『気』についての論証(2)  「気機」気の運動について

1.気機(気の運動)
(1)概要
[気機]という言葉がある。これは『気の運動』を意味する言葉で、それによって生じる変化や作用を[気化]という。様々な気の気機(気の運動)によって気化(物質や現象)を生じる。

気の運動パターン(気機)は、次の四種類が基本である。
@ 昇=気の下から上への運動
A 降=気の上から下への運動
B 出=気の内から外への運動
C 入=気の外から内への運動

「素問」六微旨大論に『気の昇降には天地の気が互いに作用する。昇と降は相互に因果関係があるため、種々の変化が生じる。
出と入がなくなると動静変化も減少し、上昇と下降が止まれば、気の存在すらなくなる。
故に、出と入がないと、誕生、成長、壮実、衰老、死も無い。昇と降がないと、生成、成長、開花、結実も無い。故に万物は昇降出入を持っている』と論じている。
これは、昇降出入が、天地宇宙の法則であり、万物はこれに従って生と死が運行されていることを述べている。
つまり気は、昇降出入の運動によって臓腑器官の全ての生理機能を激発し営んでおり、そして、それらの気の運動形式は生理活動に現れてくる。
また、気は諸臓腑器官独自の生理活動を激発・推動すると共に、相互関係を持つ臓腑器官の生理活動を激発し、推動する作用も持っている。
しかし、気の基本運動である昇降出入は、それぞれの臓腑ごとに全てが揃っているわけではない。それらは、各臓腑器官の生理機能・位置などの素因によって異なり、昇を主とするか、降を主とするか、出を主とするか、入を主とするかで決まってくる。大別すると、五臓は精気を貯蔵し、昇が多い。
六腑は水穀の腐塾(消化など)、糟粕(廃物)の転化(排泄)などを主っており、降が多い。
五臓では、肺は上焦にあって、気道や皮膚を通じて自然界と交流し、昇降出入、全てを備えてる。
心は上焦にあるが、自然界と直接通じていないため、昇と降の生理活動のみ行っている。
脾は中焦に位置し、消化した清気を運化する役割を果たすので、昇を主っている。
肝は下焦に位置して、自然界とは交流しないので、その生理作用は昇と降である。
腎は下焦に位置し、自然界とは接していないので、昇を中心にした昇降を主っている。
このように、一つ一つの臓腑は、昇降出入全てが揃っていなくても、臓腑相互の協調
作用で生命活動が維持されている。これを、[気機調暢](キキチョウヨウ)と言う。
*[気機調暢]は、健康状態。[気機失調]は疾病を意味する。[気機疾調]は、その病理変化によって呼び方も異なってくる。
例えば、[気機不用]とは、気の運行が順調でないこと、更に悪化して気が滞って流れなくなることを[気結]または[気滞]。
上昇し過ぎたり、逆上して降りないことを[気逆]。
下への運動が弱く、上に気が滞った状態を[不降]。
上昇運動が弱い、あるいは下降し過ぎることを[気陥]。
外への運動が強過ぎて、気が外へ抜けて行くことを[気脱]。
外への運動が弱く、内に」詰まった状態を[気閉]という。

(2)人体における気の分類
「先天の気」と「後天の気」
前述のように、人間は父の精と母の血を受けて生じる。この親からもらったモノを[元気][真気]といい、総称して[先天の気]と呼んでいる。
この親からもらったモノを[元気][真気]といい、総称して[先天の気]と呼んでいる。
そして、誕生以後、呼吸と飲食を通じて自然界から取り入れた大気や万物の精気は、肺や消化器官などの働きによって体内の[宗気][衛気][宮気]などに変化する。これらを総称して[後天の気]と呼ぶ。人間は生命活動を維持するために〔元気]を消耗し続けるが、[先天の気]と[後天の気]が合して生命を維持している。
*先天の気と後天の気が合した気は、病を生じる素因に対して抵抗力、免疫力となる場合を[正気]、経絡を循環する場合は[経路の気]、臓腑に流れると[臓腑の気]と呼び方が変わる。
元気は、真気・原気などとも呼ばれる親からもらった気である。元気は[命門]に存在している。人体の成長・発育・健康状態は全て元気の量と流れている状態で決まってくる。
つまり、元気の量が多く、良く流れているならば成長・発育・臓腑器官の働き・抵抗力・活動能力などが順調に推動する。
逆に元気の量が少なかったり流れが悪いと、生命活動は低下して、疾病発生や諸臓腑器官の機能不全などの原因となる。

@ 宗気(後天の気)
呼吸によってA・L内に取り込まれた清気は、脾胃から運ばれてきた水穀の気と結び付き[宗気]となって胸中に存在する。
宗気は気海穴から咽と息道に行き、呼吸を促すと共に、言語・音声の調節を主る。
また、呼吸の気を下丹田にある気衛穴に注ぎ、続いて心臓に移動し、心臓の働きを推動し、血液の循環を促す役割を果たしている。
宗気が不足すると、肺や心臓の働きに影響を与え、呼吸・言語・音声・心拍・血行の異常、冷え・眠気などの症状を現す。

「霊枢」邪客篇に『宗気は胸中に積み、咽に出て心臓を貫き呼吸を行う。』
「霊枢」刺節真邪篇に『宗気は胸中に留まって上気海となる。それが下は気衛に
注ぎ、上は息道(呼吸道)に行く。』

A営気(後天の気)
水穀は脾胃の働きによって消化吸収される。
吸収された栄養分の中にある精微な気を[営気]といい、それは血と共に脈管中を流れ、全身に循る。
営気は人体の生命活動に必要な栄養を供給する役割を果たしている。また、血液になる基本物質でもある。

「霊枢」邪客篇に『営気は水穀より化した精気であり、穏やかに五臓六腑に注ぎ、経路を巡り、脈管に流れ、血を化し、一昼夜間に身体を五十周巡り、五臓六腑より四肢までを栄養する。』
営気が不足すれば生命活動に必要な栄養が不足して虚弱・貧血・麻痺症状などを起こす。

「素問」逆調論に『営気が虚すと筋肉が麻痺して知覚を失う。』

B衛気(後天の気)
衛気とは、水穀から消化・吸収された栄養の一部分の気で、脈外や体表を循っている。

「素問」痺論篇に『衛気は水穀より化した活力の最も盛んな気であり、その流れは早くて滑利(潤滑=なめらか)であり、脈に入れす、皮膚の中や筋肉の間を巡り、筋膜(すじの類)、臓腑を温養する。』
この条文は、衛気とは外来邪気の進入を防ぎ、すでに進入した邪気と闘い、それを体外に追い出す役割を果たしている。そして皮膚・筋肉・臓腑を循って体温を保持し、皮膚を潤沢にし、毛穴の開閉をコントロールしたり、関節を滑利させて良く屈伸できるように働いていることを説いている。
衛気の不足は抵抗力の低下を生じ、罹患し易くなる。
また、身体の冷え・関節の屈伸困難、発汗異常などを起こす。
*営気と衛気。どちらも水穀の気より化したものだが、営気はその中で最も精微な気で、陰に属す。衛気はその中で最も活動的で陽に属す。この両者の調合によって諸臓腑器官に正常な働きをもたらされている。

以上が気の運動パターン[気機]の種類とその働きの概要である。

3、狭義の気(気・血・津液)
(1)概要
気には[広義の気]と[狭義の気]がある。
@広義の気
これは今まで述べてきた宇宙、あるいは宇宙を超越したあらゆる事物を総括するものを指す。
A狭義の気
これは[広義の気]に含まれる[陽気]のことを指している。その中の陽の部分を[気]、陰の部分を[血・津液・精]という。
ここでは[狭義の気]の陰部に属す、血・津液・精について記載する。

(2)血(ケツ)
血とは血液を指す。脈管中を循環する栄養に富む赤くて粘り気のある液体で、人体を構成し、生命活動を維持している基本物質の一つである。
血は、営気・津液・精によって生成され、栄養と滋潤(ジジュン=染み込み潤す)作用を主る。
@血の生成
血は水穀の精微物質[営気・津液・精]と気によって化生されている。
先ず水穀が胃と脾の働きによって[営気・津液・精]に生成される。そして、営気と津液は、脾の昇清作用(清気を上昇させる作用)によって肺に上昇される。
営気と津液は肺に吸い込まれた自然界の清気と結び付き、心・肺の気化作用を経て脈管中に注ぎ血に化成される。
「霊枢」決気篇に『中焦が水穀の精気を吸収し、気化を通じて赤い液体に化し、それを血という。』
「霊枢」営衛生会篇に『中焦が水穀の精気を受けて糟拍(ソウハク=かす)を排泄し、津液を蒸らし、それが精微物質に化し、肺脈に上注し、化して血になる。』
「霊枢」邪客篇に『営気が津液を分散し、脈管に注ぎ血に化す。』
精は腎中に存在し、先天の精と、後天の水穀の精微物質によって作られる[血]を化生する基本物質である。
「諸病源候論」「張氏医通」などに、『精・骨髄・肝・心の働きを受けて血に化す』と論じている。
脾胃の働きにより水穀の精微物質を吸収し[腎精](先天の気)を補う。
腎精が充足ならば髄を生じ、肝を養い、心に帰して赤くなり血となる。
*ここまでをまとめると、血の生成は 水穀の精微物質と自然界の清気を基本物質として、脾胃・肺・心・肝・腎などの臓腑の作用で完成するのである。

A血の機能
血は脈管中を循り、内は五臓六腑に、外は五官[九竅(キョウ)=人体にある九つの開口部、目!疆耳・鼻・口・二陰)]に絶えず栄養を運び、全身の滋養と各器官の生理機能の維持を行っている。
血の盛衰が全身の協調を左右し、諸臓腑器官は、その滋養を得てそれぞれの機能を発揮することができる。
「難経」22難に『血は全身を濡養することを主る。』
「素問」五臓生成篇に『肝は眼に深く関わっている。故にそれは血を受けて良く見ることができ、足は血を受けて良く歩くことができ、掌は血を受けて良く握ることができ、指は血を受けてつまむことができる。』
血の濡養作用は、顔色、皮膚の色毛髪などに現れる。
濡養・滋養が正常であれば、顔色は紅潤し、皮膚・毛髪には艶と潤いが出る。
血は人間の精神活動の基本物質でもある。
「霊枢」絶穀篇に『血脈が和利(穏やかに通行する)すれば精神は安定する。』

B血の循行
血は脈管中を流れ全身に休むことなく循環する。この生理機能は脈管・肺・心・脾・肝の協調作用で行われている。
心気の作用で血液循環を推動し、肺は全身から集まってくる脈管と、全身の気を調整する生理機能で血を全身に巡らせる。
肝は血を貯蔵して、全身の血液量を調節している。
脾は血流を統制し、脈管中を循行させ、脈管外へ漏れ出ないようにコントロールしている。

C気と血、その関係と作用
気と血の関係・気の血に対する作用は次の三つがある。
A 気は血を生じる。
B 気は血を巡らせる。
C 気は血を固摂する。
以下、それぞれについて記述する。

A 気は血を生じる。
血を化生する過程では全てが[気化]である。
血の主要成分は[営気]であるが、その他にも水穀の精気を吸収したり、営気・精・津液に化したりすることによって血は化生されるのである。
気化は臓腑器官の機能として現れる。気化作用が強ければ、血を化生する力も強くなる。気が虚せば臓腑器官も弱くなり、血を化す力も衰える。
B 気が血を巡らせる。
血の循行は気の推動作用によるものである。
これには[宗気]のように、直接血を巡らせる[気]と、心・肺・肝などの持つ[肺気][心気][肝気]と呼ばれる、臓腑の持つ機能による推動作用がある。
臓腑の気で、心気は循行の原動力、肺気は心気を助けて血を全身に分散させ、肝気は疏泄(ソセツ=散らす)作用を持ち、血を巡らせている。
C 気は血を固摂する。
気は血を脈管内に巡らせ、外に漏れ出ないように作用している。
血は自然界から取り入れた清気や、水穀の精気(営気)を乗せて全身を栄養する作用がある。

(3)津液
津液とは、全身に存在する正常な水液の総称である。
主に体液(細胞内液や細胞外液)唾液・汗・胃腸液を指す。
津液が脈管内を流れる時は、血液の成分となる。

@津液の生成・輸布・排泄
津液の生成・輸布、余った水分や老廃物の排泄には、肺・心・脾胃・三焦・腎・大腸・小腸・膀胱等が関係した生理作用によって行われている。
「素問」経脈別論篇に『飲食物が胃に入ると、その中の精気が遊溢(あふれ)し、脾に運ばれる。そして脾は精を散らし、昇って肺に帰す。
肺気は水道を通調(調節し、通す)し、下って膀胱に運ばれる。水の精である津液は四方へ輸布し、五臓経脈を流れる。』
この条文は、津液が、胃気と脾気の働きによって吸収され、脾気と肺気の働きによって輸布し、膀胱の気の働きによって排泄されることを説いている。(実際は前述したような臓器の協調によるものである。)
余った津液や水分 代謝産物は、肺・大腸・腎・膀胱の協調作用によって排泄される。
肺の[宣発作用]によって、それらを皮膚や呼吸道から排泄し、[粛降(シュクコウ)作用]によって大腸から排泄する。
水臓である腎は、腎気の作用で濁気(津液・余剰の水分・老廃物等)を膀胱に降ろし、膀胱の気化によって体外に排泄する。

A津液の機能
津液には、滋潤と濡養作用、血液の補充、老廃物の運輸、排泄機能がある。
飲食物より化成された精気である津液は、[津]と[液]に分けられ、それらが滋養・濡養する部分は異なる。
津は皮膚・毛穴などを中心に滋養し、液は臓腑・骨髄・関節・脳などを中心に濡養する。
「霊枢」決気篇に『津は筋肉・皮膚より排泄されると汗になり、液は水穀の精気を全身に充満させ骨に注ぎ、関節の屈伸を滑らかにし、皮膚に散布され潤す。また脳・髄を補益する。』
また、津液は脈中に入って血を補い、血の濃度を調節している。

B気の津液に対する作用
気は津液に対して次のような作用を持っている。
A 津液の生成
B 津液の運行
C 津液の固摂(コセツ)

次に各々について記載する。
A 気は津液を生じる。
津液は、脾胃の気によって水穀から吸収した精微物質から化生されている。つまり脾胃の気が充A・+であれば、津液の気化も順調に行われる。
脾胃の気が衰えると水穀の気の吸収も減少し、津液の化生も減少する。
B 気は津液を運行する。
気め昇降出入運動と温照作用によって津液の輸布が行われている。
気の温煦作用で津液が凝固しないように温め、気の推動作用で津液を全身に輸布し、気化作用によって余剰水分や代謝産物を排泄している。
C 気は津液を回摂する。
気は津液をコントロールし、体内の津液の量を調整している。
その他に、気の津液に対する作用として、津液も血と同様に気を乗せて全身に運ぶ。臨床上、津液が大量に失われた場合、気もそれに従って失われることが多い。
例えば、汗を流し過ぎたり、下痢や嘔吐で津液が流出すると陽気も失われる。

(4)精
精は生体を構成する基本物質で、その成長・発育・種々の生理活動を営む。これには[先天の精]と[後天の精]の二つがある。

@先天の精
先天の精は生まれる前に父母から受け継ぐ原子物質で、胎児が発育する際の生命活動の基本で、腎に蔵されている。
「霊枢」決気篇に『男女相交により新しい形態を合成する。この新しい形態を産生する前の物質を精という。』
A後天の精
後天の精は生後自然界から清気と 水穀の気を取り入れて、体内の気化作用を通じて化生されたもので、腎に蔵される。
共に全身に輸布され、生命活動を推動する原動力、つまり先天の精を滋助(滋養し助ける)するために常に栄養を供給し続ける。双方の精は協調しあって、生命活動に必要な気を作り出す。

「素問」陰陽応象大論に『人間は五味を食して精を化生する。精は気に化す。』生が充足であれば気も豊富に産生され、精の減少は気の減少につながる。
「素問」金匱真言論に『精は体の根本である。』
*精と気は同じ源より産生するが、気は動性で精は静的な性質を持つ。気の[気化作用]は水穀を精に化すが、精は絶えず気に化し気を補充し続ける。
このように気と精とは常に運動変化することによって様々な生命現象を現す。これらの現象は[神(シン)]と称された。
ゆえに、気と精が充足であれば生命現象である[神]も活発に行われる。気と精の不足は神を衰えさせ、気と精の消失は神の消失ー死につながる。

「素問」本病論に『神を得れば元気になるが、神を失えば生命も終わる。』とある。