と書くので、読み方は「ジウジツ」か?)。これをロシアで最初に教えた人物として確認されているのが「スピリドノフ」である。ロシアのサンボ史においては、このスピリドノフとオシェプコフ、そしてハルランピエフの名が語られないことはない。その後に続くのがヴォルコフやチュマコフ・・・。つまりスピリドノフは「サンボ創世」に大きく関わったとされる人物である。

フルネームは、ビクトル・アファナシービッチ・スピリドノフ。1883年にモスクワに生まれ、陸軍に入隊し、1905年の日露戦争では満州に行っている(1943年の大戦時に没)。当時の活躍に対して勲章も授与され、後に軍隊内で体育専門家となった。兵士の訓練のための教育者的立場にあったということである。おそらく満州時代の体験があったのだろう。「護身の技術」を兵隊訓練として教授するようになった。このころ、柔術を研究していたと思われる。モスクワで徴兵学生対象のクラスをもっていたときの授業は「武器なしでの防御&攻撃方法」であり、いまいわれる「コマンドサンボ」の源流ともいえるのではないか。なお、ロシアの歴史上「護身術」という分野の技術はこのスピリドノフに始まるとされている。「柔術」が影響したともいえるが、スピリドノフは「様々な手法を研究し、その中からより良い方法を抽出し、編纂し、体系化した」(例えば「ロシアのホームページ」参照)のであった。柔術の不足している部分に気づき修正したともいわれている。そのような形が1921年頃には創られ、1923年には「ディナモ」の中にそのためのクラブがつくられた。そこでつくりあげられたのが「サモザシータ・ビズ・アルジャー」(самозащита без оружия)であり、スポーツの応用部分として研究されていったのである。ディナモなど、内務省系でこれを伝え、警察では逮捕術的なものになったし、軍隊では「コマンドサンボ」(боевого самбо)になったといわれている。

そしてこの「サモザシータ」が「サンボ」のもとになったと考えられている。すると・・・、「柔術」はその原点技術の一部であったということになるのではないか?(もう少し、続けます)

 (続)

 


 

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