<コラム>「サンボと他の格闘技(その9)」 2005年3月28日

 「レスリング」との接点・・・(続き)

 ロシア人の「かわず掛け」に私が魅せられたように、同じように1955(昭和30)年にソ連遠征をした日本レスリングチームが「かわず」に驚き、その謎が「サンボ」にあることに気づいた。前回はそのことについて資料を数点だけ紹介した。

ちなみに高校時代の話しを書き、そこで現在のレスリングの技術はほとんど当時に私のいた高校で採用したものだと書いてしまったが、今それを使っている選手はそれで高いレベルで使っているのだから素晴らしい。私が書きたかったのは「ソ連との交流から情報が入ってきていた」という事実のみであった。

もっと以前でも同様の例はある。例えば、「がぶり返し」と呼ばれる技。最近では「スピニング・チョーク」なる絞め技のモデルにもなっているともいわれるが、レスリングの基本技の一つである。これは昔は「ロシアン・ロール」と呼ばれていた。これもこの遠征の頃に初めて発見された。1955(昭和30)年「東京スポーツ」4月号で笹原正三氏が遠征の思い出について、「かれらは特にグレコロマン型のブリッジを利用し相手をかえす立ちわざが非常にうまく体力が弱い我々はしばしば苦戦したのである。私がソ連を訪ねて勉強になった事はこのグレコロマン型の体得であり、見えなかった国のスポーツとの対戦経験であったと思う。」と書いていた。カワズもブリッジするような体勢から、このがぶり返しも同じように、また他に「横捨て身」と呼ばれる投げ方もある。今では基本技となっているこれらの技は、この当時にとり入れられ始めたのであった(もちろん他の国の選手のすぐれた技もある:例えば「トルコ刈り」等が有名)。

 私が「レスリングとサンボ」の関係性について、さらに深く関心をもつことになった(確信を深めた)のは高校3年生の時であった。笹原先生指導の練習を通して教えられ、そしてその時にある本を贈っていただいたのである。この本は私の持っているレスリング関係の中でもっとも影響を受けたもので、もっとも高度な技術が網羅されていると考えている。海外用の本で、“FILA Wrestling Album  FREE STYLE”というもの。これには先の記事にあったように笹原氏が(旧)ソ連で学んできた技術もちゃんと熟成されて紹介されている。この本を見ると「レスリング」が「関節を制する競技」なのだということが私にはイメージできた。たしかに「関節技」で極めるのはイリーガル(反則)である。目的はフォールとして相手を押さえつけること。ただ、投げて背中や他の部分を地面につけさすことで勝負をつける「相撲」(世界の相撲)より進んで寝技の発展がある。行き着く先は「フォール」ではある。投げて背中をつけさす延長でもある。しかし「ネルソン」「腕とり固め」「エビ固め」「アンクルホールド」等、関節技で極めるのに直結する技(でありながら、あくまでもひっくり返すのが目的)がたくさんある。この本で私は「関節技もレスリングの影響もあるのでは」と直感するに至った。

 もちろんビクトル古賀が「関節技をとるというのは極めて東洋的な発想は、いかにして生じたのであろうか。やはり、それについては柔道、柔術からの影響について考えなければならなくなる。」(『サンボ入門』サンボ・アカデミー。9ページ)と書いているように「関節技」で極める行為自体はレスリングにはない。それを柔道・柔術に求めるのも理解できるし、サンボ創設者のハルランピエフが「柔道」を学んだことも事実としてある。以上のことはすでにコラムに書いてきている。

しかし、私は「レスリング」が意識されていたからこそ、今のような「サンボの関節技」がつくりあげられてきたのではないかと考えているのである。これは「足関節技は柔道にないじゃないか?」というレベルの問いかけではない。「実は古い柔道には禁止技だがあった」とか「古流柔術には足を極める技があった」等の意見もあるだろう。それは個別には事例としてあるだろう。「カワズ」だって、相撲のテクニックとして脚の使い方は世界中にあると考えている。そうではなく、カワズから向き合って引っぱって投げ、反りを加えるという点に地域的な特色が出ているのである。「どこかだけ」を誇っても意味はない。そうではなくて「可能性」の問題なのだ。おそらく「レスリング」が普及している中で発展するという可能性の部分を私は考えているのである。

「相撲」的なバリバーでもヨーロッパの地域では、あるいはオイルまでつけるなどアジアの地域でも、「レスリング」的に低く、ふところが深い姿勢の争いになる。例えばシューズがあればそこをひっかけるし、腰より低い脚を刈る方が自分の重心も安定する。レスリングの基本と同じである。足をとって倒せば、そこから「降参させる」技を発展させるとしたら、一番手っとり早いのは「どこ」の関節をとればいいのか。それが競いあいながら考えられたとしたらどのようになっていくのか?

 

以上は「仮定」にすぎない。しかし、世の中の人は「レスリング」を知らなさすぎる。今のレスリングをながめて理解する程度だし、レスラー(選手)自体が意外にも昔からの経緯を知らない。最後に一つ。・・・「ビクトル投げ」と形容される「回転しての膝十字・股さきへの連絡技」は「昔のレスリング」にはあった。「たが固め」をご存知だろうか? おそらく知っている人は少ない・・・。

 (続)

 


 

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