お灸について

灸の起源

 灸については文献の上では既に春秋戦国時代に記述があるが、約二十年前に中国湖南省(長沙 市)で漢墓からたくさんの木簡・竹簡と帛書に記された医学書が発掘され、その中に『足臂十一脈灸経』や『陰陽十一脈灸経』と仮に名付けられた医学書がある。これらの医学書に記された主な治療法は灸療法である。『足臂十一脈灸経』の足太陽脈では「足の小指が用いられなくなったり、痔を病んだり、耳が聞こえなくなったりしたときに、この経脈に灸をすえなさい」と指示している。

灸の適応症と禁忌症

 日本では戦前は灸が広く普及していて、どの家庭にも艾がおかれてあり、風邪を引いた、下痢をした、あるいは足腰が痛んだと、気軽に灸をすえていた。とくに足の三里への施灸は「三里に灸をしないものとは一緒に旅をするな」とまで言われ、胃腸の機能を強め、足腰の痛みに効くとして愛用されていた。

 適応症:風邪から始まって、婦人科、小児科、整形外科、眼科、耳鼻科、皮膚科などの広範囲の疾病が適応する。 

 禁忌症:精神異常・伝染病・高熱時・飲酒過度時などは鍼灸禁忌とされている。 

灸の種類と施灸の方法

 灸には艾を直接皮膚上で燃やして瘢痕(灸痕) を残す「有痕灸」と、瘢痕を残さない「無痕灸」とがある。
「有痕灸」には透熱灸・焼灼灸・打膿灸などがあるが、現今主に用い られているのは透熱灸(または点灸、直接灸とも言う)である。皮膚 に直接米粒からゴマ粒くらいの大きさの艾を着けて点火し、症状によ って一〜二壮(回数)から数10壮まですえる。

 「無痕灸」には知熱灸・隔物灸・温灸などがある。知熱灸は適当な大 きさの艾を皮膚上に置いて燃焼させ、熱感を感じたら艾を取り除いて 温感を与える方法である。隔物灸は艾と皮膚の間に生姜やニンニク・ 塩・味噌などを置いて艾を燃焼させる方法である。 

灸の材料

 艾の作り方 灸の材料は主に艾が用いられる。艾は蓬の若葉を陰干ししまたは天日で干し、乾燥したものをしごいて臼でついてふるう。この操作を何回も繰り返し、繊維様になったものを集め、漂白したものがサラシモグサである。古くて手触りがよく、繊維が細くて夾雑物がないものが良い。
一般に用いられている"切艾"は一寸四方ぐらいの紙片に艾を巻き、細く長い円柱状にし、これを10片に切って作ったものである。

 "切艾"には大中小があり、燃焼温度に違いがある。大切は摂氏130度、中切は100度、小切は60度ぐらいになる。 

鍼灸のこれからの役割

 最近、鍼灸が世界的に注目を集めているが、その発端となったのが「針刺麻酔」である。                  

 これは麻酔薬や麻酔医が不足していた中国で、鍼灸に鎮痛効果があることに注目して、新たに開発された鍼灸の利用方法であった。ところがこれは、さまざまな壁にぶつかっていた現代医学にとって、全くその理解を超えた性質の医学を予想させるものであり、以来20数年、「針刺麻酔」を通じてさまざまな研究がされてきた。脳内で生成される新たな鎮痛物質の発見、鍼刺とホルモンとの関係、鍼刺と免疫機能との関係など、「針刺麻酔」をきっかけに優れた研究が発展している。この傾向は今後さらに発展して、世界の医学・医療に大きな影響を与えるものと見られている。