◆症例  目に見えて改善したアトピー性皮膚炎の症例

 

全身に赤黒い湿疹が・・・

 その病気は、最近多く来院する重度のアトピー性皮膚炎。2007年2月中旬に31歳の男性患者が来院した。主訴は全身の痒み、不眠と全身の倦怠感、食欲不振と下半身の冷えであった。

診察して驚いた、顔全体が赤黒い厚みのある湿疹と引っかき傷で血がにじみ、苦痛に顔をゆがめている。頸から胸、背中、腹部、下肢まで全て赤黒い厚みのある異臭を発する湿疹で被われていた。所々に浸出液がにじみ出ており無意識に掻いている。下半身は氷のように冷たい。ここ2,3日はほとんど寝られないと訴える。

職業はプログラマーだがこの1ヶ月休職中との事。高校生の時に発病。アトピー性白内障も併発している。現在はステロイドを止めているとの事。全身の酷い湿疹はその反動か・・・。



アトピー性皮膚炎の病因は冷えにある

 脉状は人迎気口とも沈虚遅?。肺脾の叔法に異常を触れる。腹部は全体が厚みのある湿疹におおわれているが左右の腹直筋は堅く触れる(腹皮拘急)。極度の冷えと診る。

 証は肺虚陽虚、

 病証は気虚による湿冷と診て左経渠、商丘に衛気の手法、小腸経の陽谷と三焦経の陽池にも同様の手法を行う。腹部をはじめ顔面、肩背部、腰部下肢に至るまで湿疹の為刺鍼ができない。そこで銀の棒状員鍼(自家製)で背部を軽く擦過する。左右腎兪、三陰交、照海に小灸3壮を行う。腹部に臍灸を行い初回の治療を終わる。  

 患者に「この病気の真の病因は冷えにある」事を得々と説明する。鍼治療のみでは回復は難しい事を説明し、食事・睡眠・生活全般に亘り冷えに対する注意を与える。特に、腹部の臍灸と照海穴の施灸を勧める。治療は週2回を基本とした。

 治療は4回目より腎虚陽虚証にかわる。症例は順調に経過し2ヶ月を過ぎる頃には脾虚陰虚証になりかなり回復してきた。その回復の過程が鮮やかであり印象的であった。それこそ目に見えて湿疹が改善されるのである。

 現在も治療を週1回継続している。顔面をはじめ全身の湿疹はかなり改善された。赤黒い厚みのある異臭を伴う湿疹も少しずつ白くなってきた。浸出液も止まり7割近く普通の皮膚にもどってきた。痒みも無くなり熟睡出来るようになった。腹部の拘急も改善され下半身の冷えもとれ温かくなってきた。患者は2キロ程肥ったと嬉しそうに報告する。

 私は、鍼灸治療は生命力の強化が目的であり病の根本を改善する事を繰り返し患者に強調した。今回の治療も、決して薬や化学療法に頼ること無く患者自身が持っている治病力強化による自然な経過である事を話した。

 

今の時代は陽虚証が多くなっている

 現代人は冷えている。生活環境・食事・人間関係すべてに亘り冷え切っているのが現状である。

 最近は若い世代にうつ病が蔓延してきた。私の治療院にも多くの患者が来院する。臨床的にも陽虚証が多くなってきた。この傾向は生活習慣病にもあてはまる。平均体温も35度代になってきた。この現象は若くして老化してきた事を現している。 低下してきた体温を5分上げる事ができれば、多くの病症を改善出来るものと思う。

 それを可能にする事が出来るのは、正しい食事・適度な運動・そして伝統医学である鍼灸治療にあるとの信念を持って日々の臨床にあたっている。