基本用語〔10〕 経 穴(けいけつ)

 ツボを表す用語として、兪穴(輸穴ともいう)・経穴・気穴・孔穴などがあります。意味するところがそれぞれ微妙に違っています。その中で一番適当なのが「兪穴」です。「ゆけつ」と読んでいますが、「しゅけつ」と読むのが正しいと思います。

 兪穴のことを、古典では「神気の出入りするところ」、「脈気の発するところ」などと表現していますが、現在の私たちにはつかみどころがありません。分かり易くいえば、兪穴は体表上の異常点、反応点です。

 その特徴の一部を示してみましょう。
廻りに比べてつやのないところ。
廻りに比べて冷たいところ。
廻りに比べて凹んでいるところ。
押すと心地よいところ。
押すと症状が軽くなるところ。
触れると堅いところ。
このほかにも、脈動部も大切な兪穴ですし、青黒く変色している皮ふ表面の静脈も重要な兪穴です。これらの異常点を鍼や灸で刺激し、症状が消えるかどうか、病気が癒えるかどうか、気が遠くなるほどのテストを繰り返し、兪穴の名前や位置を確定したのだと思います。これを医学まで高めた人々には畏敬の念を抱かざるをえません。中国医学の理論をすべて心得ても、最後に治療点でもある兪穴が取れないのではどうしようもありません。それだけ重要なものです。

 兪穴は経穴・奇穴・阿是穴の三種類に分けられます。
経穴(あるいは「正穴」) 経穴とは経脈上の兪穴のことです。古典には「節の交は三百六十五会」とか「気穴は三百六十五」と記され、経脈の月の数に合わせたように(十二経脈)、経穴も一年の日数に合わせて三六五穴が設定されました。しかし、現存最古の経穴書である『甲乙経』には、十二経脈上の経穴は三〇〇穴しかありません。奇経の督脈と任脈の合計四九穴を加えると三四九穴になり、ようやく初期設定の365穴に近くなります。

 だから、経穴をベースにすると経脈の数は十四脈(十四経)になります。現在は三六一穴に増えています。
この経穴の研究は最も進んでいます。三六五穴の特性を整理し、五輸穴・背輸穴・募穴・原穴・絡穴・・穴などに類別しています。このような特性と十二経脈システムを組み合わせて治療することになります。

 奇穴(あるいは「経外奇穴」) 経脈に所属しないで兪穴で、奇効があるので奇穴と呼ばれています。唐代の『千金方』という医書には奇穴が一八七穴が記録されています。位置は定まっています。また、何病にはどこの兪穴と固定していますから、応用性はありません。紐を使って計測したり、竹を跨がせて測ったり、変った兪穴の取り方があります。
阿是穴(あるいは「天応穴」「不定穴」) 痛む箇所を押さえると、心地良かったり痛む所があります。その時患者が「ああ(〓)そこ(是)」という所から、阿是穴といわれます。十二経筋の圧痛点もこれに属します。位置は固定していませんし、どのような病気に有効なのかも決まっていませんから、臨機応変に使い分けます。

 経穴書 経穴学の最初のテキストは『明堂経』(漢代?)といわれていますが、早い次期に散佚しました。これをもとに編纂した『甲乙経』(晋)が現存最古の経穴書とみなされています。

 唐代の『千金方』『外台秘要方』という医書の兪穴部分も、宋代に国家事業で作られた『銅人兪穴針灸図経』という経穴書も、『明堂経』が基礎になっています。これらの書から『明堂経』のおおよその姿をうかがうことができます。兪穴学の発展には欠かせない重要なテキストですが、本格的な研究が遅れています。