教育学概論(社会と教育)G(2002年12月2日)
◆社会の病理現象・教育の病理現象としての「不登校」
0 「不登校」という問題
「不登校」の何が問題なのかを資料からみていく。
「不登校」児童数の変移
|
小学校 |
中学校 |
合計 |
1993年 |
14769 |
60039 |
74808 |
1994年 |
15786 |
61663 |
77449 |
1995年 |
16569 |
65022 |
81591 |
1996年 |
19498 |
74853 |
94351 |
1997年 |
20765 |
84701 |
105466 |
1998年 |
26017 |
101675 |
127692 |
1999年 |
26047 |
104180 |
130227 |
2000年 |
26372 |
107910 |
134282 |
増加傾向にあり、調査が進められてから減少していない。1992年に「誰にでもおこりうる問題」と認められたということは、それ以前は個人の問題とされていたのに比して「学校社会の問題」としてとらえられるようになったということ。「社会と教育」というこの授業でとりあげるのはそのためである。基本的には「多様」であり、「30日以上欠席」などの状態が統一されているだけともいえる。しかしそんなに話題になっていないようにも感じるのは何故か? 「増加率」が減少したからともいわれる。また「暴力」や「犯罪」と比べて安心できるのか? 「いじめ」のようなセンセーショナルさがないのだろうか? しかし「少子化」の中でこの増加、そして実態はフォローされているであろうにこの増加はもっと深刻に受け取るべき。むしろ安心されることで逆に問題が恒常化されてしまっているのではないか。「教育」でなにやらシステムや恒常化がつくられるように、これでは解決は難しいのだろうか?
<定義>
一般に学校に行かなければならないと思いながらも心理的な理由で登校できない状態をいい、不安や怒り、しばしば鬱の気分をともなう。1960年代から増加し、その発生基盤・原因・症状は複雑さを増している。登校時刻になると、頭痛・腹痛・下痢・吐気などの身体症状が起こり、その時刻が過ぎると症状が消えることが多いが、重症例では症状が固定化し、登校刺激を与えると悪化する。このような状態が長期化すると閉居・昼夜逆転が起こり、子どもによっては心身症状を訴え強迫症状を呈し、自殺を口にし家庭内暴力に及ぶこともある(『現代教育学事典』労働旬報社 1988年 569〜570頁) |
→稲村は「学校へ行かない現象のすべてを含めるべき」とし、「それを内容にしたがっていくつかのタイプに分けて用いる」のがよいと強調している(稲村博『不登校の研究』新曜社 1994年 21頁)。
1 不登校・ひきこもりの背景 時代とともに変化してきている。その背景として考えられるもの・・・
@少子化による人間関係の変化、崩れがみられること。
A地域社会の教育力の低下。
B学歴社会、幼児早期教育による新しいタイプの学力優等生の息切れがみられること。
C効率化優先の社会によって、競争原理の社会と家族の論理との間でゆがみ=矛盾が生じ、家庭内弱者の子どもに不登校やいじめ、援助交際などの症状があらわれていること。
D父性と母性の問題として、父性が昔のように受け継がれたり実子とのかかわりで機能しないように社会が変わっていることと、母性との問題として母子密着や過剰適応の問題があること。
2 タイプ別見分け方の一例
「不登校」というひとことで語られるが実際の症状・様子・症例は様々である。
@文部省分類型の7つの区分(学校生活に起因する型、あそび・非行型、無気力型、不安などの情緒混乱型、複合型、意図的な拒否の型、その他)
A梅垣弘による改良型(欠席のタイプとして、「学校生活に起因」、「遊び・非行」、「無気力」、「不安などの情緒混乱」、「アパシー」、「意図的な拒否」をあげ、それぞれに「欠席の理由」を明確・なんとなく・不明確、の3つと、「欠席の形態」として、継続的、断続的かや、他に外出、すくみ反応、身体不調の訴え、家庭内暴力、交友関係、睡眠、昼夜逆転、学習意欲、等でさらに細かく分類する)、の方がよりリアルに把握することが可能である。
下部にあげた資料のように、ひじょうに複雑多様である。また小学校と中学校在校生、あるいは高校生ではそれぞれ「理由」や「タイプ」の傾向が異なる。つまり「不登校」というのは三文字でなにかわかったように思ってしまえるものだが、実態は複雑だということである。
3 情緒的混乱型(心因性)登校拒否の回復の過程
前駆期→要因(きっかけ)→進行期→混乱期(ひきこもり期)→回復期→再登校期
さらに「個人」の中での状態も変わるので、そのときどきによって対応も変わるべきものであり、「固定的」な見方はふさわしくないと思われる。
4 <研究傾向>「不登校」か「登校拒否」か?
・国立国会図書館が所蔵する雑誌・論文の調査
「登校拒否」「不登校」の名称の使用傾向
(『雑誌記事索引 カレント版』CD−ROM1990年〜97年5月まで)
|
論文本数 |
不登校 |
登校拒否 |
1990年 |
69本 |
9本 |
63本 |
研究史上でも「扱い」が変わってきたのがコトバの変容からもわかる。92年に「認められ」そこから研究も増えてきて、その中で「運動的要素」(重要性)が増すとともに「不登校」(誰にでもおこりうる状態であり)は、「登校拒否」のように「登校を拒否する」のではなく、行きたくても行けない広い状態なのだというようにかわってきたということがわかる。
★アプローチ
(1)その構造を対象とする理論的・解釈的な研究、
(2)特定事例を対象としてしぼった追跡型研究、
(3) 質問紙法等による全体数量把握のための統計的調査研究、
「学校恐怖病」phablar→「登校拒否」School Refusal→「不登校」non attendance
初期には「恐怖症状」などがあったが、まさに個人の「病状」とみられたということにもなるし、イレギュラーであったおいうこと。「拒否」にはなったが、それでも休む側の意志や問題ともいえる。それが「行けない状態」になった。やさしい表現であり、これはこれでふさわしくもある。しかし、実は「米国」の定義に同じ変遷があるので日本に特異なことではない。むしろ「不登校」を普通とする運動が強まることで「普通のことだから注目されにくい」となってはいないか? 6で述べるように、こうすると「別のかたちの不登校」がつくられていくようになるのでは?
5 現実的な対応(→「社会に適応させる」のか?)
民間・・・フリースクール、フリースペース、夜間中学、予備校、山村留学
学校・・・サポート校、心の相談室指導員、スクールカウンセラー
行政・・・適応指導教室、児童相談所
6 新しい価値の模索・・・社会の不安、経済不況などによって、「学校」信仰がくずれ出した
この学校権力の機能失墜には、歴史的理由がある。かつて日本の国民が一様に貧しかったころ、学校は、地域の文化の中心の役割を象徴的に担っており、将来の夢をかなえてくれるはずのほとんど唯一の機関だった。「今は苦しいかもしれないけれど、たゆまず努力すればいつかきっと」というのが、学校に通わせる親と、学校に通う子どもの暗黙の合言葉だったのだ。ところが近代的で豊かな生活がほとんどの大衆によって手近なものとなるに及んで、学校が私たちの社会のなかでもっていた「聖なる価値」が後退したのである。人々の間である組織の「聖なる価値」が信じられていれば、そのメンバーは相当の「苦役」や「抑圧」にもたえられるし、進んでそれに参加しようとするものだ。事実、高度成長時代に高校進学率が急上昇しているとき、中学校には大衆的規模で「進学競争」的緊張感があったはずだが、その時代には「不登校」の生徒はとても少なかった。 (小浜逸郎「『酒鬼薔薇』祭りのあと」『正論』1997年10月号 産経新聞社 106頁 |
★ただ「カウンセラー導入」だけでいいのか?
近年、欲求への抑制のない生徒の登校拒否が増えていく傾向」にあり、「このような『現代型』の登校拒否に対して、治療室や相談室のなかで『伝統型』の登校拒否に有効であった方法を適用してもかえって逆効果であろう。医者やカウンセラーらの専門家の知見は、たしかに医療・相談機関を訪れた生徒には妥当するとしても、それを学校教師が金科玉条のように受け取ることは危険(『教育のパラドックス/パラドックスの教育』所収 毛利猛「1章 教育のパラドックスからパラドックスの教育へ」60頁) |
例「平成10年度不登校状態となった直接のきっかけと不登校状態が継続している理由との関係」(文部科学省初等中等教育局児童生徒課『生徒指導上の諸問題の現状と文部科学省の施策について』平成13年)の数値から
<小学校>
|
|
<中学校>
|
不登校状態が継続している理由 |
|||||||||
学校生活上の |
あそび・非行 |
無気力 |
不安など情緒 |
意図的な拒否 |
複合 |
その他 |
計 |
比率(%) |
||
学校生活 |
友人関係をめぐる問題 |
4548 |
1519 |
2146 |
6436 |
945 |
4595 |
342 |
20531 |
20.0 |
教師との関係をめぐる問題 |
300 |
206 |
209 |
386 |
179 |
388 |
28 |
1696 |
1.7 |
|
学業の不振 |
574 |
2217 |
3768 |
1394 |
289 |
1484 |
128 |
9854 |
9.6 |
|
クラブ活動、部活動等への不適応 |
211 |
52 |
205 |
448 |
62 |
328 |
24 |
1330 |
1.3 |
|
学校のきまり等をめぐる問題 |
177 |
1752 |
349 |
186 |
268 |
296 |
39 |
3067 |
3.0 |
|
入学、転編入、進級時の不適応 |
318 |
243 |
559 |
1158 |
209 |
790 |
81 |
3358 |
3.3 |
|
小計 |
6128 |
5989 |
7236 |
10008 |
1952 |
7881 |
642 |
39836 |
38.9 |
|
家庭生活 |
家庭の生活環境の急激な変化 |
132 |
791 |
1314 |
1189 |
204 |
1143 |
217 |
4990 |
4.9 |
親子関係をめぐる問題 |
207 |
1724 |
1856 |
2195 |
436 |
1836 |
219 |
8473 |
8.3 |
|
家庭内の不和 |
88 |
870 |
963 |
977 |
186 |
899 |
121 |
4104 |
4.0 |
|
小計 |
427 |
3385 |
4133 |
4361 |
826 |
3878 |
557 |
17567 |
17.1 |
|
本人の問 |
病気による欠席 |
284 |
162 |
1516 |
2251 |
160 |
1574 |
722 |
6669 |
6.5 |
その他本人に関わる問題 |
805 |
3954 |
7939 |
7107 |
1467 |
7514 |
1093 |
29879 |
29.1 |
|
小計 |
1089 |
4116 |
9455 |
9358 |
1627 |
9088 |
1815 |
36548 |
35.6 |
|
その他 |
90 |
327 |
514 |
382 |
241 |
895 |
720 |
3169 |
3.1 |
|
不明 |
147 |
272 |
1007 |
1133 |
299 |
1849 |
700 |
5407 |
5.3 |
|
計 |
7881 |
14089 |
22345 |
25242 |
4945 |
23591 |
4434 |
102527 |
100.0 |
|
比率(%) |
7.7 |
13.7 |
21.8 |
24.6 |
4.8 |
23.0 |
4.3 |
100.0 |
|
今回の授業では「社会病理・適応障害と称される『不登校』について」というタイトルでお話し。まず「社会が不登校をわかっていない」ということと、次に「社会というもの自体曖昧でわかりにくいから問題が解決しない」ということをポイントにしてみました。「不登校」という三文字でわかってしまった気になって、なぜか安心するかのように無関心になっていくという方向性があるのじゃないか、だから数が減らないのじゃないかというのが最初の指摘。次にそういう「イメージ」が実感できない(数値に比してみても)からそういうスタンスになるのじゃないかということ。そういうスタンスで「いいじゃないか」としておくとまた別の不登校が増えるし、結局は問題は先送りになるだけじゃないかというのが一つ目のポイントの結論です。次に「社会」というか「学校」というものの「必要性」を考えてしまうということはなんだろうということで、つまり「登校」を考えるということについて、そのことがどういうことなのかを考えてみました。