◆朝日新聞より転載 [患者を生きる・バックナンバー]

      シリーズ  患者を生きる

     <患者を生きる-11> 情報編

       

ルールになじめぬ若者に増加

 

  きちょうめんで仕事熱心、秩序を愛する――。従来、うつ病になりやすいのは、中高年世代のこうしたまじめな性格の人たちだと言われてきた。ところが最近では、必ずしもこれに当てはまらない患者が増えているという。

 九州大の神庭重信教授(精神医学)は「ここ10年ほど、10代後半から30代の若い人にうつ病が増え、その特徴も変わってきた」と指摘する。社会のルールをストレスと感じる、仕事熱心ではない、秩序を否定するなどの性格を持つタイプ。同大の大学院生だった故・樽味伸さんは、こうした現代型のうつ病を「ディスチミア(気分変調性)親和型」と名付けた。

 元々やる気がなく、熱心に何かに取り組んで認められたという経験を持たない人が多い。学生時代もあまり勉強せず、何となく就職。仕事のノルマや上司との関係など、規範でがんじがらめの社会で初めて壁にぶつかり、うつ状態に陥ってしまう。

 主な訴えは「やる気が出ない」で、他人を非難し、大量服薬などの自傷行動に出る。自分から「うつ病だから治してくれ」と受診してきて、診断書を要求し休職したりする。
 こうしたタイプのうつ病が増えてきた背景として、神庭教授はうつ病概念の広がりと、社会環境の変化の2点を挙げる。

 ディスチミア親和型のうつ病は、従来型より症状が軽い。診断基準が変わりうつ病の概念が広がったことで、従来は「うつ病」とされなかったこのタイプも、診断の範畴(はんちゅう)に入るようになってきた。
 また、社会の価値観が変化し、若者文化では「型にはまらない」ことが良しとされる一方、企業社会の現実は厳しく、規範は依然としてある。このギャップに対応できない状況が、現代型うつ病を生み出しているのではと指摘する。

 ただこのタイプの治療は難しい。抗うつ薬が効きにくいため、慢性化することも多い。神庭教授は「治療は、その人の性格や対人関係能力などを把握し、役割意識を持つことへの嫌悪感を取り除くことが必要。物事がうまくいかないのは『うつ病』のせいではなく、生き方に問題があるのだと気づくことが必要です」と指摘する。
 
「患者を生きる 現代型」で紹介した矢田幸秀さん(39)=仮名=も、精神科クリニックの復職デイケアに通い、自分の生き方を考え直したことが、治療につながった。一方、異動など職場環境が変わるだけで、途端に治ることもあるという。

●記者のひとこと
 復職デイケアは一見、サークル活動のようだった。年齢の近い男女が集まり、ダーツを楽しんだり、本を読んだり。だが内実は大きく異なる。うつ病患者にとっては、朝早く起きて、電車で通うだけでも大変だ。

 仕事に必要な集中力も、なかなか戻らない。早く復職したいという焦りとも、闘わなければならない。こうした治療は、一人では難しい。デイケアの取り組みが、もっと広がって欲しいと思った。

(文・岡崎明子)