私の鍼灸臨床もいつしか45年以上が過ぎた。この世界に入る契機は、故福島弘道先生(元東洋はり医学会会長)にお会いした事にある。
初めてお会いした時に、鍼灸医学の哲学について先生の真意をお尋ねした事がある。先生はその時に「私の求める鍼灸医学は第三医学の構築にある」と言を強くして強調されたものである。そして、臨床の現場は『生命力の強化にあり』と断言された事を思い出す。
生命力の強化、これは素晴らしい言葉である。一言にして鍼灸医学の真意を現している簡にして妙を得ている言葉であると思う。
漢方はり治療の定義を作成する時に、私は強くこの「生命力の強化」を入れる事に固執した。担当の委員も、その真意を良く理解して賛成され、この言葉が定義に入れられたのである。
また、われわれが希求する鍼灸医学を、何故に「漢方はり治療」と命名したのか、経絡治療ではなく・・・・・。
その真意は、真に正しい伝統的鍼灸医学の構築にあったのである。漢方の正しい理論を基礎とした鍼灸医学の構築こそ、漢方はり治療となるのである。そして、臨床の現場では「生命力の強化」がその目的となるのだ。
生命力の強化とは、人間が生まれながら自然に持っている「健康に生き抜く力」の事である。言葉を変えれば「自然治癒力の強化」となる。
私の目指す治療は、この生命力の強化を助ける事になると考えている。鍼灸治療は、病気そのものを攻撃するのではなく、人間が本来持っている生命力を強化する手助けを目的とするのである。それが出来れば、結果として病気は治癒する経過を取る事になるものだ。
生命力を強化するものは正気の正常な働きである。この正気を賦活させる治療こそ「漢方はり治療」であると私は考えている。
令和5年1月1日