の研究

難経医学の選穴法研究(2)

 

(1)素難医学に於ける陰陽五行論について
1.素問 2.霊枢 3.難経
@五行穴の確立 A兪穴病証について B治療法則の完成 C難経医学の目的
(2)難経が論ずる選経、選穴論について
@45難について A49・69難について B50難について C33・64難について D63・65・68難について E62、66難について F69・79難についてG67難について H73難について I70・74難について J75難について K77難について
(3)難経68・69難の選穴論に対する問題点
@68難について A69難について
(4)選穴論の研究※以下次号に掲載
1.選穴論の基本は穴性論にあり
@難経に於ける穴性論の諸難 A五行穴の臨床的性格 B五味論と穴性論について C五味と五行穴について
2.要穴選穴の基本表
3.選穴論の基本要点
@五気と蔵気について A病症と病証について B脉状、脉証と選穴について C陰陽剛柔論に於ける選穴について D治療側と経穴反応の重要性 
(5)症例
@陽虚証の症例(火穴選穴) A陰虚証の症例(水穴選穴)B陰陽剛柔選穴の症例
(5)今後の選穴論研究について

 

[4]選穴論の研究
 選穴論の研究に入る前に、素問第六十二「調経論」にて論ずる『病気の定義』につき考察したい。この事を理解せずして先に進んでは、選穴論の持つ真の重要性は修得出来ないものと思うからである。

1、病気の根本は精気の虚にあり
 病気とは何か。どの様な状態を病気と言うのか。この事は素朴な間い掛けではあるが非常に重要な意味を持った疑間である。
 病気とは何かについて「調経論」にて種々論じている。それを少しく考察する。
 素問「刺法論」を踏まえて黄帝が問う。「鍼の刺法には、有余には瀉を不足には補を行うとあるが、その有余・不足とは何を言うのか」。岐伯が答えて「有余に五、不足に五ある。何が有余・不足かと言うと、神・気・血・形・志の事である」。
 この問答の意味ずるところは重要である。 鍼の刺法は病気に対して行うのであり、病気とは何かと問うているのである。それに対して、病気とは「神・気・血・形・志」の有余不足であると解答している。この「神・気・血・形・志」は五蔵の精気の事であり、この精気が虚したり実したりしたのが病気であると言うのである。

 素問第九「六節蔵象論」に、この「神・気・血・形・志」の五蔵配当がある。それによると、心は神・肺は気・肝は血・脾は形・腎は志を蔵するとあり、各蔵府の基本性能が論じられている。そして、五蔵の精気の働きは気血となり、経脈を通じ全身に循環して身体を形成している。
病気は、五蔵精気の虚を基本として発生する。この様な精気の不調により気血の流れに不順が起こり、経脈の虚実が生じるのであるとしている。この考えの基本が、蔵府経絡説で説く経脈と蔵府は一体であるとずる論である。

2、選穴の意味について
 鍼医学の目的は気の調整にある。しかしてこの目標となる気はどこにあるのか。この疑問について「素問」は、気は五蔵の中に生成される、その有余不足が種々なる病証として現れるのであるとしている。ここに選穴の重要な意味がある。
 臨床の場に於ける選穴法の意味するものは、五蔵の精気を選穴により虚は捕い実は瀉すことが最終的目的となるのである。

3、経穴について
 経穴についは、霊枢「九鍼十二原篇」に『経穴ハ神気ノ遊行出入スル所ナリ』とある。経穴は、経絡上における気の門戸である。
 鍼医学は、気の調整が目標となる。このことより経穴を臨床的に意義づけるとずれば「経穴とは、古典医学の四診により蔵府経絡の変動を捉えて、難経等の選穴理論に基づいて選穴・取穴し、証法一致の手法により脉状や脉証を確実に整える事が出来るものが最も正しい経穴である。ここに経穴の臨床的意義がある。」となる。
 しかして、経絡治療の臨床にて活用出来る経穴は、五行穴・原穴・募兪穴・絡穴・?穴・ハ会穴,下合穴・熱兪穴・水兪穴等の二百四十数穴がその基本経穴となる。

4、臨床選穴論について
@選穴論の基本
 選穴論の基本は穴性論にあると考える。
 穴性論とは何か。簡単に言えば経穴の持つ基本的性格と作用の事である。
 「難経」には十二難に亘り穴性論が説かれている。
 三十八難―三焦の原気、原穴論
 四十五難―八会穴、内熱論
 六十二・六十六難―原穴論
 六十三難―井穴論
 六十四難―五兪穴の剛柔論
 六十五難―井穴、合穴論
 六十七難―募兪穴論
 六十八難―五兪穴論
 七十難―四時と陽気の論
 七十三難―井穴、栄穴の相関性
 七十四難―四時、五邪、五蔵の相関性
 ここで臨床上重要となる五行穴の性格につき考察したい。
 この事は、臨床の場にで良く経験する事実である。実際には、証に基づいて選穴するのであるが、ここではその基本的現象のみを陰経について考察する。

 木穴―血の病証に応用する経穴であり、脉状を収斂する作用がある。実際には太くで大きい脉を細くずる作用がある。
 火穴―陽気の病証に応用する経穴であり、陽気の発散を抑える作用がある。実際には虚脉・微脉をハッキリさせる作用がある。また、実数の脉状を選穴により改善させることが出来る。
 土穴―営血の病証に応用する経穴であり、脉状の緊張を緩める作用がある。また脉状を大きく柔らがい脉状にする事ができる。この事は胃の気を旺盛にする事になり重要な作用である。
 金穴―気虚の病証に応用する経穴であり、脉状をハッキリとさせる作用がある。た数脉の改善に効果が顕著である。
 水穴―津液・水の病証に応用する経穴であり、浮虚の脉状を中位に下げる作用がある。また硬い痼疾の脉状を柔らかくする効果もある。

A穴性論の基本は五味論にある
 五味の重要性は、BC五百年代より五行説の基礎的なものとして応用されていたことでも理解できる。この事は歴史的事実でもある。この時代に五行説の基礎として説かれたものには、五声・五色・五材等がある。いずれも人間が生活する上において重要な事項である。この様に五行説は、人間が実際生活を営む上にあって必要な基本的事項の集積を、陰陽哲学恩想にてまとめたものである事がわかる。
 この重要なる五行説の基礎ともなる事項の中に五味論の基礎的考え方が応用されていた。これは選穴を考えるうえで大きなポイントとなる。
 ここで「素問」に於ける五味論についで少し考察する。

《参考》素問に於ける五味論の文献
 1、蔵気法時論(第二十二)
 酸ハ収メ苦ハ堅クシ甘ハ緩クシ辛ハ散ジ鹹ハ柔ラカクスル
 毒薬ハ邪ヲ攻メ五穀ハ養トナシ五果ハ助ト為シ五畜ハ益ト為シ五采ヲ充ト為ス
 気味合シテ之ヲ服シ以テ精ヲ補イ気ヲ益スコノ五ハ酸苦甘辛鹹有リ各利スル処有り或ハ収メ或ハ急シ或ハ堅クシ或ハ緩メ或ハ散ジ或ハ柔ラカニスル
 四時五蔵ノ病五味ノ宜シキ所ニ随ウ也

 2、陰陽応象大論(第五)
 陽ヲ気トナシ陰ヲ味ト為ス味ハ形ニ帰シ形ハ気に帰ス
 気ハ精ニ帰シ精ハ化ニ帰ス精ハ気ヲ食シ形ハ味ヲ食ス
 化ハ精ヲ生ジ気ハ形ヲ生ズ味は形ヲ傷り気は精ヲ傷ル
 精ハ化シテ気トナル気ハ味ニ傷ラル

 3、五蔵生成論(第十)
 五味口ニ入り胃ニカクレ以テ五蔵ノ気ヲ養ウ

 4、生気通天論(第三)
 陰ノ生ズル所ハ本五味ニアリ陰ノ五宮傷ラルコト五味ニアリコノ故ニ謹ミテ五味ヲ和スレバ骨正シク筋柔ラカク気血以テ流レ?理以テ密コノゴトケレバ 気骨以テ精道ヲ謹ムコト法ノ如トケレバ長ク天命ヲ保ツ

 5、六節蔵象論(第九)
 天ハ人ヲ養ウニ五気ヲモッテシ地ハ人ヲ養ウニ五味ヲモッテス五気ハ鼻ニ入り心肺ニカクレル五味ハ口ニ入り腸胃ニカクレル味ハカクレルトコロアリ テモッテ五気ヲ養イ気和シテ津液生ジ相成リテ神スナワチ自ラ生ズ

【まとめ】
1、味には五種類ある。
2、味は形を造り五蔵の気を養う。
3、五味の摂取に過不足があれば病気になる。
4、形(身体)から気が生じる。
5、気の働きにより生命力が充実する。
6、五味の生理的働きは五行穴にて応用できる。

B五味論の選穴論的考察
 五味は五蔵の気を養い五蔵を生成する。五味は生命力の根源となるのであり実に重要である。
 ここでは、この重要なる五味論と経穴について考察する。この五味論と経穴については種々なる説が出されている。しかし、この五味論の考え方が五行穴に応用可能な事は一致しているようである。

1、酸味について
 酸味は肝臓に働き血を蔵して発散し活動的にずる。
 肝気に対しては収斂の気となる。収斂とは収める・集める・縮まる・緊縮・緩める等の作用がある。
 酸味は井木穴としで応用できる。そして臨床的には肝血を対象とするのである。
(五蔵への作用)
 肝臓―収斂作用・血を集める
 心臓―収斂作用・心熱を抑制する
 脾胃―収斂作用・胃の陽気を収斂し抑制する
 肺臓―収斂作用・肺臓の陽気を補う
 腎臓―収斂作用・津液を増やす
2、苦味について
  苦味は心臓に働き陽気を多くし活動的にする。心気に対しては渋固の気となる。渋固とは固める・引き締める・泄する作用・燥する等の作用がある。
苦味は栄火穴として応用できる。そして臨床的には陽気を対象とするのである。
(五蔵への作用)
 肝臓―渋固作用・血の津液を増やし血熱を取る。
 心臓―渋固作用・陽気の発散を抑え心熱を抑える。
 脾蔵―渋固作用・湿を取り乾かす。
 胃府―渋固作用・陰気の補により胃熱を取る。
 肺臓―渋固作用・陰気の補により肺の収斂を補う。
 腎臓―渋固作用・津液を多くし腎気を強める。
3、甘味について
 甘味は脾臓に働き営血を多くし活動的にする。
 脾気に対しては緩の気となる。緩とは緩める・気血栄衛を多くする・形(身体)を造る・栄養等の作用がある。
 甘味は兪土穴として応用できる。そして臨床的には営血(気血栄衛)を対象とするのである。
(五蔵への作用)
 肝臓―緩作用・脾を補い肝血を増やす。
 心臓―緩作用・竪になり過ぎた時緩める。
 脾蔵―緩作用・気血栄衛を多くする。
 胃府―緩作用・気血栄衛を多くする。
 肺臓―緩作用・津液を多くし乾燥を潤す。
 腎臓―緩作用・腎陰虚に対し津液を多くし虚熱を取る
4、辛味について
 辛味は肺臓に働き陽気・陰気を巡らし活発にする。
 肺気に対しては発散の気となる。発散とは気を巡らす・気の発散・温煦等の作用がある。
 辛味は経金穴として応用できる。そして臨床的には気(陰陽の気)を対象とするのである。
(五蔵への作用)
 肝臓―発散作用・肝血の発散活動を補う。
 心臓―発散作用・陽気を補う。
 脾蔵―脾臓の陽気は胃より補充される。
 胃府―発散作用・陽気不足による冷えを温煦する。
 肺臓―発散作用・陽気を温煦する。肺気を補う。
腎 臓―発散作用・腎の陽気(命火)を補う。腎気の収斂を助ける。(納気作用)
5、戯味について
 鹹味は腎臓に働き津液・水を巡らし活発にする。
 腎気に対しては柔濡の気となる。柔濡とは柔らめる・水分調節(水分を少なくする)等の作用がある。
 鹹味は合水穴として応用できる。そして臨床的には津液・水・精気を対象とするのである。
(五蔵への作用)
 肝臓―柔濡作用・肝血の水分調節により循環を良くする。肝実(血実)に応用。
 心臓―柔濡作用・心血の水分調節により陽気を補う
 脾胃―柔濡作用・脾胃の津液を調節し潤す。
 肺臓―肺は津液が少なく乾燥を良とする臓である。
 腎臓―柔濡作用・津液・水を調節し腎陽を補う。

 以上が五味論の臨床的考察の大要である。
 ここで、五味を陰陽の気に対応して考察すると次の様になる。
 陽気実―酸味・苦味にて対応
 陰気虚―苦味・辛味(証により酸味)にて対応
 陰気実―鹹味・酸味にて対応
 陰気虚―鹹味・甘味・辛味にて対応

〔5〕「要穴選穴の基本表」について
 選穴の対象となる経穴について、霊枢「九鍼十二原篇」に『経穴ハ神気ノ遊行出入スル所也』とある。そして、その総数については三百六十五穴とされている。
 しかし、実際には素問・霊枢には百十五穴、甲乙経には三百四十五穴、千金方には三百四十九穴、銅人経には三百五十四穴の記載がされている。
 ここでは、実地臨床の場にて応用される要穴につき考察する。

 (1)五行穴について(五兪穴・五井穴)
 素問「気穴論」に蔵の兪五十穴、府の兪七十二穴とある。
 霊枢「本輸篇」にて陰経(井木・栄火・兪土・経金・合水)
 陽経(井金・栄水・兪木・経火・合土)と分類されている。
 「難経」六十四難は五行穴の原典であり、五行穴は難経にて完成した。

(2)十二原穴について
 霊枢「九鍼十二原篇」に記載がある原穴は
 肺の原→太淵2 心の原→太陵2(心包の原穴)
 肝の原→大衝2 脾の原→太白2
 腎の原→太谿2 膏の原→鳩尾l
 肓の原→神闕l
 「難経」六十六難に記載のある原穴は肺・心・肝・脾・腎の原穴は霊枢に同じである。
 少陰の原→神門2 胆の原→丘墟2
 胃ノ原→衝陽2 三焦の原→陽池2
 膀胱の原→京骨2 大腸の原→合谷2
 小腸の原→腕骨2
 『十二経皆兪ヲ以ッテ原トナスハ何ゾヤ
 然り五蔵ノ兪ハ三焦ノ行ク所、気ノ留止スル所ナレバナリ三焦ノ行ク所ノ兪ヲ原トナスハ何ゾヤ
 然り臍下腎間ノ動気ハ人ノ生命ナリ十二経ノ根本ナリ故ニ名ズケテ原ト云ウ』

(3)募兪穴について
 兪穴について霊枢「背兪篇」に『其ノ処ヲ按ジ応中ニアリテ痛ミ解ス乃チ其ノ兪也之ニ灸スルハ可之ヲ刺スハ則チ不可也』とある。
〈大抒・背兪・心兪・膈兪・肝兪・脾兪・腎兪〉

 募穴については
 肝→期門 胆→日月 心→巨闕 小→関元 包→壇中 三→石門 脾→章門 肺→中府 大→天枢 腎→京門 膀→中極
 *募兪穴の応用法
 素問「陰陽応象大論」に『陽病ハ陰ヲ治シ、陰病ハ陽ヲ治ス』とある。
 また「難径」六十七難に『五蔵ノ募ハ皆陰ニアリ、而シテ兪ハ陽ニアルハ何ノ謂ゾヤ。然リ陰病ハ陽ニ行キ、陽病ハ陰ニ行ク。故ニ募ハ陰ニ兪ハ陽ニ アラシムルナリ』とある。

(4)十五絡穴について
 霊枢「経脈篇」に記載された経穴は
 肝の絡→蠡溝 胆の絡→光明 心の絡→通里
 小の絡→支正 脾の絡→公孫 胃の絡→豊隆
 肺の絡→列欠 大の絡→偏歴 腎の絡→大鐘
 膀の絡→飛陽 包の絡→内関 三の絡→外関
 任の絡→会陰 督の絡→長強 脾の大絡→虚里(大包) 
 「難経」二十六難に記載された絡穴については、十二経の絡穴は霊枢と同じであるが、その他に次の経穴の記載がある。
 陽きょう脈の絡→申脈
 陰きょう脈の絡→照海
 脾の大絡→大包

(5)げき穴について(甲乙経より始まる経穴)
 孔最・水泉・中都・陰w・地機・w門・温溜・金門・外丘・養老・梁丘・会宗の十二穴也
 *急性病に効果あり
 陰経→血に作用する
 陽経→痛みに作用する

(6)八会穴について
 八会穴について「難経」四十五難に
 『熱病内ニアル者ハ、其ノ会ノ気穴ヲ取ル也』とあり、経穴は以下のようである。中?(府会)章門(蔵会)膈兪(血会)?中(気会)大抒(骨会) 陽輔(髄会)陽陵泉(筋会)太淵(脉会)

(7)下合穴について
 霊枢「邪気蔵府病形篇」「本輸篇」に記載がある。
 『府病(熱病)ハ下合穴ヲ取ル也』『実スルトキハ即チ閉隆(瀉)シ、虚スルトキハ遺溺ス(捕)』
 胃→三里 大→上巨虚 小→下巨虚 三→委陽 膀→委中 胆→陽陵泉
 *肝・腎・中下焦の病症に選穴する(補法が基本)

(8)熱兪穴について
 素問「刺熱篇」「気穴論」「水熱穴論」に記載がある。
 蔵の熱を瀉す経穴とされ五十九穴ある。

(9)水兪穴(腎の兪穴)
 素問「骨空論」「水熱穴論」に記載がある。
 水種、浮腫、水分代謝等水の出入りを制する経穴とされ五十七穴ある。

 以上、経穴の大要につき考察した。この様な多彩にわたる経穴につき、五気と蔵気・病理と病症・脉状と脉証の三方面より臨床的な場に於ける選穴を考察し基本表にした。参考にして頂き臨床追試をお願いする。次号にては『要穴選穴の基本表』の基本要項を解説する。