『気』についての論証(3) 「陰陽学説」と「五行学説」

四、「陰陽学説」と「五行学説」                                
1) 概 要                                          
 陰陽と五行は中国思想の根幹を成す学説であり、相互に深く関わりあっている。         
陰陽学説では、陰と陽という相反する二種類の気が相互に作用し関連することで、宇宙万物の発生・成長・運動・変化・滅亡を営むことを論じている。                         
 また、『陰陽の中に五行がある』、つまり陰の中に木火土金水があり、陽の中に木火土金水が存在すると論じている                                       
 五行学説では、宇宙に存在する万物は木・火・土・金・水という五種類の「気」が相互に関連して成り立っていると論じている。                                   
 また『五行の中にも陰陽がある』、つまり、木行の中に陰の木と陽の木があり火行の中に陰の火と陽の火があり、土行の中に陰の土と陽の土があり、金の中に陰の金と陽の金があり、水行の中に陰の水と陽の水が存在すると考える。                                   
 このように陰陽五行は密接に結び付き、宇宙の森羅万象の生成変化に関係している。       
 *陰陽学説は対立・互根・消長・転化の四項目からなる。ここでは、陰と陽はそれぞれ独立するものではなく、相互に関連し影響を与え合い全ての事物の生・長・壮・老・・(終わる)を行っていると説いている。                                            
2) 陰 陽                                         
一、概 要?                                          
 自然界の全ての事物現象には「陰陽」という相対する二面性が存在する。            
 例えば、天と地・明と暗・昼と夜・動と静・熱と寒・出と入・生と死・雄と雌…それらは相対と協調を基に存在してる。                                       
 陰陽の相対は相互間の「制約と消長」でバランスを保ち、それによって自然界・万物が存在している。
〔素問・陰陽応象大論〕−「陽気は籘(アツマ)って天になり、陰気は籘って地になる。陰は静止の性質を持ち、陽は覩動の性質を持つ。陽は生発を主り、陰は成長を主る。陽は発散を主り、陰は収斂(集める)を主る。陽は気化を主り、陰は形成を主る。」                          
 人体がこの相対によって得られる恒常を「陰平陽秘」と云う。                  
 生物は陰陽の制約・消長のバランスが崩れると病を生じる。                  
〔素問・陰陽応象大論〕−「陰が勝てば(陰盛)陽は病む(陽虚)。陽が勝てば(陽盛)陰は病む。陽が勝てば発熱し、陰が勝てば体寒する。」                             
 陰陽の制約と消長は万事万物の発生・成長・変化に不可欠であり、特にそれらのバランスが全事物の生・長・化・収・蔵を正常に遂行する基本となる。                         

二、陰陽の「互根」−陰陽の相互依存関係                            
「互根」とは、ある事物内で対立し合う関係(陰と陽)が互いに依存している状態をいう。つまり、『どちらか一方は、もう一方が存在するおかげで自分も存在できる。』ということを指す。       
 互根には三つの意味がある。
                                

A 全ての事物や、事物と事物間には陰と陽の両方が存在する。                 
例えば、上は陽・下は陰。上という位置付けが無ければ下は存在しない。熱は陽、寒は陰。これも一方が存在することで、もう一方が位置付けられる。                        
このように事物は相互に依存しなければ成り立てない。                    
B 陰陽の互根・互用                                    
「互用」とは、物質と物質、機能と機能、あるいは物質と機能間で、それらを構成する陰陽間に現れる相互依存関係をいう。?                                     
人体を構成する物質、気と血を例にすれば…気は陽、血は陰に属す。両者の作用は陰に属す気が、陰に属す血を生じ、巡らせ、固摂(脈管外に溢れ出さないようにする)等の作用を現す。        
C 陰に属す血は気を全身に輸布する。                            
機能でいえば、機能亢進は陽に属し、抑制は陰に属す。亢進が無ければ抑制は働かない。その逆も同様である。                                          
 物質と機能間では、機能は物質の運動現象であり、自然界には運動の無い物質は存在しない。つまり機能の無い物質や物質運動の無い機能は存在しない。独陰独陽は・(終わり)を意味する。       

三、「陰陽の消長」                                      
 「消」は縮減・衰弱を意味し、「長」は延ばし増強を意味する。陰陽の対立・制約・互根・互用は、常に運動変化している。                                    
 このような運動変化を「陰陽の消長」という。                         
 つまり、陰陽どちらかが強くなると、もう一方は弱くなる現象で、陰消陽長・陽消陰長・陰長陽消・陽長陰消の四パターンで現れる。                                
 四季を例にすれば、冬から春や夏にかけては気候は寒冷(陰)から炎熱(陽)に変化する〔陰消陽長〕。
 夏から秋や冬に進むと気候は炎熱(陽)から寒冷(陰)に変化する〔陽消陰長〕。          
生体に於いては、子時(二三時〜一時)から徐々に生理機能が亢り(陽)〔陰消陽長〕、午時(一一時〜一三時)になると生理機能は抑制される(陰)〔陽消陰長〕。                 
 陰陽の消長が繰り返されることで生命活動は維持されているが、「陰消陽長」(または陰長陽消)のみで「陽消陰長」(または陽長陰消)がない状態。「陰陽の偏盛(または偏衰)」を起こすと、自然界や身体は失調を起こす。                                     
四、陰陽の転化                                       
 陰と陽は一定の条件下に於て(一定の段階に達すると)反対側に転化するという変化形式を持っており、この現象を「陰陽転化」という。                               
 陰と陽は相互に対立・制約をしながら、一定範囲において消長変化を繰り返しているが、何らかの原因によってこの消長変化が一定範囲を越えると一方の偏勝や偏衰を生じる。そして陰(陽)が極点に達する
と反対側の陽(陰)に転化する。                                
 陰陽消長は先ず量の変化が起こり、極点に達すると質の変化を生じて陰陽転化を生じる。      

〔素問・六微旨大論〕「万物が生じるのは化によってであり、万物が極のは変によるものである。変と化の闘争が成敗を決める。成と敗は全て「動」によって生じ、「動」が休まず続けば変化を生じる。」  
 陰陽の転化は質の変化の過程であり、万物の生成と滅亡は化と変によるものであって、新事物の誕生は既に滅亡の要素を含み、旧事物の滅亡は新事物の発生要素を含んでいることを説いている。      

五、中医学に於る陰陽理論                                   
 陰陽理論は中国医学の理論体系にも深く関与し、その解剖・生理・病理・臨床経過・臨床上の診断から治療に至る全ての基礎となっている。                             

A 人体の組織構造の解釈                                  
 中医学では人体を小宇宙・有機整体と考え、そこには対立と統一の関係が存在すると考えている。  
〔素問・宝命全形論〕「人は生まれながらにして形態をもっており、陰陽を離れない。」      
 人体を構成する事物の陰陽関係を、                              
〔素問・金匱真言論〕「人の陰陽といえば外を陽、内を陰と為す。人身の陰陽といえば、背を陽、腹を陰と為す。人身の臓絅の陰陽といえば、臓を陰、絅を陽と為す。肝 心 紕 肺 腎の五臓は皆陰に属す。
 胆 胃 小絛 大腸 絲糯 三焦の六絅は皆陽に属す。」と論じている。              
 さらに、一つの臓絅の中にも陰陽が存在するとも論じている。                  
 例えば、心には「心陰」と「心陽」があり、腎には「腎陰」と「腎陽」がある。経絡に於ては、背・四肢外側を巡るのは「陽経」であって、腹・四肢内側を循環するのは「陰経」である。人体を構成する基本物質、気は陽・血は陰に属す。                                 
 このように人体の組織構造の上下・左右・内外・表裏・臓絅・経絡の間は全て陰陽の対立と統一を含んでいる。                                           
B 人体の生理機能の陰陽理論的解釈                            
 人体の正常な生理機能は、陰陽相方の対立と統一の協調の基に営まれている。          
〔体陰用陽〕という言葉がある。                               
「体陰」とは、陰に属す物質は生理機能活動の基礎であり、これがなければ生理機能を産生することができないことを意味する。                                   
「用陽」とは、陽に属す生理機能活動は、物質の新陳代謝を行うもので、これが無ければ物質を化生できず、生命活動の源動力は無くなることを意味している。                     
 ここでいう「体陰」・「用陽」について、                           
〔素問・陰陽応象大論〕「陰(物質)があれば陽(生理機能)が発現する。陽(生理機能)が活発に行われていれば陰(物質)はそれを補充する。」と、相互の依存性を論じている。そして、相互依存性が崩れる。            
〔素問・生気通天論〕「陰陽が分離すれば精気もそれに従って瘻絶(ケツゼツ)し生命も終わってしまう。」と論じている。                                                                                  
C 人体の病理変化の陰陽的解釈                              
 人体は「陰平陽秘(陰と陽の相対と協調)」を保つならば、健康を維持できるが、何らかの原因で陰陽の協調が崩れると発病やその病理変化を引き起こす。                      
 疾病の発生及び病理変化は「邪正抗争」、つまり病気は、邪気と正気の相互作用と相互闘争によって起こると考えている。                                      
 *『疾病とは陰陽の消長の失調・偏 盛偏衰で発生し、その進行(病理 変化)は陰陽転化である。』
 外邪である「六淫の邪(風・寒・暑・湿・燥・火)」を陰陽に分けると、寒・湿は陰に、風・暑・燥・火は陽邪に属す。陰邪は人体の陽気を損傷し易く、陽邪は人体の陰液を損傷し易い。         

D 陰陽偏盛                                        
 陰陽偏盛とは陰陽どちらか一方が正常レベルより高くなる病理変化である。            
〔素問・陰陽応象大論〕「陰邪が盛んになると寒実症を起こすと共に陽気が損傷される。陽気が盛んになり過ぎると実熱症を起こすと共に陰液が損傷される。」                     
 *寒実症−陰寒の邪気により身体が 冷えたり寒けを感じたり、種々の 寒冷症状を現す病をいう。  
 *実熱症は高熱や熱症状が現れる病をいう。                          

E 陰陽偏衰                                       
 陰陽偏衰とは、陰陽どちらかが一方の正常のレベルより低くなった状態をいう。         
 陰陽どちらかが弱くなると、もう一方の偏盛を引き起こし発病の原因になる。          
〔素問・調経論〕「陽が虚になれば体表が寒くなり、陰が虚になると体内に熱を生じる。」      
この条文は、『陽が虚であれば陰を制約することができず、陰が相対的に偏盛状態を起こし、様々な寒症状が現れる。                                        
 陰が虚すと陽を制約することができず、陽が相対的に偏盛状態になり、熱症状を生じる。』ことを説明している。                                          
 さらに例を揚げて分かり易く説明している条文として、                     
〔素問・逆調論〕「黄帝は、『普通のカゼでも無いのに発熱して苦しいのは何故ですか?』と聞いた。岐伯は『これは陰気が少なくて陽気が勝っているために発熱して苦しいのです。』と答えた。      
 黄帝はさらに『衣服が薄くて寒気を受けたわけではなく、また寒気が体内に溜った訳でもないのに、寒が内部より発生するのは何が原因なのですか?』と聞いた。岐伯は『陽気が少なく陰気が多くなると氷水の中から出て来たように身体が冷える力があるのです。』と答えた。」というように陰陽の偏盛・偏衰について述べている。                                      
E’陰損及陽と陽損及陰                                   
 これらは「陰陽偏衰」が進行した場合の現象で、『陰が損じて陽に及び、陽が損じて陰に及ぶ』という病理理論である。                                       
 「陰陽の互根」を考えると、陰陽どちらかの虚が一定限度を超えると必ずもう一方の虚を引き起こす。つまり、陰窮まって一定限度を越えるならば、陽気を化生する源が不足して陽虚を起こし、陽虚が一定限度を超えると陰液を化生する力が不足して陰虚を引き起こす。                  
 つまり、一方に虚が生じて、更に進行して「偏衰」に至り、ついには陰陽両虚に発展するのである。

F 陰陽転化                                        
 陰陽転化とは、偏盛が一定の条件の基(限界を越えて)で、反対側、つまり、陰が陽に、陽が陰に変わることをいう。                                        
〔素問・陰陽応象大論〕「陰が重なれば必ず陽となり、陽が重なれば必ず陰になる。」「寒極まれば熱を生じ、熱極まれば寒を生じる。」                              
 急性熱症(陽症)で高熱が続いているうちに、正気を消耗して体温が低下して寒症状を現れることがある。これなどは陰陽転化の時に診られる病理変化である。                    
 *「弁証」という言葉がある。                                 
 これは、疾病治療に必要な「八綱の陰陽・表裏・寒熱・虚実」と四診を用いて、病症が陰症か陽症かを把握して、その治療方針を決定するまでの過程を指す。                      
 疾病の発生とその進行は、全て陰陽の失調で現れるので、診断も陰陽で分析できる。       
望診では色艶が鮮明なものは陽とし、暗いものは陰とする。                   
 聞診では、多弁で騒がしく、音声が大きく高く明瞭なものを陽とし、無口で物静か、音声が微弱で低いものは陰である。                                       
 問診では、温(熱)を好むものは陰、寒(陰)を好むものは陽。                
 脉診の脉部を寸部を陽、尺部を陰とする。至数(脈の早さ)では、数(六回/息)を陽、遅(三回/息)を陰とする。                                         
 脈型では浮・大・滑は陽、沈・細・?を陰とする。                       
 前述のように病を陰症と陽症に分類し、証の決定につなげる。                 
 〔景岳全書・伝忠録〕(張景岳著)「およそ病を診断し治療するときには、必ず陰陽を判断しなければならない。これは医道の綱領となる。陰陽の診断を誤らなければ治療に間違いのあるはずがない。医道は複雑だが、一言でこれを概説することのできるのは陰陽だけである。なぜならば、糢に陰陽があり、薬に陰陽がある。                                         
 もし、陰陽に精通すれば、医の理は奥深いがその半ばを過ぎたも同じであると診断に於る陰陽の重要性を説いている。                            
G 治療への応用                                      
 発病は、陰陽の失調が基で生じる。故に、陰陽の調整が治療の基本である。その陰陽の調整方法について、                                
 〔霊枢・邪客篇〕「その不足を補い、その余りを排泄する。」と、補bについて論じている。    
 〔素問・至真要大論〕陰陽の失調を注意深く観察して、これを調整して平らになることを準則とする。」
 これは補bを用いて陰陽のバランスを整え、平衡にする事を治療の原則であることを論じている。  

@治療原則                                       
a「陰陽偏勝」の治療原則                             
「陰陽偏勝」とは、陰陽どちらか一方の偏盛で余りが出てしまうことをいう。          
治療原則は、「b其有余」「その余りを排泄する。」である。                  
「陽の有余」(偏盛)であれば実熱症を現す。これに対して陽を排して寒を与える。「陰の有」は実寒証を生じ、これに対して寒には熱を与える治療法則を用いる。                  
また、一方の偏盛はもう一方を弱める働きがあるので、自分の有余をbすと共に、相手の虚を補う必要がある。                                           
b「陰陽偏衰」の治療法則「補法」                             
「陰陽偏衰」とは、陰陽どちらか一方が不足した状態である。                  
治療原則は、「補其不足」−「其の不足を補う。」である。                   
陰虚の場合陽を制約できないので陽盛(虚熱症)を引き起こす。この場合は陰の虚を補う。     
陽虚の場合は、陰を制約できないので陰盛(虚寒症)を起こす。この場合は陽を補う。以上が陰陽論の基本事項である。                               
3)五行論                                          
一、概 要                                          
 「五」とは、木(木気)火(火気)土(土気)金(金気)水(水気)の五種類の物質(気)を指す。
 「行」は、運動変化を指す。                                
 つまり、宇宙のあらゆる事物は、木火土金水の五種類の物質(気)の相互作用によって構成されていると古代中国人は認識していたのである。                             
 〔左伝〕「天は五材を生み出し、大衆はこれを使用する。そのうちただの一つも欠くことができない。」
 〔尚書〕「水火とは百姓が飲食を作ることであり、金木とは百姓がモノを作ることをいい、土は万物を資生するものである。」
                                    

二、五行の属性                                       
 森羅万象・万物はそんな性質や形態から五つに大別される。これを「属性」という。        
 事物の五行属性について、                                 
 〔尚書〕「曲直とは樹木の成長の形態で、枝や幹が曲がったり真っ直ぐになったりしながら上や外に向かって伸びてることである。                                   
 成長・上昇・発達・伸びやかなどの性質を持つものは、皆「木」に属す。            
 炎上とは火の持つ温熱・上昇などの特性のことをいい、これらの性質を持つものは皆「火」に属す。
 稼疳(カショク)とは種を植え収穫するという意味であり、土が万物を成長変化することを指す。成長・変化・受納の 性質を持つものは皆「土」に属す。                        
 従革とは変革の意味する。粛降・収斂の性質を持つものは皆「金」に属す。            
 淳下(ジュンカ)とは滋潤と下行を意味する。                         
 滋潤・下行・寒涼の性質を持つ事物は皆「水」に属す。」                    

三、五行の相互関係                                     
 五行説では、五行に各々属す事物はお互いに関わりあって存在すると考えた。           
 五行間には次の四つの相互関係が存在する。                          
 相生関係                                        
 相剋関係                                         
 相乗関係                                        
 相侮関係                                        
 相生関係と相剋関係は、自然界のあらゆる事物の運動変化の法則で、これによって自然界の生態バランスや人体の生理活動のバランスがコントロールされている。                   
 相乗・相侮は事物の運動変化に反するもので、それらのバランスを崩すものである。        

@「相生」                                       
 相生とは、一つの事物が他の一つの事物に対して発生・促進・助長することをいう。       
 五行の相生順序は、木生火 火生土 土生金 金生水で、一つの事物は他の二行と関わり合っている。
 つまり、「我」を生じたものは「我」の母であり、「我」が生じたものは「我」の子であり、五行相生関係は「母子関係」ともいう。                                
A「相剋」                                        
 相剋とは、一つの事物が他の事物を抑制・制約することを意味し、同様に、五行中では、どれか一行が他の一行を抑制・制約する働きを持つことを指す。                        
 五行の相剋順序は木剋土・土剋水・水剋火・火剋金・金剋木。                 
 いずれの行も相剋関係において「我を剋す」「我が剋す」というように他の二行と関わっている。 
 また「我を剋す」ものは「我が勝てない」ものであり、「我が剋す」ものは「我が勝つ」ものである…という「所勝」関係(所不勝)関係が五行相剋間には存在する。                 
 木を例にすると、木は金に剋されるので、金は木が勝てないものであり、木は土を剋するので、土は木に勝てるところである。                                  
 このように自然界のあらゆる事物には相生・相剋が行われている関係があって、更に相生の中に相克があり、相剋の中にも相生がある。相生がなければ事物の発生・発展はなく、相剋がなければ一方的な大過(過盛・亢進)が引き起こされ、正常な協調関係に於る変化と発展を保てなくなる。         
 そのためにも五行の間では、生の中に制があり、制の中にも生がある。例えば、木は土を剋し、土は水を剋すが、水は土を生む関係にある。                              
このようにいずれか一方の大過・不及を防ぎ、相互の協調関係を維持しつつ、正常な生化を継続している。                                             
B「相乗」                                        
 「乗」とは「虚に乗じて凌ぐという意味である。                        
 「相乗」は、相剋が行われ過ぎて、正常な制約を越えて引き起こされる現象であり、二つの原因が考えられる。                                          
a 五行中に一行が強過ぎて剋される行が異常に剋され、虚弱になる場合がある。         
 例えば、木が強過ぎると土を剋し過ぎて、土が虚弱になる。このような状態を〔木乗土〕という。 
b 五行中の一行が、自らが虚弱な時、その虚に乗じてこれを剋している行が更に凌駕(他の物をしのいでその上に乗じ る事)し、更に虚を助長させる場合がある。                  
 例えば、土が虚弱になっている場合に、木は土の虚に乗じて凌駕し、更に土を虚してしまう。このような状態を〔土虚木乗〕という。相剋は正常な制約であるが、過剰になると異常が引き起こされて相乗となる。                                     
C「相侮」(反剋)                                   
 侮とは侮(アナド)るという意味で、相剋の反対であり、その原因は二つある。          
a五行中に一行(我)が強くなり過ぎて、本来はそれ(我)を剋していた行(我を剋す)が我を剋すことができなくな ったばかりでなく、反対に我に剋されてしまう場合がある。
 例えば、正常な相剋では木は土を剋すが、土が盛んになり過ぎると木は土を剋せなくなるばかりか、反対に過盛になっ た土に剋される状態(反剋)になる。この場合は(土侮木)という。
b木が虚弱になって土を剋すことができなくなり(相剋不及)、逆に土に剋されてしまう場合がある。
 相乗は五行の相剋の順序に基づいて剋し過ぎるもので、相侮は相剋の順序に逆らう反剋の現象である。
〔素問・五運行大論〕「五行の気」は余り過ぎると、自分の勝てるものを更に抑制し弱めてしまい、自分が通常では勝て ないものを反侮する。つまり、自分が虚弱になっていると、自分が勝てないものに乗じられるし、自分の勝てるものにまで反侮される。」と記されている。これは、相乗が起こると同時に相侮が起こることもあり、相侮と同時に相乗を引き起こす場合もあることを述べている。         
 例えば、木が盛んになり過ぎると、木に乗じて凌駕して、同時に金に反侮することになる。
 木が虚弱になると土に反侮されると同時に金に乗じられることもある。  
 以上が五行論の概要と、その相互関係である。