灸療法について

 

灸は解字上、火と久(つける、おしあてる)を組合わせることから「火をおし当てて病を拒ぐ」の意を表し、字義は「やいと。艾を肌に点じ、これに火をつけて焼き、その熱で療病する法」、「つける。おし当てる」、「ふさぐ。久に通ず」、「ささえる」などを意味する(大漢和辭典・巻七)。

一方、艾を用いる灸療法は古医書の『黄帝内経』や『千金方』などにも詳しく記されている。このように、伝統的な灸法は古くから艾を用いて直接的、間接的に温熱刺激を与え、その生体反応を利用して疾病の予防や治療を行ってきた。

 しかし近年に到り、艾以外の物質または器具・機器を用いて体表に温熱・冷・化学刺激等を与える種々の新しい方法が創案され、臨床活用が行われるようになった。この新しく創案された温熱・冷・化学刺激等の手法を、灸療法の範疇とみなすか否かについては種々の見解がある。

 国内のテキストや参考書にみる現時点での灸の分類は、主に組織損傷や瘢痕治癒の観点から有痕灸(別称:有瘢痕灸、直接灸)と無痕灸(別称:無瘢痕灸、間接灸、温灸)に二大別される。有痕灸はさらに透熱灸、焦灼灸、打膿灸の三者に分けられ、無痕灸は隔物灸、艾条灸、薬物灸(艾や艾以外の物質または器具・機器を用いる)、その他灸法などに分けられる。

 伝承的な灸療法では灸といえば艾、艾といえば温熱を連想したが、近年の灸の捉え方は艾以外の物質または器具・機器を用いる方法を広く包含する方向にある。