<コラム>「サンボと他の格闘技(その10)」 2005年3月28日

 「レスリング」との接点・・・(さらに続く)

 

私は「レスリング」が意識されていたからこそ、今のような「サンボの関節技」がつくりあげられてきたのではないかと考えている。例えば一つ。・・・「ビクトル投げ」と形容される「回転しての膝十字・股さきへの連絡技」は「昔のレスリング」にはあった。「たが固め」をご存知だろうか? おそらく知っている人は少ない・・・。

「たが固め」を私は八田一郎氏(故人)のスクラップブックの中にある記事から知ることとなった。1930(昭和5)年から1931(昭和6)年までのレスリング草創期の新聞記事類を切り抜いたものである。今では国立国会図書館に(未整理だが)所蔵されている。この時期のレスリングを紹介する記事にこの「たが固め」があった。カタカナで「キャドル・ホールド・ウィズ・レッグ・バー」とルビがふってある。「キャドル」はおそらく “cuddle”であり、「抱擁」を意味する。身体に巻きつく、あるいはたしかに「お姫様抱っこ」の形にも似てみえなくはない。そして自分の脚を相手の股間に差し入れ、その足は相手の膝裏を制している。手前の相手の脚を抱え込み、もう一方の手で首を巻きながらエビ固めにきめているのである。「ビクトル投げ」のフィニッシュと実によく似ている。

単なる「エビ固め」(クラッチホールド)ではない。自分の足をいれて、それで相手が起き上がるのを防いでいるのだ。これが古きレスリングには技術としてあった。

他にも古典的なレスリングでは腕や足、肩や首、股関節や腰まできかせる技が豊富にあった。前回のコラムのページの「背景」画像は「ギリシャ・ローマ時代」のレスリングを象徴する像である。「パンクラチオン」等の呼称で語られることもある。性器までつかみあったりといった像もある。ちなみに今回のコラムの背景画像は私が米国での試合で「ビクトル投げ」をきめた瞬間である。関節をとらないので「キャドル・ホールド・ウィズ・レッグ・バー」を狙ったシーンといえようか。

これらの技は古いレスリングにも共通してあった。同じような姿勢で闘うバリバー(民族相撲)を統合する試みから生まれた「サンボ」。加えて「柔道」「柔術」も研究された。同じようにソ連(ロシア)ではレスリングが盛んで、強豪国として知られていた。ハルランピエフも、そして彼の父(アルカディ)もレスリング経験者でもあった。前回までのコラムで見たように「柔道」に進出する1960年ぐらいまでは、「柔道の試合」にも参加していない状態であり、それまで「サンボ」の成果は「レスリング」で体現されていたのであった。

レスラーが取り組んだ「サンボ」。レスラーたちが切磋琢磨していく過程において、そのテクニックが研ぎ澄まされていったと考えるのは普通のことではないか。世界王者バロワーゼなどが使っていたサンボの技術。私の師であるテディアッシビリもレスリング世界王者。事実は「柔道」の前にヨーロッパのレスリングの影響があったということである。

ちなみに私がこの「ビクトル投げ」をレスリングで使ったのは高校1年で出た関東選抜大会でが初めてであった(だからサンボを意識したロシア遠征より以前のこと)。私はこのときには「キャドル・ホールド〜」にはまだ気づいていない。父の「ビクトル投げ」を見て、頭に残っていたから咄嗟に出たというのが実際のところである。練習でも使ったことはなかった。カニバサミは片足タックルをとられてからのカウンターとして最初から意識していた。これも父の本で読んで知っていた。この時もカニに跳ぼうとした時に相手をコントロールしきれず、前に出てくる勢いがあったので咄嗟に変化した。誇るわけではないが、「ビクトル投げ」がレスリング界で使われたのは少なくとも日本では初めてのはずだ。その後、これはインターハイ王者にも(大学入学後にだが)かかったし、数回使っている。もちろん失敗したこともあり、米国での試合で一度失敗して逆転負けをしたこともあった。コントロールの難しい技術である。最近、これを「タックルへのカウンター」として何人かの指導者が教えているのを見たが微笑ましい気持ちになった。裸でということであればその後にプロレスや総合格闘技でも使われるようにもなってきた。

 

最後につけくわえておきたい。今、NPOのサンボ組織(ディフェンス・プラン・サンボ振興会)があって私も協力させていただいている。また技術についても学ばせていただいている。ここの田中康弘代表理事が書いているのだが、「本当のビクトル投げ」はまた違った部分がある。田中代表はそれを「オリジナル・ビクトル投げ」と名づけてくれた。そのとおりに思うのだが、私のやったのは「キャドル〜」の変形であり、レスリング式に自分でつくったカウンター技術。そして同じように本で紹介された「カタチ」から真似して世の中の人たちが「ビクトル投げ」と呼んでいる「いわゆるビクトル投げ」がまた一つ。これはカタチ的にはロシアの「回転膝十字」の系統ではある。しかし、実はビクトル氏の「ビクトル投げ」は「肘・肩」への極めが加わるものすごく危険な技で、写真やビデオでも表現しにくいものなのである。

今回のストーリーを整理すれば、レスリングにあった「キャドル〜」は当然、展開として彼らには理解可能な範囲にあったであろうから、そのような足関節が発展するのも可能であったろう。その意味で「レスリング」と関節技には関係性があるのを否定できない。ただ、そこからさらにオリジナルな要素が加えられつくられたのが「ビクトル古賀氏によるオリジナル・ビクトル投げ」なのだということである。

 (続)

 


 

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