第一回(4月18日)
 
 シラバスの配布後、「教育原論」の授業計画、授業の内容と、その科目の意義について説明する。
 
 この「教育原論」という授業は、教育についての「原理的な考え方」を深めていくための科目です。「教育とは何か」という、考え方によってはひじょうに曖昧な、ひじょうに難しいことを考えていくものです。ですから、具体的な教科教育の内容や、あるいは臨床教育学的な方法論や実践例、カウンセリングや教育相談、あるいは技術などとは違って、「原理的」ゆえにもしかしたら興味を失わせることにもなるのじゃないかと危惧しております。
 しかしシラバスの上にも書いてあるように、「教職科目」の必修として、つまり教員になるためには必要不可欠なものと考えられています。次の表をみてください。教職員になるための法規というか、必要単位の定められた施行規則です。
 
 
@ *教職に関する科目(免許法施行規則に定める科目区分等)














 
 科 目
 
各科目に含める必要事項
 
単位
教職の意義等に関する科目・教職の意義及び教員の役割、教員の職務内容、進路選択に資する各種の機会の提供等
 
教育の基礎理論に関する科目
 
・教育の理念並びに教育に関する歴史及び思想

 
・幼児、児童及び生徒の心身の発達及び学習の過程
・教育に関する社会的、制度的又は経営的事項
教育課程及び指導法に関する科目
 
・教育課程の意義及び編成の方法、各教科の指導法

 
・特別活動の指導法
・教育の方法及び技術
生徒指導、教育相談及び進路指導等に関する科目・生徒指導の理論及び方法、進路指導の理論及び方法
 
 
・教育相談の理論及び方法(カウンセリングの基礎知識含む)
 
総合演習 
教育実習 
 
 教職の意義については「教職論」などがあるのでしょうか。大学ごとに科目名は違っているでしょうが、二番目の「基礎理論」について「歴史及び思想」から学ぶのがこの「教育原論」です。もちろん選択科目で教育史や教育思想というのもありえます。「原理的」理解のためにはこれらの考察方法は欠かせません。歴史嫌いの人もいるかと思いますが、うまく学んでいきましょう。その他「教育心理学」「教育社会学」(制度論や経営論の選択もある)などで基礎理論となっています。それらが必須なのですね。
 三番目として各「教科教育法」、「特別活動」、「教育方法」の各授業ですね。ここらへんは少しより具体的なのかもしれません。四番目が「生徒指導論」と「教育相談」ですね。実際の児童・生徒とのふれあいかた、接し方、相談・支援のあり方。ここらもいわゆる「実践的」な科目でしょうか。その他に「教職総合演習」と最後に「教育実習」。以上をとってはじめて教員免許が申請して認可されるわけです。
 教師の品質保証というか、レシピみたいなものですね。
 
 多くの方が「教職」に就こうと考えてこの授業に必要があって来ているはずです。社会教育主事や博物館学芸員資格ということもあるでしょう。皆さんの中の何人かは教職に就くことでしょう。社会教育の現場であっても施設であっても、あるいは地域で家庭で、あらゆる意味で教育には関わることでしょう。その時のために、その「教育」という営みにどのような意味があって重要なのか、難しいのかを知っておくために、その理論を勉強しておきたいと思います。皆さんはこれまで教育を受けてきた。そこから立場がかわって教育者の側に立とうとしている・・・。もう塾講師などでそういう体験は経ているかもしれないけれど、今後はより以上に生活の重要な場として教育を意識するようになるわけですね。
「教職」といいましたが、「教育原論」を学ぶのは、教育の仕事をする上で、その「教育」というものがそもそも何なのかを知っておくために必要だからです。自分のやる仕事の意味を知るというか・・・、「教育」とは何のためにあって、何のために必要なのか、を知っておこうということです。
 「仕事」「職業」と言いましたので、少し例えて話しをします。昨年もした話しなのですが、・・・、工場で、オートメーションの流れ作業の中で、例えばベルトの上を流れていく機械に一本のネジをしめるという仕事。「ネジをしめる」だけかもしれないけど、大切な一つのパーツというかピースというか、意味をもつものですね。ただし「ネジをしめる」だけならが、これはもしかしたら何も考えないでもしめることはできる。無の境地とでもいうのなら、その方が楽かもしれません。気持ちを込める方が、根をつめるほうが、魂をこめる方が疲れます。神経を磨耗する。・・・でも、やりがいはどうでしょう。むなしくなりませんかね。あと、怠惰になって、思わぬ事故をおこしたり・・・、意識が低いということがあるのではないか。・・・意志を強めておく・・・、これは大切なことなんじゃないかと思います。
 工場のことは置いておいても・・・、教師は人間相手の仕事ですね。これを同じくただ授業のことだけや、あるいは授業もただこなすだけになったら・・・、皆さんも「心のない授業」って嫌なイメージでしょう。どうでもいいって手をぬいていいのか・・・、いいわけはない。でも、実際、よくそういうことがあるっていわれるし・・・、あるらしい・・・。ただでさえ、物事は、続けていけばマンネリになりやすいんです。手をぬく危険性がある。だからこそ、「教育する意味」ということを考える必要があると思います。
 
 また、別の言い方をすれば、「教育って必要だよ」という根拠を知っておくということです。信じる材料というか、自分のやっていることに何も意味がないとしたらむなしいじゃないですか。自分のやっていることに誇り、プライド、リスペクト・・・、そういうものをもって臨みたい。そういう理由づけのためにこの教育原理はあります。まぁ、カッコいい言い方をすれば、理由というより「教育の理論」ですかね。大切だと知る、思う。だからこそ百人百色という困難な教育現場で頑張ることができるんじゃないかと思います。悩み、苦しむ。でも、投げ出したりしたら放っておかれた子どもはどうなるのか・・・。そういうことのないように、そういうことにも耐えて、そして頑張っていけるように・・・、教育の原理を学んで、教育の大切さを知りましょう。もちろん、難しいものであるから、だから「危険」なことだというのを知っておくのと知らないのとでも違うと思います。そういうのを知っておく必要がある。
 
 それで、先ず・・・、「教育」とは何なのかを考えていこうと思います。これは「教育」は何のためにあるのかを考える。あるいは、教育があると、何がいいのか、どういいのか。何に役立っているのかを、皆さんの経験にてらして考えるとわかるんじゃないかと思います。
 教育があると、何がいいのか。
 私の考えなんですが、「学校教育の内容」というものについて考えれば、国語・算数・理科・社会・・・、といったものは世界各国どこにでもあるものです。それらも、ただあるのではなく、実はそれぞれ人間の発達に必要な要素として一つ一つが意味をもっています。
 「国語」「算数」は基礎科目。基礎的な能力ですね。「社会」「理科」は内容科目。科学の段階的な内容を身につける科目ですね。実験、地理学、発展の歴史を知るとか・・・。「音楽」「美術」は表現科目です。表現力、芸術性、感性を育む。「体育」「技術」は技能科目です。技術力をつけるもの。以上が教科課程です。それと他方で人間性やリーダーシップなんかを身につけるためのものとして、「生活指導」や「生徒指導」、「特別活動」など、HRとかクラスとか部活とかがある。以上が学校教育の中身です。
 これらを身につければ「理想的な人間」ができると考えられた。たしかに全部揃えばそうかもしれない。そしてこれは世界のどこでもたいてい一致しているプログラムなんです。言語・数学・科学・歴史・芸術・体育・技術・・・、どこでもある。ただ、これをどの程度教えるか、何を教えるか、あるいは一番大きいのは「どう考えるか」の違いはある。日本と例えばアメリカとの違いなんかはあるのではないかと思います。日本はトータルにこの能力を身につけることを理想としているというか、そのためにトータルに均一に教え込むことを重視していないでしょうか。アメリカなんかだと、音楽だけの人、スポーツに秀でた人、理系の能力の優れた人、文学者・・・、いい意味で偏りが尊重されているともいえないでしょうか。もちろん、そうなってしまっているのか、そう意識されているのかにも違いがありますし、今どのような状況であるかは常に微妙に変動しているということも忘れてはならないのですが。
 
 ちなみに皆さんに、「ここまで教育を受けて何がよかったか」ときけば、おそらく「友だちができた。いい先生にも出会えた。部活がよかった」といった答えが予想されます。「教科」じゃない「人間関係」の方ですね。・・・よくある感想だと思います。でも、これは教育の成果というよりも人それぞれの経験ではないでしょうか。「誰もが教育を受けて必ず得るもの」ではないですよね。「教科」がいいという場合でも授業を担当した教員やあるいは成績があがったとかの結果として好きだということも多いですね。単純に「勉強」があることがいいというのではないのか。
 
 じゃあ、いったい、教育を受けて何がいいのか、何が意味があるのか、ということです。 教育を受けると・・・、勉強をするから頭がよくなって便利である。・・・これはあまり具体的ではないですね。漢字が読み書きできるようになる。たしかにできないよりは便利ですね。新聞とかも読めるようになって・・・、役に立つともいえる。算数・計算ができて・・・、実際の買い物にも役に立つ。理科ができて、火を使ったりとか、科学的な知識も知ることができる。家庭科で料理を覚えたり・・・・、でもあまり具体的すぎても、これはそれぞれの教科の目標の一つではありますけど・・・、「教育」というシステムじゃなくても、・・・極端な話し、家庭学習でもできますね。
 
 それと、教育を国民が受けると、差別もなくなるし・・・(少なくともいくつか見えるものがさけることはできるようになる。みえないままの差別は出てくるでしょうが)、また、何より「愛国心」が芽生えます。というより「国民感情」がでてくる。まとまることができるんではないかと考えています。そのようなものがあるのかどうか疑問視する人もいるでしょうが、「教育」がない場合よりはあるだろうと思います。
 家庭で、学校で、公立学校で、あるいは幼稚園で・・・、日本語を習う。日本人の集団の中で学ぶ。日本のテレビで育つ、遊ぶ。・・・国語に限らず、算数も理科・社会も、全部、日本語で学ぶ・・・、日本語でコミュニケーションする。・・・これが日本人という国民を作っているのです。もっと言うと、頭で考える(イメージする)コトバも日本語になってますよね、普通。だから、このコトバも文化です。
 アメリカ人なら英語、イギリス人も英語、ドイツ人はドイツ語、他にフランス語、スペイン語・・・、それぞれ文化や民族、宗教、習慣も違いますね。同じ種族が同じ言葉で話し同じコトバで考える・・・、これが文化圏というか、一つの共通項をもつ仲間としてまとまりやすいということですね。これも文化の伝承であり、社会の統合の役割をもおったもの。それが教育だと考えることができます。
 単に教科の知識というだけでなく、コミュニケーションを通じて社会性を育て、国民をつくっている・・・、これが教育の本質であるとも思えます。
 つまり・・・、教育は、日本人として生きていくために(その所属する社会・文化圏で生活するためには)必要だと言うことができます。
 
 じゃあ、学校教育の教科はあまり役立っていないとも言えますね。だから本来はこれは文化・知識の伝達なんですが、段階ごとの困難な順に並べたもので・・・、徐々に高度に考えていけるようにと並べられたものなのです。それが、行き着きすぎて、早く、正解を記憶したもの、点数をとったものが良いという考えが強まりすぎて・・・、文化伝承が置き去りに(その意図が結果的に不十分に)なってるんですね。そして、その点数教育優先のために、コミュニケーション能力を十分に育てることができないという現状にある。・・・私は、だから愛国心も、国民感情ももたず・・・、他人を尊重できない「崩壊現象」にあるんだと考えています。
 
 基本的に私は自分が授業がうまいとか口がうまい、話がうまいとは思っていない。コンプレックスもないわけではない。文章だって下手じゃないかと思っている。それで教員をやってるのは怠慢だと思われても仕方がないが、その中で努力だけはしたい。ただ、なるべくシンプルにお話しするけど、そんなすぐにわかるような問題でもないと思うし、そもそもその「わかる」=「理解」というものについても私は「考えていきたい」と思います。基本的には各個人が自分なりの理解をしてほしいし、ゆっくりでいいと思う。わかることにスピードはある。たった一つの「正解」のみを求めるから、行き着く先は「詰め込み」の量の争いになる。それが教育問題の一つでもあり、みんな「実際に役に立つこと」をもとめている。だったら、自分なりに「考える」ことをこそじっくりと考えたい。そういうふうに進めて行きます。
 
1 「教育」の語義
 さて、「教育」の本質を考えていきますが、「教育とはなんであるか」?というところから入っていきましょう。
 「教育」の意味・定義を辞書をひいてみると、『広辞苑』では、「教え育てること.人を教えて知能をつけること.人間に他から意図をもって働きかけ、望ましい姿に変化させ、価値を実現する活動」とある。これは、「教育する」面のみが強調され、被教育者側は一方的に需要するのみのようにも読める。
 一方、英語のeducationの原語 educeは、「潜在する性能を引き出すこと」という意味であり(仏語のeducareでも同じ)、このことからも真の教育は、人間の内面に潜む能力・可能性を「引き出す行為」といわれ、また実際に『開発教授』などのことばが存在した。
  何かとらえ方の違いが、この言葉の定義にもあらわれているのかもしれない。「教育」は「教え、育てる」というベクトルのみでなく、「教わり、育つ」という逆からの方向もあるべき。あるいは「教えることで、教える側が育ったり教わったり」とかのある種「相互」の関係もあるべき・・・。ただ「きれいごと」にならないように本講義ではじっくりと考えたい。
 
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