基本用語〔7〕 精 神(せいしん) |
精神は「精」と「神」が熟した言葉である。精の原義は精白された米であり、拡張されて清浄なもの(こと)、雑じり気のないもの(こと)、最もよいもの(こと)という引伸義となった。 人体に関する主要な引伸義としては @生命活動を営む物質、その中でもとりわけ霊妙なものとしてA霊魂、B心の働きを持つもの、C生命の根元物質。Cの一具体例としてD男の精液と女の卵子、を意味する。神の原義は雷神で、そこから天神・地祇など霊妙な働きを持つもの、あるいは霊妙な働きそのものという引伸義となった。 人体に関する主要な引伸義は @霊魂、A心の働き、B生命力、C生命現象を主宰するもの、D外面的に現れた具体的な生命活動、である。つまり精と神は人体にとって最も重要な物質あるいは働きを意味する言葉である。 精と神が熟した言葉としての精神は@霊魂、A心の働き(を持つもの)を意味するが、@Aともに根源的生命力を含意する。以上から解るように、精・神・精神は共通の意味を持つ。従って単独の精あるいは神がしばしば精神という言葉の代用をする。 また、精と神の実体は気と考えられたので、精は精気、神は神気と呼ばれることがあるが、『素問』湯液醪醴論の「精神が衰退し、志意が調わないと病は治らない。現状を診ると精は壊れ、神は無くなり、営衛は収めることができない。そうなった訳は、欲望が際限なく、苦悩もきりがないので、精気は壊れ、営衛は渋滞し、そこで神が無くなったのだ。その結果、病も治らない」は、精神に関する注目点をいくつか示す。 『霊枢』本神の「肝は血を蔵し、血は魂を宿す。脾は営を蔵し、営は意を宿す。心は脈を蔵し、脈は神を宿す。肺は気を蔵し、気は魄を宿す。腎は精を蔵し、精は志を宿す」は、精神を分析的に捉えた例である。精神は魂・魄・神・意・志に分けることができ、その概略は魂・魄が生命現象に直結する心の働き、神が自然的・生理的な心の働きで、志・意が意識的・意図的な心の働きである。魂・魄・神・意・志は肉体の構成要素である気・血・精・営・脈にやどり、その気・血・精・営・脈は五臓に蔵される。 この二重構造を簡略化して「五臓とは精神血気魂魄を蔵するものだ」とも言う。気・血・精・営・脈は全身を循環するので、精神もそれにつれて全身を巡るという考え方も可能となる。 心は身体の君主であり、精神は心の宝である。精神が正しい状態で体内に存在するとき、身体は健康である。精神の状態に影響を与える原因は、前述した過度の欲望や感情の他に、体内の陰陽がバランスを崩すこと、五臓が動揺し気血が乱れること、味覚に対する過度の刺激などであり、精神を正しい状態に保つためには、これらの原因の発生の防止、発生後の除去が必要である。 |