<脉状診と臨床シリーズ> 

◆脉状診の臨床   「人迎気口診と選経選穴論」

A5判普及版 本文244ページ 定価3.000円 送料込 

 

本書は、人迎気口診の臨床資料と難経医学における選経選穴論を研修会の参考資料としてまとめたものです。

故、井上雅文先生の「鍼灸病証学について」の論文も全文掲載しました。

  第1章 人迎気口診の臨床資料
  第2章 難経医学と選経選穴論

  参考付録

 

自 序

「難経」は五経の中の一書である。五経とは、一般的には素問・霊枢・難経・傷寒論・金匱要略の医学古典を総称したものであると言われている。
これ等の古典医学書が正統な漢方医学の理論書であり、中でも「難経」と「霊枢」は鍼灸医学の臨床指導書、「素問」は医学全書、「傷寒論」と「金匱要略」は薬方の臨床指導書とされている。我々が研修している漢方はり治療の臨床指導書は「難経」を第一としている。

難経医学における補瀉の基本は、補は陽気を強くする事であり瀉は陰気を多くする事にその目的があるとし、手法はすべて補法的手法が基本となっており、治療結果として補的効果や瀉的効果を現す事になるのである。
「難経」の補瀉に関する考え方と手法、霊枢の主張する補瀉の理論には大きな隔たりというか考え方や目的の捉え方に大きな違いがある。この事はしっかりと理解して臨床実践に当たらなければならない。難経医学は、鍼治療の目的は補瀉にあるのではなく営衛の手法にあると位置づけている。この点はしっかりと理解すべき重要なポイントである。
「難経」の刺法論は、70.71.72.74.76.78.79.80難に亘って書かれている。この71・76難に陽気・陰気を基本とした衛気営気の手法の原則が書かれている。
76難は、鍼の深さでは衛の手法は浅く、営の手法は深く刺す事を提唱し、71難は衛の手法は鍼を倒し、営の手法にては鍼を立てることを教えている。いたって簡単な文章にまとめられているのだがここがポイントとなっている。
臨床では、陽気・陰気を確実に動かす手法こそ種々なる病症に対処出来るものである。この様な陽気・陰気に対応できる手法を修得する為には、かなりの臨床実績と鍼手法の修練が必要となる。
陽気・陰気に対応する事が、鍼治療の目的である事をはっきりと打ち出したのが「難経」の大きな功績の一つでもある。
難経医学の大きな特徴は、命門学説・三焦心包論を明確にしたところにもある。命門学説の臨床応用に心包を活用したのは難経が始めてである。
「命門」とは何か。命門は鍼灸臨床学としては「陽気」であるとする。要するに、三焦心包論における陽気の臨床応用となるのである。
命門学説は、31.36.38.62.66難に亘って書かれている。鍼灸の臨床の場に命門の重要性を位置づけ、臨床の場に「心包経」の活用を確立したのも難経医学の大いなる功績となる。命門の重要性は「霊枢」や「素問」にも書かれてはいるが、臨床の場に見事に位置づけたのは難経からである。
難経医学の治療理念には素晴らしいものがある。命門学説を基本とした「陽気」の重要性を確立した事は正に漢方医学の真髄となるであろう。

人迎気口診による臨床は、中国の金・元・明時代には大いに活用された治療法であった。しかし、残念ながら何らかの理由にて現代には継承されなかった。それを、故井上雅文先生は伝統鍼灸医学の中核である脉状診として現代に復活させたのである。
人迎気口脉診・十二経脈脉診等にて主証を決め、脉状や病証(病症)・体表観察等により選経選穴をし、気血津液に対して鍼灸による臨床を進める。これこそ、伝統鍼灸医学の本道であると思う。

  2011年7月1日 

 

<目 次>

<第一章>人迎気口診の臨床資料
【1】鍼灸病証学について 
1.病証学とは何か    2.虚実について   3. 気血について
4.陰虚・陽虚について  5.陰血虚・陽血虚と陰気虚・陽気虚

【2】15脉状の特徴と臨床的意義  
1.15脉状の特徴   2.15脉状の臨床的意義についての文献

【3】脉診の変遷と人迎気口脉診について 

【4】人迎気口診の臨床資料 
1.人迎気口脉診法の基本
人迎気口診の脉証と病証<表1>
2.人迎気口脉診の取り方
3.内傷病証と外傷病証(選経論の基本)
@「三因極一病証方論」の内傷・外傷
A「三因極一病証方論」による邪の侵襲と内傷病の伝変
B臨床病証(虚証)の選経基本
C虚証の病証経過による四段階(滑?脉の順逆病証)と選経
虚証病証の選経基本表<表2>
燥証病証の選経基本表<表3>
燥証について
4.主病証と滑脉、しょく脉について
主病証と滑脉・しょく脉の関係表<表4>
病理解説
@滑脉に順応する主病証
Aしょく脉に順応する主病証
B実脉病証(風熱,傷寒実熱、傷寒)の順脉病証表 <表5>
急性風邪(肺虚陽実証)の選経選穴について
C虚脉病証の滑脉・しょく脉の順逆病証表<表6>
5.人迎気口診の選穴について
6.実証(外傷病証)の病証経過と選経選穴について
陽実・陰実病証の選経基本表<表7>
7三焦、三焦経の基本選穴<表8>
8.病邪脉による選穴の基本<表8>
9季節の気(時邪)の選経選穴表<表10>
10.八会穴について 
気口人迎の病証表<表11>
五行穴・五要穴一覧表<表12>
五臓の正脉・大過脉・不及脉と五悪、五役、五主<表13>
11.脉証と背兪穴、募穴の選穴について
@外傷病証が主病証の選穴→募穴
A内傷病証が主病証の選穴→兪穴
12.傷寒の治療
@傷寒とは  A治療
Bその後の治療は「傷寒」の選経選穴で行う
C傷寒病が改善されない場合の経過について
13.人迎気口診の腹証について<表14>
14.難経49,50,68難の選経選穴の基本<表15>
15.脉証と脉状・症状の関係表<表16>

【5】病証解説と参考資料 
1.虚証病証  
2.実証病証  

【参考資料】
<資料-1>虚証・実証・風証・労証・燥証・熱証・寒証・冷証・湿証 
1.虚証  2.実証  3.風証  4.労証  5.燥証・熱証 6.寒証・冷証
7.湿証
<資料-2>労倦・虚労・脉状・紳(心)労 
1.労倦   2.虚労  3.脉状  4.神(心)労
<資料-3>痰飲病・水気病・湿病 
1.痰飲病  2.水気病  3.湿病
<資料-4>陰陽剛柔選穴の考察 
1.運気学説   2.生旺募の三才(万物の変化の過程)
3. [難経]三十三難について  4.気血津液論と剛柔論
5.相剋の生理と剛柔の病理  6.証と剛柔について
7.考察   <参考>池田太喜男氏の資料
<資料-5>人迎気口診の歴代文献 

【6】難経刺法論 
※70.71.72.74.76.78.79.80難の和訓と要点

【7】臨床病症の脉証・主証との関係表
臨床病症、基本脉証・主証。
病因・病証の要点、備考等の臨床資料

<第二章>難経医学と選経選穴論
【1】素難医学の陰陽五行論
1.はじめに  2.素問   3.霊樞  4.難経  
@五行穴の確立  A五行穴病証の確立  B難経の治療法則 C難経医学の目的
<参考資料>難経の全内容一覧  

2難経医学と選経選穴論 
1. 45難について    2. 49・69難について  3. 50難について  4. 33・64難について 
5. 63・65・68難について  6. 62・66難について 7. 69・79難について  8. 67難について
9. 73難について   10. 70・74難について  11. 75難について  12. 77難について

【3】難経68・69難について
1. 68難について
2. 69難について  

【4】選穴論の研究
1. 病気の根本は精気の虚にあり  2. 選穴の意味  3. 経穴について  4. 臨床選穴論
@選穴論の基本 
A穴性論の基本は五味論にある
<参考>素問における五味論の文献
1.蔵気法時論   2.陰陽応象大論   3.五蔵生成論   4.生気通天論   5.六節蔵象論
B五味論の選穴論的考察

【5】選穴の基本概念
1. 五行穴について   2. 12原穴について  3. 募兪穴について  4. 15絡穴について
5. げき穴について   6. 八会穴について  7. 下合穴について  8. 熱兪穴について
9. 水兪穴について

【6】選穴の基本表
1.五気と蔵気    
2.病理と病証-1
<資料1 要穴選穴の基本表>
<資料2 基本証の病証>  
@陽虚外寒証   A陰虚内熱証
B陽盛外熱証   C陰盛内寒証
3.病理と病証-2 
@五兪穴病証 <資料3 鍼灸聚英の五兪穴病証表>
A下合穴の選穴 <資料4 下合穴表>  
B絡穴の病証と選穴 <資料5? 15絡穴表>
C募兪穴の病証と選穴   
D?穴の病証と選穴
E原穴の病証と選穴
F八会穴・熱兪穴・水兪穴の病証と選穴 <資料6 八会穴表>

【7】脉状と脉証
1. 祖脉について   2. 祖脉の臨床的意義
<参考資料>七脉状の文献と臨床的意義

【8】病理と脉証
1. 病理の重要性について
<資料7 基本証の病理・病証・選穴・治法表-1.2>   
2. 陰虚・陽虚と寒熱について
3. 伝統鍼灸医学の流れ
4. 臨床と気血営衛
<資料8 人体の気の構造>
@衛の病理   A栄の病理
<資料9 陽気の循環> 
<資料10 陽気の発散・停滞>
B血の病理   C津液の病理

【9】脉状と脉証、虚脉・実脉の考察
1. 証の基本と病理  
@精気の虚について  A陰虚の重要性  B調経論について C証(病理)の基本について
2. 脉状と脉証
@脉状と脉証の意味論   A八祖脉の重要性と陰陽脉分類
B六祖脉の「虚実脉」について…七脉状論の提唱 
C弦脉の重要性について
3. 虚脉の考察
@虚の意味論   A虚の種類
4. 虚脉の臨床考察
@虚脉と虚熱   A浮沈脉との関係
B蔵府と虚脉の特徴
5. 実脉の考察
@実の意味論   A実の種類
6. 実脉の臨床考察
@基本的診方  A浮沈脉との関係   
B蔵府との関係

【10】七脉状と脉証の臨床考察 
1. 浮脉の臨床考察
@浮脉の意味論   A浮虚の脉証 
◆陰虚証について
B浮虚の病因と病理 C浮実の脉証について  D浮実の病因と病理  E浮脉の脉証における臨床応用
2. 沈脉の臨床考察 
@沈脉の意味論   A沈脉の脉証   
◆陽虚証について
B沈脉の病因と病理  C沈実の脉証について D陰実証と陰盛証について  E沈実の病因と病理 
F沈脉の臨床考察
3. 遅脉について
@遅脉総論   A遅脉の病位   B遅脉の病因と病理
4. 数脉について 
@数脉総論   A数脉の病証 
B数脉の病因と病理
5. 滑脉について
@滑脉総論   A滑脉とは(脉状と脉診)
B滑脉の病理と病症  C病脉としての滑脉について  D脉位と滑脉の臨床
6. しょく脉について
@しょく脉総論  Aしょく脉とは(脉状と脉診)  Bしょく脉の病理と病症  C脉位としょく脉の臨床考察                

7.弦脉について  
@弦脉総論    A弦脉とは(脉状と脉診)  B弦脉の生理  C弦脉の病理と病症 
D脉位と弦脉の臨床考察
<参考資料>滑脉・しょく脉・弦脉の文献

【11】脉状と脉証の臨床的意義
1. 脉状と脉証の意味
2. 七脉状と寒熱論

<参考付録>
【1】<参考-1>伝統を受け継ぐと言うこと(竹山晋一郎)
【2】<資料-2>インターネット上の医学古典文献リンク
【3】<資料-3>鍼灸病証学について(井上雅文)

◆あとがき