漢方の体質論(素因)について

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素因とは持って生まれた体質のことである。古典医術では、心身ともに健康な状態を理想としている。これを陰陽和平の人という。

しかし、完全な健康人はいない。身体か心のどちらかか、あるいはその両方か。どちらにしても、どこか弱いところを持ったまま、うまくバランスを取りながら生活しているのだ。

熱病になりやすい人、胃腸の弱い人、筋肉痛を起こしやすい人などである。また怒りっぽい人、愚痴の多い人、考え込みやすい人などである。
病気とまではいえないが、何らかの変調を起こしている人は多い。これを素因といい、素因から現れる変調を素因証として治療するのである。

漢方臨床の場においては、体質を陰虚体質・陽虚体質とし、これを五蔵の「証」として分類するのである。
 陰虚体質は、熱の多くなる体質であり「陽性体質」ともいえる。
 陽虚体質は、寒が多くなる体質であり「陰性体質」ともいえる。

A.《霊枢》通天篇による分類
1.太陰の人
 太陰の人は陰気が多くて陽気が少ない。したがって血が濁っていて衛気の動きが悪い。筋肉に力なく、皮膚もブヨブヨなので、瀉法を加えないと気が動かない。
 太陰の人は皮膚が汚れたように黒く、物思いにふけり、身体がだらりと力なく、猫背になっている。

2.少陰の人
 少陰の人は陰が多くて陽が少ない。例えば胃は小さくて腸が大きい、といった状態なので六腑の調和が取れていない。
 少陰の人は外見はすっきりした態度だが、本当は陰気でこそこそしている。しかし何か事があると急に騒がしくなる。歩く時はうつむき加減になる。

3.太陽の人
 太陽の人は陽が多くて陰が少ない。慎重に陰陽を調和しないと、陽気が脱すると気が狂い、陰陽とも脱すると人事不省になる。太陽の人は見かけは得々としていて、図々しく、反り返った態度であるが、膝は少し屈して謙虚な様子もある。

4.少陽の人
 少陽の人は陽が多くて陰が少ない。経脈が小さくて絡脈が大きい。血は中にあり、気は外にある。だから陰を実して陽を冩すのがよい。もし絡脈だけを強く冩すと中の気が抜けて病気が治りにくい。
 少陽の人は立って歩く時も反り返って、身体を左右に揺するのを好む。そのために腕や肘が背の後ろにあるようになる。

B.《霊枢》陰陽二十五人篇による分類
1.木形の人
 皮膚の色が青味がかっている。頭が小さい。顔面が長い。肩幅が大きく、背筋が伸びていて手足は小さい。性格は考え事を好むために心労が多い。体力はない。

2.火形の人
 皮膚の色が赤味がかっている。頭は小さい。顔が前に出ていて尖っている感じである。肉付きはよい。性格はせっかちで、肩を揺り動かしながら動く、金銭を大切にしないから信用がない。よく物事を見通して考えるが、せっかちだから事故死することがある。

3.土形の人
 皮膚の色が黄味がかっている。顔面が丸く、頭が大きい。肩から背にかけての線が美しい。腹が大きく、足も肉付きがよい。性格としては心が安定していて他人に親切である。権力を好まない。よく人の意見を聞く。

4.金形の人
 皮膚の色が白っぽい。顔が角張り、頭や肩背が小さい。腹、手足ともに小さい。骨格も小さい。性格としては清潔好きで心静かなようだが、いざという時はよく動く。

5.水形の人
 皮膚の色が黒っぽい。顔の彫りが深く、頭が大きく、顎が角張っている。肩が小さく、腹は大きい。いつも手足を動かしている。長身である。性格としては年長者を敬う心なく、よく人を欺く。