ニューヨーク旅日記PartX

10月16日(土)
 起床時間は、なんと4時15分!さすがに外は暗い。ナイアガラ日帰りツアーは、5時半にヒルトンホテルおかだや前集合だけど、昨日のガイドTさんが「タクシーいないよ。」なんて言うから、最悪歩いて行く覚悟で、4時50分に出発の予定。でも、起きてから車の音が結構するので、窓から外を見てみると、数は少ないもののタクシーは走っている。タクシーいるんだけどなぁ、乗せてくれないのかなぁ…と思いつつも、予定通り出発した。外は寒い。ホテルを出てAmsterdam Ave.の角へ行くと、ちょうどタクシーが1台止まっている!まるで待っていたかのよう。あまりの偶然に、Tさんが昨夜しつこく集合時間を尋ねていたので、タクシーを寄越してくれたのではないか…という“Tさんいい人説”が飛び交う。でも真相は闇の中。何はともあれ、そのタクシーでヒルトンに向かったが、早朝で道がガラスキのため、あっという間に到着。集合時間まで、ずいぶん時間が余ってしまった。早朝だから当たり前だけど、おかだやも閉まっているし、ロビーでぼぉ〜としている他、することもない。集合時間近くになり、おかだや前で待っていると、お迎えの係員さんが来た。小柄なオジサンだ。あと2人のツアー参加者を待ち、車でニューアーク空港へ向かった。
 空港に着いて手続きを待っている時、お迎えの無口な係員を見ていて、なんだか会ったことがあるような気がしてきた。誰だっけ?誰だ?…ん?ああっ!そうだ!Mr.ビーンだ!顔といい背格好といい、そっくり。あまりの無口さに、名付けてMr.シーン。そう思って見ると、少し愛着がわいてきた。
Mr.シーンからチケットを受け取り、ゲートで搭乗時刻まで解散になると、Mr.シーンは、そそくさとどこかへ去って行った。きっと車に残してきたヌイグルミの熊さんが心配なのね。(ほんまかいな)
 やっと朝食を摂れる時間。飲み物を買う。ところが、飲もうと思って紅茶のフタを開けると、ただのお湯!カウンターのお姉さんがティーバッグを忘れたみたい。もらえてホッ…。それぞれ握ってきたオニギリを食べた。久しぶりの普通のゴハン。おいしい〜。食後は、おかきをポリポリ。空港の窓からは、オレンジ色の朝焼けの向こうに遠くマンハッタンのビル群のシルエットが浮かんでいた。こういうのもいいな〜。
 
 7時過ぎには、ゲートへ向かった。椅子に座ってボ〜としていると、戻ってきたMr.シーンが、ロスの近くで地震が起こったらしいことを教えてくれた。ロス市街には影響ないそうだ。海外に来ていると、新聞を見ないしニュースも見ないから世間に疎くなってしまう。搭乗時刻になり、Mr.シーンとは、ここでお別れになった。

 8時出発のコンチネンタル航空1787便に乗り、1時間余りのフライトで、9時13分に
バッファロー空港へ到着した。ゲートに出たところで、お迎えの女性ガイドさんと出会った。名付けてテルちゃん。テルちゃんによると、昨日までは最高気温が10度くらいで、かなり寒かったらしいが、今日はNYと変わらない程度まで上がるようだ。私たちって、ほんとうにツイてる。それにしても、テルちゃんが話している口調を聞いていると、どこかで聞いたことがある。どこだ?どこだ?そうだ!市原悦子だ!まるで「家政婦は見たシリーズinナイアガラ」・・・。ワゴンに乗り込み、ツアーが始まった。
 テルちゃん「まずは下から“霧の乙女号”というお船に乗って見ていただいて、次に横からテーブルロックより滝の落ち        ていく所を見て、最後に上からお食事をとっていただきながら滝を見ていただくというふうに、下から、横か        ら、上から、と滝を見ていただきます。」
今日は滝三昧らしい。ふたつの橋を渡りGrand Islandという島を横切り、カナダへ入国する。入国審査は実に簡単。車から降り小さな建物に入り、カウンターでパスポートにハンコを押してもらう。テルちゃんによると、女性の係官は真面目で審査が厳しいそうだが、私達のあたった女性係員は、そうでもなかった。そこから、車で
“霧の乙女号”の乗り場へ行った。
テルちゃんにチケットをもらい、エレベーターに乗る。バスを降りたところは崖の上だったので、下へ降りた所が河岸になり船の乗り場もある。係員に使い捨ての青いビニールカッパをもらった。前に来た時は、使い回しの分厚いものだった。「臭い」という苦情で、使い捨てに変わったようだ。しかし当たり前だけどワンサイズなので、チビの私には長いし、でかい。ダボダボ。踏んで、こけそう。テルちゃんに見送られ、いよいよ乗船する。はりきって船の2階の前方を陣取った。最初は風を受けて気持ちいい。船がカナダ滝に少しずつ近づいていくと、水しぶきが激しくなってきた。だんだん風も強くなってくる。船が進むにつれ、もう前を見ることさえできない状態。ほとんど雨の中を進んでいるようだ。いくらビニールガッパでカバーしようとしても、風が吹きつけてカッパが舞い上がってくる。写真なんて撮る余裕ない。がんばって顔を上げて滝を見ても、水飛沫で真っ白にしか見えない。どこが「霧の乙女号」やねん。霧なんてもんと、ちゃう。どう見ても「豪雨の乙女号」
ビシャビシャに濡れながら「ひゃぁぁ〜。」「ひょぉぉ〜。」と叫んでいる間に、やっと船は方向を変えて、豪雨から逃れることができた。水飛沫から解放されて、カッパのフードを脱ぐと、顔はビチャビチャ、髪も濡れている。足などは、ひざから下がビッショリで、靴は色が変わってしまっている。滝を見るというよりは、滝を感じる…ってことか。積極的に嵐に遭いに行くような、遊園地のアトラクション気分で行くと、かなりおもしろい。使い捨てカッパを捨てて、エレベーターであがり、テルちゃんとの待ち合わせ場所へ戻った。お天気がいいので、濡れた服や靴もすぐに乾きそう。雲ひとつない青空。建物の上の展望台へ行き、今乗ってきたばかりの「霧の乙女号」を上から見る。白い水飛沫の中へ進んで行く船は、小さく見えた。
 ワゴンに乗り、次の見学場所へ向かった。カナダ滝が流れ落ちる手前の上流に、木製の船が逆さまのままになっている。

テルちゃん「底の平たい難破船が見えるでしょう。上流のエリー湖から流さ        れてきて、乗組員が3人いたんだけど、助け出されるまでの一        昼夜の間に、恐怖で髪が真っ白になったそうです。」
今までに滝を落ちたにもかかわらず助かったのは、少年ひとりらしい。少年は体重が軽く、滝の表面を滑り落ちる状態になったので、滝壷に沈まなかったという。大人は体重があるので水の勢いで滝壷に沈んでしまうそうだ。恐い…。
 そこから、車で
テーブルロックへ移動。ここは見学者も多く、おまけに大きな白人が多くて柵ぎわを占領されると覗き込めない。ちょろちょろと隙間に滑り込んで見せてもらった。滝が流れ落ちるところを目の前で見ることができる。ものすごい水量!しかも流れ落ちたところから上がる真っ白な水飛沫が、すぐそこまで上がってきている。水の落ちる勢いの激しさがわかる。
滝壷は真っ白で見えない。河面を進む「霧の乙女号」なんて木の葉のようだ。乗っている人間がアリのように見える。ここで、しばらく自由時間を過ごした後、昼食へ向かった。
着いたところは、
Rooftop Fallsview Renaissance Hotel。上のほうの階なので眺めが良く、ガラス張りの大きな窓から滝がふたつとも、きれいに見える。小ぢんまりしたレストランで、ランチビュッフェとなる。時間帯のせいか、他にお客さんがいなかったので、よけいに、のんびりした雰囲気が漂っている。私は、ビーフカツ、サーモン、豆のスープ、野菜の付け合わせ、コールスローetc.を食べた。これだけ離れた上から全体を見回すと、まわりの木々の紅葉の赤や黄色や緑と、滝の水飛沫の白と、水面の青が、とてもきれいで鮮やかなコントラストだ。本当に絵に描いたみたい。ここがカナダということを、実感する。
昼食後は車で移動して、Whirlpoolへ行く。見下ろした水面は、鳴門の渦潮のように、水が渦巻いている。その谷を渡るように旧式の観光ロープウェイのようなカゴがあったが、風が強いせいか今日は運転していないようだった。あまりにも古そうで、乗るのはかなりスリルがありそう。対岸の斜面の木々は、赤や黄色にと、見事に紅葉していて色鮮やかだ。下に目を移せば、ナイアガラの滝から流れてきた水が、ここの入り江(?)にぶつかって、水面にたくさんの渦ができている。
そこで、テルちゃんが顔に笑みを浮かべ、説明を始めた。
 「私は長い間ガイドをやってますけど、
死体を3度見ました。」
え〜っ?!微笑んで話し始めるから、もっと楽しい話が聞けるかと思ったら…。
 「この上がね、うずしおの速い流れになってるんで、みんな裸なんですよ。裸で浮いてるんで、ヘリコプターが見つけるんです。」
ここまで水中に沈んだまま流されてきた死体が、ここで浮かび上がってくるということなのか。水の勢いで、着ていた服は全部脱げてしまっているらしい。それにしても、こんな観光客の多い所で、裸で浮かびたくはないよなぁ。
川の対岸には、釣りをしようと急な斜面を下りて行く人がいる。こちらから見ると、すごく急で滑落しそうに思えて、見ているほうが恐い。どうかテルちゃんの見る4人目の死体になりませんように・・・。
 車に乗って、車窓から対岸の大きなダムを眺めつつ、花時計に着いた。きれいな花と一緒に写真タイムをとった後、近くの
Queenston Heights Parkへ。緑の多いノンビリとした静かな公園だ。紅葉していて、足下にはたくさんの落ち葉があった。ポツンポツンと置かれたベンチで、しばらくポーッと過ごした。もうすっかり秋。この旅も終わりが近いんだなぁ。

Lewiston-Queenston Bridgeを通って、一路バッファロー空港へ向かった。ゲートでテルちゃんとお別れをして、コンチネンタル航空1792便でニューアーク空港へ戻った。テルちゃんは、ほんとにとっても感じのいいガイドさんでした。

 ニューヨークに到着したのは午後6時半過ぎ。ゲートへ出たところで、お迎えの係員に会った。一目で「絶対あれや。」と思うくらい印象的。第1印象は「陰気くさい」。何語をしゃべっているのか聞き取れない…と思ったら、ペンのふたをくわえたまま、しゃべっていた。しかも、こちらの名前も聞かずに、客の名前を紙にチェック。おいおい・・・。トイレの前では「マンハッタンは、みなさんわかりますね。この時間、ラッシュです。ホテルまで、どれくらいかかるかわかりません。」と言いつつ手で大きくバツ印。2回も。トイレに行かせるのに、そんなに脅さんでもええやん。みんな大人やねんから…。後姿を見ると、ヨレヨレのシャツの裾がズボンから、ビロッとはみ出している。暗そうで少し笑みを浮かべただけで「笑った…。」って感じ。手に持っている紙袋からは新聞やジャケットがのぞいていて、ひげはボーボー。「住所はセントラルパークですか?」って聞きたくなるような風貌だ。
 車に乗り込み、マンハッタンへ向けて出発すると、こんなことを言う。
「車内が暑いとか寒いとか、ゲロ吐きたいとか言って下さいね。」そんなこと言えねえよっっ!
少し眠っているうちに、同じツアーの2人の泊まるヒルトンに着いた。降りようとする2人に突然、とってつけたように
「新婚さん?末永くお幸せに!」。ふっ古いぞ!
そこから、本領を発揮しはじめたのか、ベラベラしゃべりだした。
「ツアーとは関係ないんだけど、今から寿司の食べ放題に行くんだけど、一緒に行きたい人、手を上げてっ!」
えりが「おいしいんですか?」と、いちおう聞いてあげると、
「おいしいよ。日本人が握ってるからね。スープとサラダがついて30ドル。スープっていっても、味噌汁だけどね。店は、おたくのホテルの近くなんだけどね。考えといて。」・・・とっくに気持ちは行かないほうに決まってるんだけど・・・。
降りる直前、「寿司食べ放題に行きたい人、手を上げて。ハーイ!(シ〜ン…。)誰もいないのか。残念だな。」。
降りてからも「行く人、手を上げて。ハーイ!(シ〜ン…。)残念だな。じゃあね。」。
私たちの間では、あなたの名前が決まりました、この『寿司男』!
 部屋に戻ってから、残っている食材で夕食にした。あとは、ひたすら荷造りタイム。詰めろ、詰めろ、詰めろ。あ〜、濃かった旅が終わっていく。寂しいな〜…。

10月17日(日)〜18日(月)
 帰国の朝。ホテルでのピックアップは5時。お迎えに来た係員は、長髪のフニャとした顔。名付けて『カエルちゃん』。つくづくNYの現地係員の人達は、個性的だわ。
 空港には早朝だというのに、たくさんの人がいた。荷物を預けると、カエルちゃんとは、もうお別れ。あとは飛行機に乗り込むだけ。まずは、7時発のアメリカン航空725便でダラスへ飛び、そこで1時間半くらい免税店でのお買い物などをした後、11時20分に国際線に乗り継ぐ予定だ。時間通りに飛行機に乗り込んで、席から窓の外を見ると滑走路は飛行機がズラズラ並んでいる。えりさんと「渋滞かなー?」などとのん気なことを言いながら、睡眠不足のため離陸前に眠ってしまった。しかし、ひと眠りして目を覚ましたら、まだ飛行機は滑走路にいる。寝てないのかと思い、時計を見ると1時間もたっている。そういえば、さっきも飛行機が並んでたけど…。乗り継ぎの時間の余裕は、1時間半しかない。英語の機内アナウンスを聞くと、どうやら霧のため管制からOKが出ないらしい。しょっちゅう入るアナウンスでは、「pretty soon」とか「10min.」と言うが全く飛ぶ気配はない。搭乗してから、こんなことになるなんて…。どう考えても、もう乗り継ぎ便には間に合わない。ダラスで1泊?会社に国際電話で休みの追加を言うのか?旅の最後にこんなハプニングが待っているなんて…。飛行機が飛んだのは、結局予定の時刻より2時間半たってのことだった。でも間に合わないことが確実になったので、開き直るしかない。
 ダラスに着くと、ゲートのところで「関西へ乗り継ぎのお客様!」と日本語でのお出迎え。アメリカン航空のポチャポチャしたカワイイ日本人のお姉さんが待っていた。どうやらJALとの共同運航便だったので、午後のJAL成田便に振り替えてくれるとのこと。泊まらずに日本に帰れる。やった〜!成田からの伊丹便も席を取ってくれている。ホッ…。それからは、カウンターでのチケット発券。カウンターの女性が日本語ができなかったり、モタモタしていたりで、ほとんど時間に余裕がなくゲートに向かい、搭乗となった。
 機内では、この1週間の睡眠不足を解消するため、食事時間以外は、ひたすら眠り続ける。おかげで、長時間のフライトも気にならず、あっという間に成田へ着いた。成田へ着くと、また大変。伊丹便に乗り継ぐのに時間の余裕がない。ギリギリ。しかし預けた荷物のピックアップで、カホのがなかなか出てこない。先に3人が国内線カウンターに行ってチェックインを済ませることにした。えりさんとメグに荷物のカートを押してきてもらうことにして、私は4人分のチケットを持って空港の端の国内線カウンターまで走る、走る。離陸まで15分。「まだチェックイン大丈夫ですか?!」という私にカウンターお姉さんはニッコリ「はい。」。あ〜、よかった〜。ホッ…。チェックインを済ませ、追いついたカートの荷物を預け、航空券をもらったところで、カホが追いついてきた。はぁ〜。今日は最後までドキドキ。搭乗すると、席は2階のビジネスクラス。足置きもあるし、シートも広くて楽ちん。最後の最後に、ちょっとラッキーだった。こうして、私達の濃い濃いNY旅行は、やっと終わった。
 最初は、私の「今井さんのNY公演が見たい!」という夢が始まりだった。NYへ行くことが決まれば、「あれも見たい!」「これも見たい!」と結果は大忙しの旅になってしまったけれど、いろんなものを見て、いろんなことを感じて、現地5日間とは思えない充実した日々。そして前回訪れた時とはくらべものにならないくらいNYの街が好きになった旅でもあった。ブロードウェイに、また来たいなぁ。

NY篇・・・THE END