第9回 (6月13日)
 
近代教育内容の日米並行比較(続)
「サンフランシスコと、明治初期日本との教育内容の比較」
 
 前回の続きの前に・・・、最近の新聞各紙面には大阪教育大学附属小学校でのいたましい事件について、どんどん事実が明らかにされ報道が加熱していっていますが、その中で容疑者(犯人)が犯行の動機を「復讐」だといったとの記事がありました。「元妻に対して」のとか「有名校を襲撃すれば・・・」といったことを話したというのですね。「自分」を「わかってほしい」という攻撃性に満ちた考え方、判断、行動であったわけです。「自己」というのは難しい問題ですが、「他者」との関係でですね。難しいのですが、しかし「他人」あるいは「物事」を理解するというのは、アタマの中で「仮想体験」として「体感」するということに置き換えられますね。
 私と、ここにいるインドウさんが話す(立ってもらって、話す)。自己紹介をしあいます(少し話す)。・・・その時、みている皆さんのアタマの中ではこういうシーンがあるわけですね(板書する)。
 「私=古賀」と「彼女=インドウさん」が話している図。これが起こっている現実ですね。状態として・・・。それがこの「絵図」の状態があなたたちのアタマの中に刹那の瞬間というかほぼ同時に再生されている・・・。何がいいたいかというと、きいている、みている皆さんは「この絵」でいう「私」でも「彼女」でもないわけです。だから「私」の話す表層はわかるけれど、その裏のことや背景なんかはよほどの知人でないと「わからない」のですね。いや「わからない」のが現実です。自分のことだってわからないことがあると悩むことさえあるのに・・・。だから「想像でしかない」。
 「私」と「彼女」でさえ、お互いにアタマの中でこの構図が同時並行にあるのですが、相手のことは「想像」でしかないですね。もっというと相手のことを「想像」して理解していくわけです。構造化していく、概念化していく、整理していく・・・。
 さらにいうと、複雑になりますが、アタマの中で「自分」でないものは「自分」が演じているともいえます。想像で演技をしている、なりきっているわけです。もちろん自動操縦でオウム返しに流しているだけで「想像しない」こともありえます。でもこれは「わかろうとしない」ということだともいえます。
 ちょっと実験を続けると、・・・これは心理系の授業でやってるんじゃないかと思いますが、・・・例えばそこのハットリさんにでてきていただく。それでインドウさんと二人で自己紹介してもらいます(ハットリさんとインドウさんに話してもらう)。皆さん、みていてください。・・・
 ・・・はい、2分間話してもらいました。では、ここでエクササイズの一つとして両者逆の人物(相手)になりかわって「自己紹介」してもらいます。そういったら・・・、しゃべったのは2分ですから、それぞれ1分間の情報が入っているとして1分間話せるでしょうか。相手になりきって・・・。これを10分間話して5分ずつとかできるでしょうか。そうできるようにするエクササイズです。このとき「わかろう」として想像していく人にはできます。知的好奇心でも理解力でも応用力でも吸収力でもいいのですが、そういうものです。つまり「わかろうという態度」なくして「わからない」。そういうものでもある。で、もう一つ、周りで観ていた皆さんも「アタマの中」の世界でなりきっていたはずです。「わかろう」としていたなら・・・。そういって皆さんの誰かにここに出てきてもらって彼女たちのどちらかになりきってもらって自己紹介してもらう。演技力というか洞察力を養うエクササイズなのですが、人間のアタマの中の構造はそういうものです。
 インドウさんとハットリさん、ありがとうございました(席に戻っていただく)。
 ・・・さて、最初に言った容疑者のコトバですが、これが「観念」的世界でつくられてしまったものの結果だともいえます。実は「アタマの中」の世界、劇場は「観念」の世界ともいえます。アニメ的なものからものすごいリアリティあるものまで千差万別でしょうが、人のアタマの中にはこういう世界がある。これが「理解」のために多様性・柔軟性をもってうけいれている場合はいいのですが、排他的というかすべて周囲を敵視して「自己」中心に凝り固まった時、例えば周囲が自分に攻撃しているとか被害妄想をもった時、おそろしい観念的思考でもって超攻撃性ある行動にあらわれることがあります。
 私が関わっている不登校児童や引きこもりの少年の中にも、例えば精神科医に「分裂症」と診断されて抗精神剤を投薬され、その結果幻覚をみるようになってしまったなどの実例があります。ある意味、無理やり活動を止めて強制的に眠らせるのですから、その行動欲求が「夢」「アタマ」あるいは「観念」の世界に噴出するのですね。そこで「仮想体験」はよくいわれる「バーチャルリアリティ」の悪い面として食い違った妄想となりやすい。人がモノもみえたり、排するべき敵にみえたり・・・。いわゆる酒鬼薔薇事件で「透明な存在の自分」というコトバに多くの人が共感をおぼえたように、そういう「わかってもらえない」不安と不満にうめつくされた心は誰もがもっている部分で、そういう部分が大きく共鳴しちゃうときもあるのですね。そういう時に「他者」なき「自己」が増大することがあり、危険な状態に陥る可能性もあるわけです。また、こういったこともお話しします。
 
 
3、「サンフランシスコ教則」(“Rules and Regulations" )の内容
 
 それでは続きです。前回みた日本の「師範学校附属小学教則」が直訳的であったと仮説をたてたのなら、それを立証しなくてはなりません。「立証」の近道の一つは「原本」を示すことです。そこで前回もいった三つの米国関係教則と比較しようということです。
 従来は、通説では、「より実情にあったものが考案された」とか「実践を経て考案された」かのようにとらえられていた。私はこれが固定観念であると思うのです。この考え自体が日本の「独自性」を強く主張しています。私は以前にいったハンチントンのように「独自性」はあとから適応反応の一つとしてでてくるものと考えています。最初からなんでもかんでも「独自性」あふれていたのではないのではないかと考える。
 それで、仮説をたてます。「学制以上の、より具体的な直訳であった」、「この直訳のとおりに実践された」という考えです。もっというと、「その原本が当初の教育方法及び内容の根本理念として採用された」のではないかということです。
 その証明のために比較の視点で資料をみていきます。
 
 先ず、板倉聖宣氏がみつけながら教育史研究では軽視されていた二つの翻訳版米国教則です。板倉氏は以前にもお話しした仮説実験授業をすすめる研究者で科学史家です。昭和40年前後に学習院大学で次の資料、「亜米利加合衆国プライメリースクール教則」「亜米利加合衆国プライメリー グランマル学校教則」を発見、指摘したのです。
 その二つを、まず全体の配列を示すと次のようになります。
 
 
 左の「亜米利加合衆国プライメリースクール教則」が小学校の前半(プライマリー)課程のみであり、右の「亜米利加合衆国プライメリー グランマル学校教則」では加えて後半の(上級・グラマー)課程まで含まれている、そういう違いはわかりますね。教科は似通っていたり共通したり違うものもあったりします。
 この指摘から学習院でさらに英語版のサンフランシスコ教育を見つけたのが倉沢剛ですが、「板倉氏の指摘で見つけた」と書いていないのですね。独自にみつけたかのようになっている。たしかに英語版は倉沢が最初に紹介しました。次にあげます。
 
 
 
 
 こう見ると、倉沢の発見したサンフランシスコ教則は、「亜米利加合衆国プライメリー グランマル学校教則」とほぼ同じ構成だということがわかります(Drawingが欠けている)。細かに比べるとその翻訳原本だとわかるのですね。倉沢氏の功績です。しかし考察が詳細にまで及ばなかったというか、さらなる固定観念を生み出しました。細かにみていきますが、例えばその冊子を隅々まで読んでいないであろうための解釈の間違いがあります。翻訳版「亜米利加合衆国プライメリー グランマル学校教則」のテキストに「ウィルソン」というのがあって、それがあまりにも有名な「ウィルソンリーダー」であったというのはわかるのですが、そしてそれが「小学読本」の原本となったこともよく知られているのですが、倉沢はそれがこのサンフランシスコ版のとおりであると考えたのですね。
 たしかに、「Reading and Spelling・・・ Charts from 1 to 6 ; First Reader; spelling from the charts and readers, orally.」などと英語版にも記述はある。いかし、ちゃんと冊子(サンフランシスコのカリキュラム)を読めば、それが違うことがわかります。
 
(9) サンフランシスコの教則に指定された教科書。( 代表的なもの)
    Authorized Text-Books in Grammar and Primary Schools;
     McGuffey's Eclectic Reader
     Monteith's Introduction
     Swinton's Condensed History of the United States
     Robinson's Practical Arithmetic1st and 2nd Grades.
     Robinson's Rudiments of Arithmetic3d and 4th Grades.
     Robinson's First lessons in Mental and Written Arithmetic
5th, 6th and 7th Grades.
     Colburn's Intellectual Arithmetic,1st and 2nd Grades.
     Willson's Primary Speller5th, 6th and 7th Grades. etc
 
 このように使用テキストが示されていて、そこには「リーダー」は「リーダー」でも、ウィルソンではなく「マッガフィ」のものなんだと明記されています。アラン・ブルーム『アメリカンマインドの終焉』にも書いてあるのですが、このMcGuffeyの読本もすごく普及したものだったのですね。なんでも「リーダー」といえば「ウィルソン」と信じ込んでしまうこと。英文学にもすぐれた倉沢氏でさえそう間違えましたし、その影響もあってか後の研究者も気づかなかったのです。学習院大学図書館でも私が修士論文のために見に行った時、それまで数十年その史料を見に来た人がいないというぐらい、皆が信じて疑わなかったのです。おそろしいことですが、皆さんいい人ばかりで疑う心をもたなかったのでしょう。
 しかし、ここに示されたテキストが多くその後翻訳され、日本でも用いられます。そういう意味でまさにワンセットでの翻訳導入でした。ちなみにウィルソンリーダー等はさきに輸入されていたものをもう翻訳しはじめていたし、当時の和訳は冊子全体にまでいかなかったということはできるでしょう。しかし現代の「研究者」はそこまでやるのかというところまでみないとだめだと考えます。ちなみにこのサンフランシスコ版に指定されたとおりにいちおう「ウィルソン・リーダー」があてはめられて、その指示どおりに訳されてそれで「小学読本」となり、その順番どおりに日本の教則に導入されていきます。
 
 
4、カリキュラムの比較考察とその本質
 
 具体的に「並行比較」のために全部のカリキュラム(教則)を並べてみると次のようになります。
 



 



 

明治6年2月
創定下等
小学教則

明治6年5月
改正下等
小学教則

亜米利加合衆
国プライメリ
スクール教則

プライメリー
グランマル
学校教則
 
“Rules and
Regulations"
 





第8級



























 


読物


 

五十音図
濁音図
単語図1〜8
小学読本No.1
 の第1〜2
 

(ほぼ同じ)

連語図1〜8


 

牌 1〜8
ウィルソンスチ
 ャーツ1〜6
同プライメリ
 スペルレル
 初篇20章まで

ウィルソンス
 掛図
ウィルソンス
 第2リーダ
 ー
 

Charts 1〜6
First Reader;



 


算術

 

数字図 算盤
算用数字図
加算九々

 

(ほぼ同じ)



 

1 〜100 算
1 〜12 ローマ
 数字 位取り
加算九々 呼法

 

1 〜10加算
ローマ数字
由数記説


 

(同)Countin' r
eadin'writin'
 numbers to 1
00 numeral f
rame


習字

習字図
習字本
片仮名平仮名

(ほぼ同じ)
石盤

 

エビシ

綴字

草書
簡易頭文字
 



 

書取

50音
単語の仮名

(同じ)
 

ウィルソンスチ
 ャーツ4〜6

  ×
 

  ×
 

問答

 

単語図(食物
 器財、物質
 及び用法)
 

単語図(諸物
 の性質、用
 い方)
 

通常物 掛図1
 〜2
顔色〔色彩〕
第13掛図

五感その機能
通常物 家畜
正色〔原色〕
間色

(ほぼ同じ)


 

体操
 

  ×

 

体操図

 

  ×

 

  ×(△)

 

every class
at least
twice a day

復読


 


 

   ×
 

  ×
 

   ×
 

その他

  ×

 

  ×

 

『字韻』
『進退』

 

 ×

 

“Vocal Music"

 



第7級

























 


読物

 

連語図1〜8
小学読本1巻


 

小学読本1巻
 と2巻


 

ウィルソンス
 プライメリ
 スペルレル
 初50章
同第1リーダー

ウィルソンス
第2リーダー
スペラー50章


 





 


算術
 

100 〜10000
までの数。
乗算九々諳誦
 

(ほぼ同じ)
羅馬数字


 

1 〜1000算
1 〜12九々 一
億まで位取り
ローマ数字1000

1 〜100 加減
ロビンソンの
 テキスト
 50章




 

習字

習字本楷書
 

(同じ)
 

塗版手本
 

用紙 石版
塗版
 草書
 頭文字

 

黒板
各クラスに机、
ペン、紙を用意


 

書取

単語の仮名
 

(ほぼ同じ)
 

ウィルソンスぺ
 ラー中の語

問答
 

人体の部分
通常物
色図

(同じ)

 

通常物
体の部分

 

顔色〔色彩〕
通常の草木
野性動物

色図
植物
 

体操


 


 

『体操』
 


 


 

復読


 


 


 


 


 

その他
 




 




 

『字韻』
『進退』
『音楽』
『図法』




 

“Vocal Music"


 


第6級
























 


読物

 

小学読本2巻



 

小学読本3巻
地理初歩
地球儀


 

ウィルソンス
 プライメリ
 スペラー3分
の2
同第1リーダー

ウィルソンス
第3リーダー
スペラー90章


 





 

算術
 

小学算術書1
巻 加法
 

小学算術書で
 暗算 加法
 

ローマ数字2000
単数加減乗除
千億まで位取り

八算乗除
ロビンソンの
 算術書90章



 



習字本楷書
 

(同じ)
 

塗版手本
 

『文法』リー
ダーから名詞
形容詞 冠詞
作文 ・・・

 

“ Language"



 

書取

簡単な文字
 

小学読本から
 

ウィルソンスぺ
 ラー中の語

問答

形体線度
果物図

形体線度 地
理初歩地球儀

雨 霧 雪 風
光 雲 夜・・

顔色 平面図
線角 眠食

線と角 色図
食物や衣服

体操


 


 

『体操』
 


 


 

復読


 


 

 
 


 


 

その他
 




 




 

『字韻』
『進退』
『音楽』
『図法』

『地学』


 

“Vocal Music"
Geography"


 



























 

読物
 

小学読本3巻
地理初歩
地球儀

小学読本4巻
日本地誌略1
巻 地図

プライメリスペ
 ラー 同第2
リーダー75章。

第4リーダー
 半分 スペ
ラー2篇67章



 



小学算術書2
巻 減法

小学算術書で
 減法

ローマ数字2000
3桁以下の長算

諳算 乗除
筆算 分数

ロビンソンの
 算術書



習字本 楷書
 

(同じ)
 

塗版手本
 

『文法』リー
ダーから九品
詞 書取 詩


 

“ Language"



 



単語
 

『作文』
 

スぺラー中の語
 



 

花鳥獣魚虫

 

日本地誌略
地図 地球儀

 

草木 食物
果物 穀物

 

動物 植物
色図 固体函
*『地学』

(同じ)
 立体図
“Geography"




 


 

『体操』
 


 


 




 


 


 


 


 

その他
 




 




 

『字韻』
『進退』
『音楽』
『図法』

*『地学』


 

“Geography"

“Vocal Music"
 

























 



 

小学読本4巻
日本地誌略1
巻 地図

小学読本5巻
日本地誌略2
巻 地図



 

第4リーダー
語解
 



 



小学算術書3
巻 乗法

小学算術書で
 乗法


 

小数 奇数
分数 貨幣


 



草書
 

行書
 


 

『文法』品詞
の変化
作文 解読


 

“ Language"



 



小学読本
 

『作文』
 


 



地理初歩
地球儀

(前級と同
じ)


 

*『地学』
 

“Geography"
 




 


 


 


 


 




 


 


 


 


 

その他



 



 



 

*『地学』

 

“Geography"
“Drawing"
“Vocal Music"
















 



 

小学読本5巻
日本地理書2
巻 地図

日本史略2巻
万国地誌略1
巻 地図



 

第5リーダー
語解
 



 



小学算術書4
巻 除法

小学算術書で
 除法


 

小数奇数分数
除算 貨幣

複合数と約分
 



草書
 

(同じ)
 


 


 


 



小学読本
 


 


 

『文法』ケー
ルス小文典


“GRAMMAR"リー



 

単語から句を
綴らす

 

(ほぼ同じ)

 



 
直接法 作文   ダーと地理  
文章改鎖

 
の要約

 
               













 


 
日本地理書
日本地図

 
日本地誌略
日本史略

 


 
*『地学』

 
“Geography"

 




 


 


 


 


 




 


 


 


 


 

その他
 




 




 




 

*『地学』


『語解』

“Geography"
“Vocal Music"
Drawing"
Word- Analysis






 



 

小学読本6巻
日本地理書3
巻 地図

日本史略2巻
万国地誌略2
巻 地図



 

第5リーダー

 



 



小学算術書5
巻 四術合法

小学算術書で
四術合法


 

小数奇数分数
復算 筆算


 
               




















 

草書手紙の文
 
(同じ)
 

 

 

 



1句の題で2
・3句綴らす

簡単な手紙文
 


 

文章の規則・
誤訂正 訳詩

“GRAMMAR"
 



日本地理書
日本地図

万国地誌略
日本史略


 

*『地学』
*『史学』

“Geography"
“History"




 


 


 


 


 




 


 


 


 


 

その他


 






 






 






 

*『地学』
*『史学』
『語解』


 

“Geography"
“History"
Word- Analysis“
Vocal Music"
“Drawing"
 
































 



 

 学読本6巻
 国地理書
 国地図

万国地誌略3
巻 万国史略
1・2巻



 

第6リーダー
 及び他の
教科テキスト



 



 

 学算術書6
  分数

 

小学算術書で
簡単な分数

 



 

利息法 等・
・・・

 

株式 比率 平
方根 測定法・

 



 書手紙の文
 

(同じ)
 


 


 


 



 紙文を
   綴らす

簡単な手紙文
 


 

文章解剖 復
諳誦 書取

“GRAMMAR"
 



 

 国地誌略
 国地図・・

 

万国地誌略
万国史略・・

 



 

*『地学』
*『史学』

 

“Geography"
“History"

 




 


 


 


 


 








 

復習


 




 




 




 

その他


 






 






 






 

*『地学』
*『史学』
『語解』


『日記』

“Geography"
“History"
Word- Analysis“
Vocal Music"
“Dr
awing"
“Book-keeping"




 




 




 

卒業後、大試験を
受け、上等小学に
入学

 




 




 




 
 
「読物」(読方・綴字)・・・教材に関しては、ほぼ翻訳版といえます。もちろん本当はマッガフィの読本であったのだけれど、それは訳ミスであったとして、そう考えた場合の内容の程度としてはほぼ忠実にいっているのではないか。
「算術」・・・米国より遅れているのと、新しいテキストが採り入れられたのが特徴。第八級を比べればほぼ同様というか忠実に近い。しかし6級、5級とすすむにつれて日本の方がやさしい内容になります。これは「和算」だったところに「洋算」が入るという不利があったのでしょう。
「習字」・・・教授法は同様。大同小異。そもそも「書取」との差がみえにくい。毛筆文化というのもあったのではないかと考えます。
「書取」・・・教材、他教科のテキストを使用するというスタイルが共通。「習字」との関わりからもそうなるというのがあるのでしょう。
「問答」・・・全体の前後のズレをみていくと面白いです。第7級では和訳版米国教則のミックスとなっています。6級で「地理初歩」が改正時に入った。でもこれはサンフランシスコ版同級に「地学」があったわけですね。単独教科としていきなりの導入は難しかったのか、問答の中に繰り入れられた。同様に「日本史略」とかが入った第3級も、米国版では第2級から「史学」があったというのに結びつけられるでしょうか。水原克敏氏という有名な現役研究者が「近代日本のカリキュラム研究」で有名な方なのですが、師範学校附属小学教則の問答や読物に「歴史」的内容が入ったのはきわめて「日本的」だというようなことを仰られています。まぁ、1級はやかったことはそうともいえますが、その発送というかテキスト刊行自体が米国版の直訳模倣をベースとすると考える私としては、「日本的」とは思えません。「地理」も「歴史」も米国の訳出から入ったのですから。
「体操」「復読」・・・復習の科目と、体操はサンフランシスコ版(英文)でも「課外」に行なう業間体操であったことですね。米国でも新しいものであった。
 「削除された教科」の取捨選択は今回は扱いません。時間がないので。「教材における影響」もいずれじっくりとやりたいのですが、基本ラインとしてはワンセット導入であったということです。
 
 また、時間がなくなってしまいました。今回はここまでにいたします。