季節は夏。
 暑さをしのぐために禊と称した水遊びでもしようと、清流を探してふらふらしていると、たまたま魔理沙の家(らしき建物)を見つけた。
 なので、お茶でも貰おうと降り立った。
 すると、庭で魔理沙が何やら構えを取っていた。
 真剣な表情。
 聞こえないけれど、口がせわしく動いているところを見ると、呪文を唱えているようだ。
 魔法を使おうとしている。
「――――」
 そして、魔力の塊が放たれた。
 マジックミサイル。
 それは真っ直ぐ飛び、家の近くに生えていた樹に炸裂した。
「……なにしてんの?」
「何だ、霊夢か。――納涼だぜ」
 魔理沙の言葉の通り、樹に炸裂したマジックミサイルは冷気の塊だったのか、一瞬で樹の枝葉を凍りつかせていた。
「自然破壊は感心しないけど」
「この森は私の庭だぜ。まあ入れ。お茶でも飲んでけ」
 私はまんまとお茶にありついた。



 ――――人と人の境界――――



 ずいぶん遠回りをしたが、ようやく思った通りのモノが出来上がった。
 何度も失敗してしまい、元々1/3だった資源が1/9にまで減ってしまった。
 最初に1/3にしたのはわざとだから、それは別に文句は無い。
 しかし、残った1/3の2/3も浪費(と言い張らせてもらうぜ)してしまったのは無念だ。
 だがなんとか出来上がった。
「最後のテストだ。失敗なんてありえないぜ私?」
 実験室で一人、自分自身に言い聞かせる。
 慎重に。
 針の穴に糸を通すように、ソレに魔力を通す。

 ――氷符「トランスデバイス Type-CHILL-」

 魔力が、冷気となって部屋に充満した。
「成功、だぜ」
 にやり、と口元が笑みを結ぶ。
「テスト完了」
 手に持ったスペルカードをキャンセル。
 元は、チルノ純正の氷から、丁寧に削り出し、魔術回路を書き込んだ、変換符。
「次は、派手に行くか」
 外に向かうとする。

 派手に行くにしても、結構大変なものだ。
 制御不能などという失態、わざとでもない限り、他人には決して見せられない。
「――ちっ」
 暴発一歩手前で、集中した魔力を拡散させた。うまくいかない。
 元が元だけに、回路が脆い。
 先に固着、固定のほうを改良したほうが良いか?
「違うな」
 制御がなってないだけだ。そう言い聞かせる。
 自分自身に言い訳なんて真っ平だ。
「…………」
 符に魔力を通す。
 針の穴を、糸で貫くように。

「――我が水は、風を飛び、虚空となって、我の元に戻れ」
 ――私の魔力は、熱を失い、冷気となって、戻ってきやがれ。

 行け。前だけを見ろ。
 後ろなんて振り返るな。そんな余裕がどこにある。
「GO(行け)!」
 魔法自体は簡単だ。使い慣れたマジックミサイル。
 だが変換符を通した魔力は、その属性を冷気に変換されている。
 つまり―――
(成功、だぜ)
 炸裂し生じた爆風は、強烈な冷気で以って対象を凍結させた。

「なにしてんの?」
 え――?
「何だ、霊夢か」
 平静を取り繕う。さも普通に魔法を使ったように。
「納涼だぜ」
 ほんとうだぜ?



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