「男たちの挽歌」
(英雄本色/A BETTER TOMORROW) 
と、チョウユンファの香港映画

 

  まず最初に・・・、もしあなたが、映画を見る時に細かいチェックを入れて腹を立てる人ならば、この映画を見ないほうが身の為です。突っ込みどころ満載過ぎて、耐えられないかもしれません。でももし、あなたが大映テレビのドラマを楽しめる人であるならば、めっちゃ楽しめるはずです。おもしろいです。私はこの映画をきっかけに、香港映画に、いや、チョウ・ユンファの出演してる香港映画にはまりました。

 まず、突っ込みどころを上げてみましょう。香港という狭い街で、偽札シンジケートの大物顔役のホー(ティ・ロン)の弟・キット(レスリー・チェン)が警察学校に入って刑事になる、しかも弟は兄の仕事を知らない・・・この時点で「そんなアホな・・・。」と思います。いくら家族の職は問わなくても、そりゃあマズイっしょ・・・。まぁ、この設定があるから、兄と弟の愛憎ドラマが生まれるんだけど。偽札シンジケート組織も、えらく明るい普通のオフィス。しかも、社員みんな明るく爽やかに、ホーやマーク(チョウ・ユンファ)に挨拶。オフィスの人は裏稼業を知らず、普通の会社と思ってて、ホーやマークを役員と思っているのかとも考えたけど、それにしては二人とも黒ずくめに黒サングラスで、めっちゃ怪しい格好をしてるのですよ。そして、何よりもいちばんの突っ込みどころは、とにかく‘撃たれても死なない’ことでしょう。香港人、少々撃たれたくらいじゃ死にません。クライマックスの銃撃戦では、よ〜く見ていると、撃たれた人が画面の外に向って走ってたりします(笑)。まるで時代劇の斬られ役のよう。と、いろいろありますが、そういうネタを見つけて喜んでたりする私は邪道?

 あらすじの主役は、どう見てもホーだし、最初に私がTVで見た時も、「TVガイド」の写真はホー役のティ・ロン。ところが、その後のチョウ・ユンファの人気のためか、今やDVDの写真も、ほぼ全てユンファ。ま、ジャケットがティ・ロンの写真だと萎えるかも。ティ・ロンを知らない人にわかりやすく言うならば、ふけてからの石橋正次(字あってるのか?)に似てます。ちょっとオデコが広いのね。主演は、ティ・ロン、チョウ・ユンファ、レスリー・チェンの3人まとめて、ってことなのですかね。

 ユンファ演じるマークは、これぞヒーローって役なので、主役と言えば主役かもしれないですね。マッチ棒をくわえる癖に、2丁拳銃がトレードマーク。片足をひきずりながら、ロングコートで駐車場の奥から歩いてくる姿、その表情、もうめちゃくちゃヒーローしてます。かっこいいです。最後の最後までヒーローです。いちどは落ちるところまで落ちて、惨めにボロボロのセーターで、かつての舎弟の車を磨いて、お金を恵んでもらってる、それがまたいい。それがあるから、「このままで終わるのはイヤだ!」と、もう一度のし上がろうと戦う、その姿が生きてくるのでしょう。ティ・ロンは、カタギに戻ろうとする役なので終始抑えめな感じの演技なのに対して、ユンファは、最初の明るいお調子者から落ちぶれて、そして戦いに行く最後まで、わりとテンション高い演技が多く、オイシイ役どころかも。確かユンファは、この映画で香港映画界の主演男優賞をもらっていた。ん?ということは、やっぱ主演だったの?それにしても、レスリー・チェン演じるキットには、イライラ。「オマエが単独行動するから、こんなことになるんやろー!」と、何度も画面に叱りつけたくなります。こんな浅はかな警察官、困る。でもそういうとこが、なんだか放っておけない感じで、そりゃあ兄のホーも気になってしょうがないよなぁ・・・。

 この映画の続編「男たちの挽歌2(英雄本色U/A BETTER TOMORROW U)」になると、突っ込みどころも倍増。クレジットの名前の出方を見ると、主演は、前作の3人にディーン・セキを加え、4人。(ディーン・セキは、この映画の製作会社シネマシティの設立者らしい。自分で主演までしちゃうのね。)獄中のホーに潜入捜査の為の出所の誘いがある、という冒頭の設定から、「んなアホな・・。」です。ユンファはマークの双子の弟・ケンとして登場します。ユンファは、元々丸顔なのに少し太ったのか、アゴの線が消えてるし、髪型もちょっとツライ。ハリウッド進出以前の、下手な英語も聞けます。でも、かっこいい。階段を仰向けに滑り落ちながらの2丁拳銃といい、屋敷に手榴弾を投げ込んで爆発したところへ、また入っていく後姿といい、かっこいい。ルン(ディーン・セキ=筑紫哲也に似てる!)は、精神に異常をきたしゴハンも食べれないくらい幼時退行するんだけど、その治り方も、まぁ突然で・・・(苦笑)。クライマックスの銃撃戦は、とにかくすごいです。戦争です。あの調子だと、屋敷の中は死体の山でしょう。主役達は、撃たれても永遠に死なないんじゃないかというとこまでパワーアップしてます。至近距離でガンガン撃たれても死にません。痛快さも倍増してます。娯楽作品として、おもしろいです。

 後に製作された「アゲイン/明日への誓い(英雄本色V・夕陽之歌/A BETTER TOMORROW V LOVE AND DEATH IN SAIGON)」は、マークがパート1以前に、陥落直前のサイゴンにいた頃の話を描いています。製作のツイ・ハーク自らが監督もしています。レオン・カーフェイ共演(確か「ラマン」に出てた人ですよね?)。時任三郎が出演してるし、主題歌はマッチの「夕焼けの歌」(だっけ?)のカバー曲です。時任さんは、ユンファと渡り合っても体格的にも絵になります。ユンファ、結構デカイからね(時任さんほどじゃないけど)。

 私のいちばん好きな香港映画は、「狼 男たちの挽歌・最終章(喋血雙雄/THE KILLER)」。挽歌シリーズのような題がついてますが、まったく別の話。この映画は、ブルース・リー以来、実に18年ぶりにアメリカで封切公開された香港映画らしいです。この映画の時のユンファは、挽歌シリーズのマークやケンのような明るいお調子者っぷりがなく、孤高の殺し屋という設定もあり、いちばん美しいです。ジョン・ウーの映像もキレイ。(教会に白いハトが飛ぶという映像は、「フェイス・オフ」でも撮ってました。)結末の悲しさも、すごく好きです。ただし、撃たれてもなかなか死なないのは、いつも通りね。この映画がハリウッドで話題になって、今や、製作のツイ・ハーク、監督のジョン・ウー、主演のチョウ・ユンファ、3人ともハリウッドへ進出しました。また3人で、こういう映画作ってほしいんだけどなぁ。

 他には、「風の輝く朝に」が好き。いい映画です。「誰かがあなたを愛してる」も、おもしろかった。「愛と復讐の挽歌」「ゴッド・ギャンブラー」は、ユンファが好きなら楽しめるでしょう。



「男たちの挽歌」「男たちの挽歌U」「アゲイン・男たちの挽歌V」
「狼 男たちの挽歌最終章」「風の輝く朝に」のDVDは、
全てポニーキャニオン・オンラインショップにて
各3,800円で販売されています。