Tigers について


 私は大阪生まれの大阪育ちです。関西人ですから、「野球はやっぱり阪神なんでしょ?」とよく訊かれたのですが、「ええ、まあ、気にはなるんですけど2番目です。」と答えていました。「2番目って?」と訊かれて「南海ホークスなんです。」と答えてしまうと相手の方は黙ってしまいます。話題が変わります。

 関西で発行される主なスポーツ新聞は報知新聞(現、スポーツ報知)を除いて全て阪神タイガースの話題が一面を飾ります。関東地区でデイリースポーツのみ阪神タイガースの話題を一面に持ってくるケースの全く逆です。ちなみに中日スポーツ、東京中日スポーツのように中日ドラゴンズやモータースポーツが一面に来る新聞は関西では売っていません。
 阪神が前日の試合で負けても、試合中に阪神の選手が好投したり、ホームランでも打てば、それが一面になるくらいでした。勝っても負けてもいつでも阪神タイガースがトップで、当時は南海ホークス、阪急ブレーブス、近鉄バファローズと阪神間にはあと三球団もあり、キャラクターや実力はその三球団の方が上回っているのに扱いが巨人や西武より後ろの方でした。
その不憫さや判官贔屓もあったのか、あまり阪神に対して関心を持てないでいました。
野村解任事件と江川事件が近い時期にありましたが、江川事件はたいして気にならなかったのです。
 情報量に格段の差があるだけに、南海ホークスの話題で盛り上がることは地元大阪であっても無かったのです。

 学生時代、友人とともに阪神甲子園球場に足を運ぶようになりました。やはり、なんだかんだ言っても、百聞は一見に如かず、現場を見なければ何も論調できない、と「阪神vs巨人」を観に行ったのです。
朝から当日券売場前に並んで、地べたでほか弁を食べて、午後2時過ぎの開門の放送があるころには周辺には人がいっぱいでしたが、いよいよ気合が入ってきます。
当日券で内野側に並んでいたので、三塁側アルプススタンド(高校野球で応援団が陣取るネズミ色の所)になったのですが、まだ日が高いのに続々とスタンドが埋まっていきます。
グラウンドではホームチーム、阪神タイガースの打撃練習中です。開門が早いとホーム側の打撃練習が観られるのです。三塁側アルプススタンドは「切れる打球」が突き刺さるところなので、ファウルには気を付けなければなりません。
 夕暮れが迫ってくると外野席はほぼ一杯です。応援団は旗や横断幕を広げたりトランペットの調整をしています。照明にも灯が入り、外野の芝が明るくなります。三塁側アルプススタンドからグラウンドを眺め直すと、「なぁんや、大阪球場と変わらんやん。」と思ったのでした。
 外野やファウルゾーンは甲子園球場の方が圧倒的に広いのですが、当時は讀賣巨人軍のホームグラウンドである後楽園球場がセントラルリーグのスタンダードでしたから、そのサイズに合わせるため「ラッキーゾーン」が設置されていました。
それに、いくら広いと言ってもダイヤモンドが広いとか塁間が長いという訳ではないので、選手が動き回る広さとしてはそう変わらないのです。スタンドが人で埋まると一層広く大きく見えたのでした。

 ちなみに、ラッキーゾーンには控え投手のためのブルペンが設置されていました。投手が二人並んで投げられるほどの広さがあったのです。なお、高校野球では内野スタンドのふもと、ダッグアウト横のブルペンを使いました。本来のフェンスからどのくらいグラウンド内側にフェンスが設置されていたか、逆に後楽園球場のグラウンドがいかに狭かったか想像できるでしょう。フェンスは金網で、当時の佐野外野手が激突して大けがを負ったことがあります。金網で大けがといえば2001年のシーズン、西武ライオンズの平尾選手が激突して大けがを負いました。ラッキーゾーンの金網にちなんだ出来事といえば、阪急ブレーブスの山森外野手がかつて西宮球場にもあったフェンスによじ登ってホームラン性の打球を捕ったシーンが米国でも話題になりました。イチロー選手の”レーザービーム”もありましたが、ブレーブス〜ブルーウエーブにはすごい外野手が揃っているという伝統があるようです。

 さて、三塁側アルプススタンドはライトスタンドがほぼ真向かいになります。阪神タイガースの攻撃時、メガホンや応援バットがうち振られると、稲穂が風になびくように真っ黄色が波打ちますが、それをほぼ真っ正面に見ることになります。腹に響く大音響も正面に聞くことにもなるのでなかなか大迫力です。

 関東に移ってくると、やはり阪神が気になります。そこで神宮球場や横浜スタジアムに足を運ぶようになりました。神宮球場に初めて行ったとき、グラウンドの狭さにびっくりしました。もちろん、ダイヤモンドは小さいとか、塁間が短いというわけではありませんが、まずファウルゾーンが小さいのです。甲子園球場はアメリカンフットボールの一大イベント”甲子園ボウル”でグラウンドが使われますが、レフトからライトにコートを作ります。アメリカンフットボールで使われる東京ドームや横浜スタジアムはセンターからホームにコートを作ります。それだけでも甲子園球場は横方向に広いのです。
 それから、外野もフェンスが低く広告がないので広く見えていたのですが、外野手が定位置と思われる場所についたとき、「甲子園なら芝生の真ん中辺りなのにどうしてフェンスに近いの?」と目の錯覚で広く見えていることに気付きました。


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