<コラム>「サンボ戦士(サンビスト)の活躍!(その2)」 2005年1月

 PRIDE王者(「人類の頂点」とか宣伝されていますが)をかけた「暫定王者」ノゲイラと「PRIDEヘビー級王者」エメリャーエンコ・ヒョードル(正式には「エメリヤネンコ・フョードル」)が昨年、夏のPRIDEグランプリの決勝戦で顔をあわせました。それぞれ準決勝でフョードルが小川直也選手を、ノゲイラがハリトーノフ選手をやぶり、決戦の舞台へと上がったわけです。結果は、試合中のバッティングにより「裁定なし」となり、このコラムを書いている時点ではすでに大晦日での「再戦」も終えてフョードルの勝利という結果が出ております。

さて、ちなみに私は夏のグランプリの一週間前に出版社のインタビューを受け、フョードル選手の「選手としての性質」について応えたことがあるのですが、いま読み返してみてもそんなに的が外れてはいないかなと思っています。結果云々ではなく、前回のコラムにも書いたことを私は感じ続け、考えているわけです。今回はその記事の内容をまず紹介します。

 

「相手と向かい合う“ポジション”と“重心”、これがヒョードルの強さです」

(*上のような見出しで始まる記事)

筋肉の鎧には見えないヒョードルの体型、それでは、その強さの秘密は? 一般にはあまり馴染みのない、未知なる戦闘術、ソ連の国技としての格闘技“サンボ”の謎に迫る!! (*以上がキャプション。以下が私の談話内容)

“サンボ”はソ連の、正式な国技として認められたスポーツです

最近になってヒョードルやハリトーノフらの活躍もあって、「サンボ」という競技が格闘技ファンの間で注目されつつありますが、ルールなど、まだまだ知られていない部分も多いですよね。そもそも「サンボ」は、国内各地の格闘技や柔道・柔術を模範として誕生し、旧ソ連時代の1938年6月、正式に「国技」として認められたスポーツ。マット上でシューズ、短パン、ジャケットを身に着けて戦い、基本的には投げ技か、手首と首以外の関節技による一本で勝負が決まります。ルールは柔道と違って、立った状態から足への関節技も認められていて、ほぼ全身への関節技がOK。その分、関節の取り方が多種多様で、柔道の場合、その取り方が2、3種類だとすると、サンボの場合は30種類もあります。でも、だからと言って柔道よりもサンボが強いかと言ったら、単純にそうとは言い切れません。何と言っても柔道には長い歴史があるし、たとえば日本の場合、競技人口が多く、オリンピックレベルの選手がゴロゴロいるという、物凄い厳しさの中で切磋琢磨し合っているわけですからね。ヒョードルもロシアの柔道オリンピック候補でしたけど、小川直也と柔道の試合をやったら、たぶん高い確率で投げられちゃうでしょう。

ただ、サンボが盛んなロシアでは、子供の頃から関節の取り合いなんかを普通にしていて、中にはサンボの授業を必修で半日ほどやるような、国家からきちんと認められたサンボの小学校まで存在する。当然、国技だから競技人口も多くて、ロシア国内で数十万人もいるから、柔道同様、発展のスピードが違いますよね。日本の柔道史上、もっとも寝技が強いと言われた人に、国際武道大学の柏崎先生がいますが、サンボの選手の技を研究してそれを日本に持ち込み、十字固めなどの寝技を発展、進化させた人です。柔道を模範に生まれたサンボからのブーメラン効果というか、サンボ独自に発展した関節技が後の柔道界に与えた影響も少なくありません。

私自身、サンボのロシア人選手と何度か一緒にトレーニングをしましたが、吊るしてあるロープを登ったり、人を担いだままスクワットをしたり、ダッシュした直後にタックルに行ったり・・・原始的ながら、非常に実戦的な練習をやっていました。ヒョードルを筆頭に、ロシア人選手は筋肉ムキムキなわけでもなく、見た目にインパクトのある人が少ないけど、試合になれば、ゴツイ身体をしているにもかかわらず、動きが素早いし、パワーも結構ある。そのへんの秘密はサンボを学んでいく中で、子供の頃からそういう実戦的な練習を積み重ねてきたことにもあるのではないでしょうか。

ヒョードルの強さは「パンチ」にあると言う人がいますが、私は何よりも「ポジション」と「重心」にあると思っています。サンボに“相手の攻撃を受けない位置から相手を制する”という極意がありますが、ヒョードルの試合はまさにそれを体現している(※詳細は写真解説を参照のこと)というか。あとは自分の得意パターン、勝利の方程式を試合の中で延々と繰り返すことができる勤勉さ。自分が不利な時は下手に相手の攻撃に付き合わず、とにかく逃げて(試合中のリカバリーが恐ろしく完璧。逃げる練習も普段から相当していることが窺えます)、一度リセットしちゃう。ふつうそういう繰り返しはしんどくて疲れるから嫌がるんですけど、彼はすごく地道に勝つまでそれをやる。ミルコなんかも完全にそうですよね。相手が寝技に持ち込もうとしても「立て、立て。立て!」ってアピールして、絶対それに付き合おうとしない。ただし、ヒョードルが彼と違うのは、殴るだけじゃなく、関節もできれば、絞めもできるし、下になっても何かできるという、勝ちパターンをいくつも持っている点。特筆するような武器はないけど、すべてが必殺技になり得るという。

PRIDEのリングでまだ負けたことがないというのもありますが、ほとんど死角が見当たらないし、負けるシーンが想像できない。強いて言えば、立ち技の巧い人がパンチを当てちゃった時ですが、殴り合いになったら、はっきり言って当たったもん勝ち。運もありますからね。

サンボは柔道と違って、できるだけ相手に組ませないよう脇を締めて戦うのが基本。そのへんが総合のルールで戦う場合、相手に殴らせない距離というものをサンビスト達は自然と身につけている・・・・・そういう点で、有利に働いている部分も多分にあるのでしょう。打撃こそないけど、サンボに慣れているロシア人は総合格闘技のルールに馴染みやすいというか。その中で磨かれたのがハリトーノフであり、ヒョードルであるというわけです。

<コンビニで発売のコミック『ARMS』[灼熱](2004年9月17日発売)に掲載>

 


 

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