授業日誌

 

 教育制度論 2004年度 前期

@2004年4月16日(金)・・・・「教育制度論」の第一回目。導入としてこれからどのような授業をしていくかというお話し中心。日大の1年生から履修が可能ということで、最近経験してきたであろう大学の入試・受験や、あるいは高校時代の様々な場面での「出来事」が、実は「教育制度」として考えていくべきことなのだと注意をうながしてみた。また学校の「システム」とはどういう意味をもつものなのか、またこの「教職課程」の単位を修得していくことで免許が得られるというのはどういうもの(どういう仕組み、意味)なのか、など「自身の問題」でもあるということから考えてもらった。「制度」や「システム」というのは言葉としては整理していかねばならないが、どうせなら「いまを理解する方法」として学んでいきたいと考えています。他に、留学や学区などの現実的問題についてお話しすることからガイダンスとした一日。

 

A2004年4月23日(金)・・・・日本と英国の学校制度の比較を。「外国」の制度と比較してみることで、はじめて「自国」の「制度」を客観的に判断していくことができるのではないかということと、そして意外に私たちは世界の教育を知らないものだということで、さらに興味をもたせるというのも本日のねらい。教養としても役立つ内容にしていきたい。まずは単純に「学校制度」を比較してみて、義務就学や、あるいは学校課程のつながりや種類をみてもらいました。「いわゆるイギリス」のことも、実はよくわかっていないことも多いのではないでしょうか。テキストは森嶋道夫さんのものと、そして大田直子さんのものを紹介。森嶋さんの新書はすぐ読めると思うし、また大田さんのはいま英国教育についてもっとも詳しいものではないでしょうか。

 リアクションペーパーには森嶋本の面白さや、英国の意外さが面白いという意見もあった。

 

B2004年5月7日(金)・・・・前回に続いて英国の学校制度をさらに詳しく学んでいく。英国の政権公約や教育制度とのダイナミックな変換をみてもらった。なぜ政治の争点にもなるのか。エリート層と労働者階層とが、どのようにして「安定」(生産)されるのか。「教育」(学校)がどのような役割を果たしてきているのかを考えてもらおうと思い、教材に選んだ。イラク戦争から続く混乱の現在、労働党政権であるいまの英国はどのような展開が選べるのだろうか。今回のはそのような現実的な未来予想もしていける考えかたです。前回から続いて、「比較教育」という考えかたを学んでもらいました。また、現在日本で行なわれている改革が、英国のサッチャー時代の教育改革に似ていると指摘される部分も比較して考えてみました。サッチャライト・リフォームに関する本を数冊紹介。

 リアクションとして、前回以上に英国について興味が増したという人もいれば、英国が嫌いになったとか、あるいは日本の教育はだめだというものもあった。基本的には何かがよい悪いではなくて、その「関係」やできるだけ「本質」を考えていただきたいと思っている。

 

C2004年5月14日(金)・・・・「制度論」では改革の成果を比較。苅谷剛彦さんの本を紹介。『「学歴社会」という神話〜戦後教育を読み解く〜』、及び『教育改革の幻想』(ちくま新書)の二冊から先ずはデータを検証。「社会学」「統計的研究」の面白さをまず理解してもらうことが出発点。データがどのように応用できるか、あるいは今後自分がアンケートなりをとっていくときに対照できるものや、データの探しかたがわかってくればいいのだが。また、ついでに、苅谷先生の『知的複眼思考法』は大学時代に見ておくべき面白い本とすすめてみた。そしてオリジナルとしてあげた米国の調査資料は苅谷先生の本にも書かれていないものだが、これをあわせて見ればさらに様々なことが見えてくるのではないだろうか。

 リアクションとして、テレビ視聴時間に関する驚きが大きかったようだ。米国の資料は苅谷氏の資料をさらに裏付けしていくものですから。しかし、いいたかったのは、「資料や分析の視点はまだまだある」ということなのです。関係を自らのものとして考えていくのがこの授業の目的の一つですから。

 

D2004年5月21日(金)・・・・出かける時には台風の風と雨が強くびっしょりに。ところが大学についた8時30分には快晴。「制度論」では世界システム論について導入的お話しを。まず食糧自給率の話題から導入。「世界とのかかわり」は身近にあるということから話しはじめて、次に教育についてはどうだろうかと話してみる。もちろん各国の教科内容や方法、教科書や教師の認容もそれぞれ違いはみられる。しかし「世界史」の授業だけではないが関連していないか。学力比較もそうではなかったか。日英比較もそうではなかったか。いやもっと身近に、私たち自身の話として、実は世界の中の日本人としての常識やある程度の思い込みなどは、それは教育でつくられていくものではないか。「世界のシステム的関係」について、イマニュエル・ウォーラーステインの訳書を数冊紹介しながら話してみた。

 リアクションとして、「後進国」をつくってしまった関係に関するショックが多くみられた。これを「教育」について考え深めていければいいのだが。

 

E2004年5月28日(金)・・・・今日は海外留学から世界システム関係を確認する。天野郁夫『日本の教育システム−構造と変動』(東京大学出版会)を紹介。天野先生の書いている内容を確認して、さらに「世界システム論」に位置づけしてみた。そして留学生について資料をあげ、日本に来ている海外からの留学生の出身地域と、日本からの留学行き先についての傾向をみた。これをやると教育の世界システム的な関係がよくみえてくると思うのだがどうだっただろうか。

 なぜ、米国の高等教育が優れているとされるのか。なぜ私たちの日本の高等教育が揶揄されねばならないのか。もちろん実態の問題もあるが、実はその答えの考えかたの一つが今日の「システム」論のなかにあるのではないだろうか。

 

F2004年6月4日(金)・・・・3時起床。授業準備とメールでの連絡をこなす。授業では東アジアの教育システムについて歴史的に考える試み。日本と先進国だけではなく、もっと複合的に「関係比較」として、東アジアの国と米国(共通した先進国)との関係を比較してみた。その中で「教育」というものがどのような役割を果たすのか。普通は外交などでしか語られない問題をとりあげ、新しい、そして貴重な資料をみてもらった。米国の政策に関する一貫性や近代化の問題。あるいは「近代化」と「教育」の普及や、それ自体が実は「世界システム」的な「安定」の装置として役立ってないかなというのがみてとれればいいのだが。

 リアクションとして、前回にみた米国以上に、その「政策」というものがすごいものだったと感動したという意見もあった。米国に関するお話しを2時間してきたので、次回は米国のシステムそれ自体をとりあげたい。

 

G2004年6月11日(金)・・・・米国の教育システムについて。米国の教育史もとりあげた。また授業の雰囲気や学校建築、教員の役割なども説明。友だちに現役の米国初等学校教師が2人いるのでその話しもした。また今日は新しいネタとしてgo upの話をした。学校で当番の子がフラスコ内の水分について「今日は何ミリリットル大気中に蒸発した」と報告するという例であるが、授業やコミュニケーションの雰囲気理解のためのネタである。毎年ネタは変えるつもりだが、また米国かインターに行って学んでこようと思う。昨年は「デモクラシー」の授業の話をしたし、一昨年は「マスコット人形」の話をした。こういう話しはある意味で実践的ではあるが、実はそれよりも「米国の教育」そのものを浮かびあがらすイメージを強めるためと意識してつかっている。もちろんこれは「一例にしかすぎない」とことわり、これが全てではないということと、あくまでもおおつかみを言っているのだからとことわっておくことは忘れない。

 米国の教育費について意見が集中した。またハイスクールの準義務教育について疑問をもったものも多くいた。

 

H2004年6月18日(金)・・・・まず日米英3ケ国の制度を比較する小テストをやる。9時からの授業でこれを9時40分まで。一時間目で多人数いるので遅刻者が多くみられる。遅れてきても熱心に受ける者は拒まないし、また何らかの理由はあるのだろう。しかし「出席」(リアクションペーパーを書くだけ=しかも意味のないことを)のためだけに遅刻して入ってくるのは意味がないと考え、口頭で注意してきた。そのための策の一つとして、またいままでで一つの区切りを確認するためとしてテストを実施。それからいじめ問題と制度の関連を30分で説明。大学の決まりで授業アンケートをとらなくてはいけないので、最後の20分をそれに充当。資料として森田洋司氏の本を紹介した。

 小テストは現段階での理解度や参加をある程度語ってくれているようである。

 

I2004年6月25日(金)・・・・今日は雨。今日から(正確には前回の「いじめ」問題から)「制度論」の授業では学校の問題をとりあげる。それに対する問題解決のための制度改革論的アプローチがこれから数回の課題となる。先ずは不登校問題をとりあげる。数値的変遷と文部(科学)省の制度的試みをみる。「不登校」については生徒指導や教育学など他の授業でとりあげることもあるが、この授業では「制度」「政策」と関係づけて述べている(あたりまえ)。もちろんカウンセリングなどの方法論なども学んでもいいのだが、この授業は「教育制度・システム」の話しに限定する。

 リアクションとして「他の講師の他の授業でも扱ったが・・・違うことを学んだ」という感想が多い。いろんな視点がありえる。

 

J2004年7月2日(金)・・・・文科省の新指針と制度改革アプローチを学ぶ。毎年の現場の教員研修で配布される資料をみてもらった。なるべく最新の資料を提供したい。そして教科書検定問題と法規の問題、総合的な学習などの「ゆとり」路線と学校制度の改革について説明。事例の量が多く、時間内にすべてを説明することができなかったので次週に一部をのこす。そのためリアクションペーパーはなし。

 

K2004年7月9日(金)・・・・先週の残りを先ず説明。そして最終回はパブリックコミットメントの考えかたについて。つまり、市民なり国民なり、あるいはこの場にいる私たちが「システム」をちゃんと理解して、そしてはたらきかけていくという「方向性」「アプローチ」のことについてである。基本的に受け身というのではなく、かといって積極的に権力をもつということではなく・・・、どちらかというと「無関心」でなくなり「学んでいく」という生きかたをみにつけることである。そしてそれこそが「教育」の意味のあるところだと考えている。

 最後に全体をふりかえってみた。前半でシステムという考えかたを、そして各国の教育制度を学び、あるいは比較するということを試みた。とくに代表的な著作をいくつか紹介してみた。後半のテーマは現代の教育問題に「教育制度」から何らかの解決策を見出せないかという点であり、なるべく資料や法令を確認していくことをこころがけた。単なる行政や法令を暗記するだけではなく、自分に、今に、そして今後にも関係する「システム」という見方がみについたのならばいいのだが。