●<コラム>「サンボと他の格闘技(その2)」 2005年3月24日
・・・初来日して、柔道と対決した「サンビスト」(サンボ選手)たちとは、軽量級のステパノフ、中量級のパンクラトフ、重量級のベリアシュビリと、シュリッツの4人であった。彼らはアマチュア・レスリングの選手団に伴って来日し、「柔道」との交流戦を各地で行なったのである。・・・ よく語られるエピソードである。レスリング強国として知られるソ連のレスリングと日本の対抗戦。これは昭和38(1963)年2月に行なわれたが、サンビストたちもそれに付いてくる形で招かれた。全部で4戦を闘っている。 第1戦は2月19日に群馬県営前橋スポーツセンターで行なわれた。「柔道」ルール初戦だが本家「日本」に3−1で敗れている。ここで1勝して注目されたのがシュリッツ選手。学生の強豪である前田征雄選手(東洋大)を腕十字固めの関節技で敗っている(1分35秒)。第2戦は22日に神戸YMCA体育館で行なわれた。ここでは柔道は2−2の引き分けとなった。軽量級のステパノフ選手が橋選手(専大)に優勢勝ち。シュリッツも芦田選手(京都府警)に優勢勝ち。続く第3戦は24日に神奈川県の横浜市文化体育館で行なわれ、ソ連が3−1で日本チームに勝利することとなった。軽量級のステパノフは高橋茂選手(法大)を攻めきって優勢勝ち。パンクラトフ選手は敗れるも、重量級のベルアシュビリ選手が関根正選手(法大)に合わせ技で勝ち、続くシュリッツも山本彰一選手(中大)に優勢勝ち。ここまででチームとして1勝1敗1引き分けとなった。 最終戦は26日、東京体育館で行なわれたがここでは日本チームが2−1(1引き分け)で勝利をあげた。しかし重量級ではベルアシュビリが村井正芳選手(明大)に優勢勝ち、続く「ここまで全勝」のシュリッツを白崎淳悦選手(日大)も攻略できずに引き分けとなり、重量級のパワーと寝技対策に不安を残したままとなった。 この「対抗戦」からサンボは注目され、例えば前回明記した「サンボの本」が2冊書かれることとなった。例えば山本氏の本にはシュリッツらの写真や彼らのメッセージが掲載されている。ホスト側の「柔道」側からその後「サンボ」が研究されていくはじまりとなった。 ちなみに、格闘技研究家(スポーツ文化論?と仰られている)の松浪健四郎『格闘技バイブル』(ベースボール・マガジン社。1988年)では「柔道とサンボ」として章だてがされ、スポーツの本としては比較的に多くサンボについて書かれた記述ではある。しかし内容は残念ながらお粗末としかいいようがない。例えば、前掲のエピソードにしてもあまりにも混同や誤記が多い。例えば「(1)柔道がサンボに敗れた日」という節では、「神戸YMCA体育館で、全日本学生チャンピォンの白鷺(日大)が外人選手に体落しで「一本」をとられたときは、柔道関係者ならずとも唖然とした」としている(184ページ)。これは誰かと混同しているのか、あるいは別の試合の機会を述べているのか。しかしこの試合のセンセーショナルさを説明するために「白鷺戦の主審をつとめた」「大谷晃大阪府警師範(八段)」が「体落しが決まると同時に胸を押さえて座り込み、そのまま不帰の人となった」エピソードが書かれている。そして「明らかに「ショック死」」と書いている。 ちなみに、東京新聞の昭和38年2/23(土)の記事では以下のとおりである。 主審の大谷八段死亡 日ソ柔道対抗試合中に 【神戸】二十二日午後八時半ごろ、神戸市生田区、YMCA体育館で行なわれていた日ソ親善レスリング・柔道対抗戦第二戦の柔道第一試合で、主審の大谷晃八段(五六)=大阪府貝塚市沢九三九=が突然苦しみ出し、控え室で手当てを受けたが間もなく死んだ。心臓マヒらしい。試合中に審判員が倒れて死亡したのははじめてのケース。 大谷八段は大阪府警教養課技師で同府警の柔道師範、昭和九年に日本選手権をとっている。 他のどの新聞をみても、ステパノフ選手と橋選手の対戦であったことがわかる。白鷺(日大)とは最終戦でシュリッツと戦った東京王者の白崎選手(日大)との混同か? 松浪氏の書くことはよくわからない。続いて「ついで前橋の大会でも日本人は敗れ」と書いてあるが「前橋」は第1戦であった。さらに「四人のソ連柔道選手団の主力選手はジェンビシー・ミッシェンコ」と書いている。これはゲンリッヒ・シュリッツとミッシェンコを混同したのであろうか。この誤解と誤記の山・・・(事実誤認だらけ)。いったい裏付けの「資料」はどこまで確認しているのか。松浪氏の書くものは「松浪氏の書いたストーリー」であっても「研究」たりえないものである。もちろん「格闘技バイブル」などは「安易な本」として意識して書かれたのかもしれない。ご自分は「高尚な研究者」であり、専門的な分野では違うと仰られるだろうか。しかし、とにかく、「安易な書き物」が世の中には多すぎる。満足に調べず、考えず、自分のステージだけをアップさせていく人間が多すぎる。そういう人たちにより間違った物語が更新されつづけていることもまた事実なのである。 (続) |
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