◆朝日新聞より転載 [患者を生きる・バックナンバー] |
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シリーズ 患者を生きる |
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<患者を生きる-10> うつ 現代型−2
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うつ病で銀行を退職し、00年6月、情報サービス会社に転職した東京都の矢田幸秀さん(39)=仮名=は、上司と衝突し、再びうつ症状に悩まされた。 矢田さんは転職直後は成果も出したが、上司が代わって、こまごまとした点まで注意されると説明。「上司にねたまれている」と、必死で訴えた。 診断書の発行を五十嵐院長に頼んだ。「一般的に会社には休職制度がありますから」と切り出すと、「一般論ではなく、あなたはどうしたいのか。自分の言葉で話しなさい」と、怒られた。 現代型うつ病の治療には、問題を他人のせいにするのではなく、自分がどう思うのかを考えさせることが大切といわれる。五十嵐院長は、患者に優しい言葉をかけるタイプではない。しかし、患者が聞いてきたことには、丁寧に答える。「きちんと聞いてもらったという実感が必要。ケアされていないと思うと、不安になる。後は自分でがんばるしかない」 通院し始めて間もなく、五十嵐院長から、うつになるまでの経緯や原因をまとめてリポートで提出するようにと命じられた。すぐ書けると思っていたのが、考えをまとめるまでに数日間かかり、書くのに丸1日かかった。 ◇復職目前、「完治まで戻らないで」 1カ月の休職、復職を断念。また休職……。復職予定日が近づく度に、体調が悪くなった。仕方なく、「3カ月通えば戻れる」という院長を信じ、デイケアに参加することを渋々承知した。 基礎体力を高めるヨガ、対人交流を学ぶダーツや卓球などの運動プログラムもデイケアにはあったが、「格好悪い姿を見せたくない」と、一切参加しなかった。無断欠席も何度かした。勉強するために、個人情報保護法関連の資格を取るための本や会計のマニュアル本を持ち込んだが、何も頭に入らない。1カ月もこんな状態が続いた。 約束の3カ月が近づいてきた年末。そろそろ仕事に戻ろうと、会社と復職の条件について話し合いを始めた。 ◇「疑似通勤」続け復職決まった 平日の午前10時から午後4時半まで、「疑似通勤」する。運動のほかオフィスワーク、映画鑑賞などのプログラムもある。自立支援のための医療制度を利用すれば、1日630円の自己負担となる。 終了予定の3カ月が近づいた今年3月、再び人事担当者と話し合った。今度はすんなりと、復職が決まった。「たぶん、ぼくの表情も違っていたんでしょう」。五十嵐良雄院長は「以前は『人が、上司が』という文脈でしか語れなかったのが、デイケアが終わる頃には自分の言葉で語れるようになった」と評価する。 05年1月にこの復職デイケアが開設されて以降、「卒業生」は約120人に上る。途中の脱落は5%ほど。職場復帰した人が80%、転職8%、再休職8%、失職4%という成果を出している。 「復職を焦り、がんばりすぎていないかどうかを見極めるのが、私たちの役割です」と所長を務める看護師の高橋理佳子さんは話す。 「私は生きているんです、今ここに。決して独りぼっちではなく」 (文・岡崎明子)
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