胃潰瘍の臨床

この症例は悪性のものではなく比較的軽症な臨床報告です。

症例1

患者:34歳 男性 事務職
初診:平成9年8月25日 
主訴:ゲップが出なくて心下部が張ってきて苦しい。座っているのも辛く、仕事に集中できない。 

望・聞診:痩せていて長身、色白である。 
問診:半年前くらいから心下部が張ってきて苦しくなり横になっていると少しだけ楽であり、食後1・2時間ほど経つと辛くなりゲップが出そうで出ない。これで出てくればどんなに楽になれるのにと思う。ちょっとしたものを食べるだけで一時的ではあるが楽になる。食欲は旺盛で、食べ過ぎると後が辛いので少しずつこまめに取るようにしている。一ケ月前より背中が重苦しく感じるようになった。時々ではあるが後頸部が重く、ひどいときは吐き気もあり食事が摂れない。便通は良く特に排便後は心下部が軽くなる。子供の頃から胃酸過多症の傾向はあったという。
最近になって急に痩せてきたので医者に行き検査を受けたところ、かなり大きな潰瘍が出来ていると言われ薬と鍼治療を希望し受診した。 

切経:上・下肢や背腰部の筋に張りが診られない。足先が冷たく上気が診られる。後頸部にやや硬さが診られ風池穴周辺に硬結が診られる。 
腹診:艶がなく船底型で臍から巨關・横の期門穴周辺に硬さがあり按圧すると重く不快感を訴える。小腹はさほど力がない。 
脉診:菽法の位置は下で左右関上が硬く沈んでいて渋りが触れる、寸口は硬く沈み尺中も硬く触れる。沈数虚。 

病症・病理:消化吸収が悪く痩せており食欲旺盛でありながら満腹感を自覚することなどから脾胃に問題があり、特に胃の虚熱によるものと判断する。
証決定:胃経虚証

治療:選穴として土穴を選穴したところ最も脉状も柔らかくゆったりし呼吸も深くなるので、左三里に一号鍼で十分に補い検脉すると大分ゆったりとしたが左関上の脉状はやや硬さが触れる。そこで右胆経の陽陵泉を補ってみた。検脉するとよりゆったりした脉状に変わり患者も呼吸がしやすく深くなったという。次に兪穴である胃兪に補法を行うとゲップも出て心下部も楽になるという。また風池周辺で最も著名な点に処理し、この日の治療を終える。

週3回のペースで治療を行い3週間を越えた頃に検査を受けたところ、潰瘍はしっかり閉じていると言われたという。これからは鍼治療だけでお願いしたと言い、治療はほぼ同様に行い心下部の苦しさが取れた9月末頃より証は脾虚に変化することが多くなってきた。
食欲旺盛に変化はみられないが少し太ってきており心下部の不快感もほとんど感じることがないと言う。
現在は週に2回程度で行っている。

症例2

患者:37歳 男性 マッサージ師 
初診:平成9年10月15日 
主訴:1年前に胃潰瘍で薬を服用し医者には治ったと言われるが、未だに胃が重苦しくゲップが出なくて辛い。 

望・聞診:長身で骨太で全体的にはややブヨブヨした感じである。 
問診:未だに薬に頼っており早く止めたいが不安で止められない。食欲はなく、義務的に食事を摂る状態である。食後しばらくすると胃が何となく重くなってきて背中が時々張って重苦しく感じる。肩や腰が重い時もある。 

切経:背腰部の筋に張りがみられない。足に少し浮腫がみられる。足先が少し冷たい。少し上気している。 
腹診:皮膚に張り艶があまりみられない。大腹がやや堅い。 
脉診:沈数虚で菽法の位置は下である。脾がより堅く渋っている。 

病症・病理:脾胃の働きが悪く、全体的に筋に張りもなければ水回りもあまりよくなくブヨブヨしてしまう。これらは冷えと湿邪により影響を受けたものとみる 
証決定:脾虚証

治療:選穴として土穴が一番ゆったりした脉状になるので、右太白を一号鍼で十分に補い検脉すると右関上がまだ堅く指に突いてくるので、右胃経の三里に一号鍼で補い検脉するとゆったりした脉状になった。次に兪穴に最もハッキリした反応点を補ってこの日の治療を終える。

2回目の受診の時に、前回の治療後時間が経つにつれて胃が軽くなりゲップもよく出来るようになったとの報告があった。食欲も出て食べ過ぎないように注意したという。
週2回の治療で行い、現在週1回で行っており証は脾虚証で陽経まで処理しないときもある。初診時から比べると半分くらいは締まりのある体つきになってきている。