自 序
日本の伝統鍼灸医学は、平成5年頃を境として大きく変革されてきた。それは、日本経絡学会や日本伝統鍼灸学会に参加するとはっきりと感じる。
日本における伝統鍼灸治療の中心は「経絡治療」である。その経絡治療も、創設以来すでに60年以上も経過している。昭和14年に大まかな方針により「古典に返れ」の合言葉の元に発進したのであるが、以後、余り進捗性も無いままに時は過ぎてしまった。
平成4年頃から、日本経絡学会のシンポジウムで「証について」が5年間に亘り討論された。ここで、経絡治療が抱える諸問題について大いに意見交換がされたのである。当時、鍼灸界も二世の時代に入り、今までタブーとされた論点について議論が出来る時代になっていたのである。この数年間は、日本の伝統鍼灸医学にあってはまさにターニングポイントになると私は考えている。
この時期を境として、伝統鍼灸医学は違和感のある衣を脱ぎ捨てたのである。そして、正統鍼灸医学の本道を目指して歩を進め始めたものと大いに期待している。
漢方鍼医会の創立は平成5年である。会創立の理念は、臨床において患者に説明ができる鍼灸治療、治療家自身も納得のいく治療学術の構築にあった。それには、鍼灸治療の中に「病理」を正しく構築する事にあるものと以前より考えていた。会の創立はこれの実行である。
病理は「証」と同義であると考えても良い。正統医学である漢方理論を基礎におき、臨床研修を通して臨床学術を構築するのが目標である。その目標とする治療法を「漢方はり治療」と平成7年に決め、鍼灸師ではなく「漢方鍼医」を目指して同志と共に臨床研修を行っている。
本書は漢方鍼医会創立以来10数年、毎月の研修会や8月に開催される夏期学術研修会等においての講演や講義を中心として一書としたものである。
本書出版の目的は、漢方理論に基礎をおいた病理・選経選穴・脉証と脉状、手法等の臨床研究にある。決して、学理論の弄びでは無く臨床実践を通しての学術構築にその目的がある。また、講義に準備した病証考察・学術参考資料・医考等や臨床研究・論考等も数編掲載した。これ等は、すべて「漢方はり治療」の学術構築に繋がるものである事は言うまでも無い。読者諸氏の建設的な意見・指摘を期待するものである。
漢方鍼医会も、最近は前途ある若者が多数参加する様になった。将来が本当に楽しみである。今後の数年が漢方鍼医会としても正念場となるであろう。
最近の研修会では、衛気営気の手法・漢方腹診・体表観察等の臨床学術を中心に研修を進めている。これ等の臨床学術は正統な漢方理論の骨子である。目標である「漢方はり治療」の臨床学術構築はもう少しであると大いに意を強くしている。
2005年 薄暑の日に記す
福島賢治