◆朝日新聞より転載 [患者を生きる・バックナンバー] |
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シリーズ 患者を生きる |
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<患者を生きる-12> 投書編・・・・
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◆今回は特に多かった質問や、連載で扱わなかったテーマの質問を取り上げ、専門家の意見を聞く「うつ・投書編」をお届けします。 Q 職場はどう対応? うつ病になった娘が自殺してしまったという母親からは、「今も天国の娘に謝りながら暮らす毎日です」とつづったお便りをいただきました。 日常生活を共にする家族だけでなく、友人や同僚の悩みも深刻です。「毎日のように自殺未遂を繰り返す友人が、心配で心配でたまりません」というメールもありました。 うつ病になった同僚への職場の対応について、アドバイスを求めた投書をご紹介します。 私は病院で働く者です。精神科もある病院なので患者さんに接することも多く、うつ病に対する理解は進んでいる職場だと思っていました。ところが、同僚がうつ病になった時の病院の対応は、問題の多いものでした。 まず目についたのは、上司の対応のまずさです。仕事のメールを、休職中の同僚にそのまま転送していました。上司としてどう接するべきか、研修などの対策が取られていなかったことも原因だと思います。 私の病院には、一般企業の「産業医」にあたる医師がいません。同僚の職場復帰はほぼ本人任せのようになってしまい、周囲の理解もなかなか得られず、うまく進んでいません。 このような経験から、うつ病になった人に対して上司や部下、同僚としてどのように対応すればよいか、私も含めてもっと詳しく知るべきだと思いました。ご助言をお願いします。 (宮城県 言語聴覚士 40代) A 仕事忘れる環境を 家族や友人がまず考えなければならないのは、自殺を防ぐことです。「生きていても意味がないと思うか」「死ぬ具体的な方法を考えているか」といったことをうまく尋ねてみて下さい。答えが「イエス」だったら、状況はかなり切迫していますので、すぐに専門の医療機関を受診する必要があります。 治療には周囲の理解が不可欠です。再発を繰り返すような場合、周囲は絶望的な気持ちになってしまうかも知れませんが、うつ病は必ず上向きになる時期がやってきます。「回復する」との希望を決して失わないでほしいと思います。 長期にまったく回復の兆しが見えないという場合は、治療や休養の方法が合っていない可能性が考えられます。別の方法を検討する必要があるでしょう。 うつ病になった患者さんにはしっかりとした休養が必要です。職場復帰を目指す場合でも、一定期間は仕事を完全に忘れる必要があります。ご相談の上司のように、休養中に仕事の話を持ち込むことは、絶対に避けなければなりません。 休養後に復帰を果たした患者さんを支える場合、迎え入れる職場の方は、今までと同じように、普通に接するということを第一に心掛けてほしいと思います。ただし、必要以上にほめたり励ましたりすることは、まだ避けてください。 同じ質問を何度もされたり、他の人の仕事量が一時的に増えたりと、実際に職場などでうつ病の人を支えることは、大変なことも多いでしょう。 ただ、現代のストレス社会では、誰もがうつ病になる可能性があるのです。「次は自分かも」と肝に銘じ、メンタルヘルスについて考え直すきっかけにしてほしいと思います。
◇読者5人に聞きました 投書をいただいた読者4人と、うつ病を患いながら現在職場復帰に向けて歩んでいらっしゃる読者の計5人に、うつシリーズへの感想や今後への注文などをうかがいました。(敬称略) ●印象的な記事 「現代型のうつが印象に残った。高島忠夫さんら著名人の事例もインパクトがある」(菊地美穂子) 「自治体のうつへの取り組みは進んでいない。そんな中での仙台市の取り組みは、印象が強かった」(鈴木千穂) 「様々なケースが取り上げられていたことがよかった。これだけ多くの人が取材で語ってくれるということは、世間のうつ病に対する理解が進んでいる証拠だと思う」(横山暁子) 「話を聞いてほしいという患者さんは、実はたくさんいるのではないか」(中村節子) ●多くが仮名 「患者さんの体験談はやはり重みがある。その人が救われた言葉を掲載することで、それを読んだ患者さんが救われることもあると思う」(五十川敦志) 「後ろ姿でも患者さんの写真があるだけで、記事への親しみがまったく違う。素顔や実名が掲載できない事情は、読者も十分理解できるはずだ」(横山) ●うつへの思い 「父親が発病した20年以上前はうつ病に関する情報は乏しく、医療とは言えない対処法に頼ったこともあった。ありがたい時代になった」(五十川) 「情報はあふれるようになったが、本当に必要な人には届いていないと感じることも多い」(菊地) 「うつ病の患者さんに接していると、優しい人が本当に多く、こちらが救われる思いだ」(中村) 「発病後、テレビのバラエティー番組に安らぎを求めるようになった。『笑い』の大切さはよくわかる。悪化すると情報が読み取れなくなり、電車に乗れなくなったり、日本語が理解できなくなったりする。そんな時に周囲に支えられていると実感できると、本当に救われる」(鈴木) 「周囲の人間が『温かな無関心』を継続していくには大変な努力が必要だ。家族や同僚なども気分転換できるような環境が整えられるべきだ」(横山) ●掘り下げを 「発病に至る過程で『何を食べていたか』といった身近な情報が、実は非常に大切。アルコールの害などが潜んでいる場合も多い。もっと記事に盛り込んでほしかった」(菊地) 「患者の復職では、経営者や人事担当者も悩みを抱えているはず。彼らの声も知りたかった」(鈴木) 「患者の読者は、記事の中に情報を求めていると思う。例えば薬以外の治療法について、もっと取り上げてほしかった」(中村)
【ご意見を伺った読者のみなさん】 菊地美穂子さん(46)=大阪府枚方市在住。医療とアルコール依存のソーシャルワーカー。男1人、女3人の4児のシングルマザー。 中村節子さん(56)=仙台市在住。院内ボランティアとして、同市内の病院で患者さんの話を聞くなどの活動を18年間続けている。 横山暁子さん(42)=茨城県つくば市在住。中学生の時、乳がんの手術を受けた母親がうつ病に。以後、20年にわたり母親の病気と向き合う。 鈴木千穂さん(35・仮名)=患者として7年近くうつ病と向き合いながら、現在はうつ病患者の復職支援にも携わる。 |