薬物を皮膚に塗るか貼ることにより、局所の発疱、充血、消炎、鎮痛、消毒、殺菌、角質軟化、剥離などを期待する灸法。通常、調合では艾をほとんど用いず、薬物(生薬など)のみとすることが多い。天灸、漆灸、水灸、墨灸などがある。
1.天灸
皮膚刺激性の強い薬物(植物や昆虫などから調合)を皮膚に貼って、局所の発疱、充血を起こす。薬物の量、種類、貼付け時間などにより、局所の充血にとどめるか、発疱させるかを加減する。自灸ともいう。
発疱薬には、毛莨(もうこん)、大蒜、カラシナの乾燥種子(白芥子)、カンタリジン(甲虫のマメハンミョウを乾燥したもの)などが用いられる。
毛莨は、葉をつぶして皮膚に1時間程度貼る。温感の自覚とともに充血がみられ、灼熱感や痛痒感の自覚とともに水疱をみる。水疱は潰して、軟膏などを塗布し、清潔に保つ。大蒜は、すりつぶしたものを皮膚に貼って充血、発疱させる。カラシナの乾燥種子は、粉末にしたものを水で調合し、皮膚に貼って発疱させる。カンタリジンは、粉末にしたものをグリセリンと調合し、それを皮膚に貼って発疱させる。
天灸は、発疱を主目的に発展してきた歴史的経緯があり、水疱を生じるので事前にそのことを十分に説明する。発疱薬の中でも、カラシナの乾燥種子やカンタリジンの発疱作用は強い。局所の充血のみを意図して用いる場合は、張付け後の温感などの発生に十分に留意して行うか、天灸以外の灸法を用いる。2.漆灸
漆灸には、生漆(きうるし)を用いる方法、乾漆を用いる方法がある。前者は、生漆(きうるし)と樟脳油を10(滴):10(滴)の比率で調合し、ヒマシ油を適量加えてよく混和する。後者は、乾漆37.5g、明礬37.5g、樟脳18.75g、これに艾の粉末を適宜調合し、黄柏の煎汁に溶かす。これを棒で皮膚に塗布したり、艾に浸ませて経穴部などに置く。3.水灸
水灸には、用いる薬物や組合せの違いなどから、次の三法がいわれている。1.薄荷脳7.5g、竜脳3.75gを調合し、これにアルコ−ルを適宜加えてよく混和する。2.竜脳7.5g、白礬3.75g、噛砂精(ろしゃせい)3.75gを調合し、よく混和する。3.グリセリン50g、竜脳30g、硝酸20gを調合し、よく混和する。
調合・作成したものは、筆、箸、棒などを用いて皮膚に塗布する。4.墨灸
墨灸の仕方には、二法ある。1.黄柏和墨5勺=約0.09リットル(黄柏18.75gに水1合=約0.18リットルを加えて5勺にまで煮詰めた液)、竜脳7.5g、米の粉末7.5g、麝香3.75gを調合し、よく混和する。これを皮膚に塗布する。2.竜脳3.75g、麝香3.75gを調合し、ヒマシ油と煤煙を適宜加えてよく混和する。これを艾に浸ませ、小豆大に丸めてから偏平にし、施灸部位に置く。この上に艾柱を置いて点火する。