1993ア−ト・スペ−ス天文館(藤沢市片瀬海岸)寺山修司没後10年祭


われわれは、オンライン・パソコン通信によって誕生した、独自の
ボーダレス・ガイストである。
内面と外面の壁たる感触の皮膚は溶解し、もうひとつの世界を記述
する、メタ・ガイストである。日常の言語は01の組織数字によっ
て構成されたデジタル回路を得て、さらにその電子信号は手と指に
よる神経からある言語を表示する。さらにこのデジタル言語は電子
信号によって、オンライン回線を疾走する。
地球を回る朽ち果てた幽霊船その人工衛星は、ボーダレス・ガイスト
として、われわれのガイストに送信してきた。
   オンライン・パソコン通信こそ寺山修司の世界を帰結させた。
   宇宙空間の幽霊船たる残骸の人工衛星に、亡霊たちは乗船して
   いる。その他者のまなざしたる電子信号を感受する申し子たち。
現代地球とは幽霊船に閉じこめられた惑星かもしれない。その自転。
8月の53年サルトルから9月の68年寺山修司へと磁場は自転する。
   68年の想像力が世界を肉体化するとき、場所は連動する。
   やがて70年代の悪魔のごとき執念が復活する10月への道。
亡霊たちが乗船する幽霊船のボーダレス・ガイストに閉じこめられた
地球。21世紀の扉をおしひらく申し子たち。寺山修司の時間だ。

私の好きだった江ノ島への橋のたもとに建つサマリヤビル4階のアンダーグランド
アートスペース天文館が「寺山修司没後10年祭」をもって、閉館することになり
ました。私は天文館で公演されてきた演劇の実験を、このオンラインの場所で書き
込み記録させていただきましたが、閉館の事態は悲しく残念でなりません。
同時になんの力にもなれなかった自分の非力さに、すまない想いです。
「表現を産み誕生させる苦しみ方」にこそ、キーワードをもつ、長渕基江さんの、
これまでの格闘の歴史に敬意を表するとともに、今後の格闘を期待します。

天文館の閉鎖という事態は、いかに表現の提示の場所が、行政の援助もなしに存続
させることができるのか? という問題を投げかけたと同時に、文化都市という言
葉がいまだ行政用語であり、広い意味での芸術表現とは提出できる場所を確保しな
い限り、消滅してしまうという危機意識が、私はまだ希薄であるという内省でした。
「表現とは場所をきりひらく」と言う、平田オリザさんの言葉を思い出します。

天文館の開設は長渕基江さんが、それまで勤めていた湘南の高校をやめて、その退
職金などを基金としながら、あらかじめもたざるものに何ができるか? という実
験的な場所の建設としてあったと思います。閉館というこの事態は神奈川そして、
湘南という地域の表現者たちの限界をも突きつけたように思います。太田省吾氏は
東京の表現者たちに比較して、この場所の表現者たちは孤独であると批判しました。

その孤独とはやはり帝都東京の文化一極集中に対抗できる長期戦略の不在であるの
かもしれません。帝都東京の通勤圏でもあり文化消費圏でもある神奈川は、やはり
あるマイナーな地域主義があるのかもしれません。なにか帝都東京に対しては居住
を誇ってしまうという。この居住性に安住している分断の構図こそ、この場所の孤
独であるのかもしれません。

神奈川という場所は、60年代・70年代・80年代を通し、さまざまな社会運動
のエネルギーの場所でした。それは多様な市民運動もそうでした。それが衰退した
今日、形式としての居住地のみの構図が表出しているのでしょう。その分断された
孤独の転向の安住として。私も転向者の孤独のひとりです。
しかしその「ゆらぎ」と「孤独」はまた、帝都の表現に先行できるなにものかを生
み出すことができるのでしょう。

天文館が湘南地域の表現の拠点として、映像・音楽・演劇の表現者群像を誕生させ、
育てた場所であったことは、天文館文化史でもありました。私は遅れてきた人間と
して昨年から天文館に、観劇行為として通いました。
湘南を拠点する劇団PECT第5回公演を、これまた存続問題でゆらいできたが、
 存続を願う表現者たちの運動によって、存続が決定した横浜駅西口の相鉄本多劇場
 で、「奇蹟のような恋」を観劇してきました。8月27日の初日。

PECTの演劇は昨年より、その空間は街角の物語へと広がりを獲得した、とても
観客を楽しませてくれた芝居でした。演劇の暗転とは「記号の出現しない他の言語
を記述する」[メタ言語−パソコン用語辞典・技術評論社] こうした集団的想像力
の言語を記述します。暗転とは集団的想像力のメタ演劇の一瞬であろうと思います。
PECTの「奇跡のような恋」の暗転に、ゆっくりと何頭もの象が横切ったような
錯覚を私は覚えました。それはPECTが「象つかいの想像力」というおのれたち
の原点を刻印したかのようです。

スピードある笑いとペーソス、全体としてのヒューマンそれらを感受しながら、や
はりPECTは情報演劇・コスチューム演劇であると思いました。その舞台空間を
主体としての役者は疾走するのです。街角のアパートの住人の物語の結語、「自分
の人生に恋することが奇跡を産む」。また中島浩が演じたコメデアンは仕事に失敗
して、街角のアパートから去るのですが、そのとき少年に向かって「おれを、かわ
いそうだと思わないでくれ」とのセリフは、胸が打たれました。

「奇蹟のような恋」とは、自分の人生を愛することであり、うらやましい、かわい
そう、などと言う、ナルシズムの毒牙からは、離脱しています。「奇蹟のような恋」
とは、他者の人生を愛することができる力でもあろう、そう私は解読しました。
コーランの言葉「この地球こそが奇蹟である」を連想すれば、人間の誕生その人生
こそは奇跡のような恋であり、恋こそはボーダレス・ガイストとして超越する能力
を場所に発揮させるパワフルな能力なのでしょう。

サルトルのまなざしによれば人間とは「私有」から「他有」へ移動するボーダレス・
ガイストであり、オンライン・パソコン通信はこの私有から他有へ移動する双方向
の領域を切り開いていくのかもしれません。サルトルと寺山修司はオンラインの場所
こそ、そこでのボーダレス・ガイストこそ予感していたのでしょう。

さて、下降に、天文館で開催されるファイナル・イベント「寺山修司没後10年祭」
を、紹介します。

1993,8,31 塚原勝美


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         ―― 天文館●寺山修司没後10年祭 ――
●1993            SHUJI TERAYAMA ●

                          アート・スペース天文館
               神奈川県藤沢市片瀬海岸 1-12-17 サマリヤビル 4F
TEL 0466-28-0510
小田急江ノ島線・片瀬江ノ島駅・駅前より徒歩3分
江ノ電・江ノ島駅・徒歩5分
大船-江ノ島モノレール・江ノ島駅・徒歩5分

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  ご心配をおかけしました天文館の存続問題、見通しがたたないまま何ヵ月かが
  過ぎ、いよいよこの9月をもって閉館することになりました。89年以来4年
  半の短い間でしたが 、応援・ご協力をいただき、ありがとうございました。
  
  出発当初より ”持たざるものに何ができるか” といった類の危うい運営で
  したから、考えようによってはこんなに長く続けることができたのは、奇跡の
  ようにも思えます。場所がなくなったからといって、音楽や演劇やそのほかの
  活動がなくなるわけではありません。

  人と人とのつながりが消えるわけでもありません。場所を維持するのは難しい
  けれど、”こういうところがあったからよかった” というような問題提起く
  らいになったらいいかな、と思っています。ここで生まれたものや触れあった
  ものが、もっと大きな世界の中で、大きく広がっていってくれることを祈って
  います。

  何事も未来を含んでいるのだから性急に総括などしないで、天文館自体も、終
  わるのではなくて一区切りつけただけ、これから人間と同じように”町へ出”
  ていくのだというように考えたいと思います。

           天文館通信NO.40 長渕基江

                       [転載責任・塚原勝美]
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            SHUJI TERAYAMA
     ―― 天文館★寺山修司没後10年祭スケジュール ――
                        [その1]
●月光舎特別公演「書を捨てよ、町へ出よう」
        9月2日(木)  開演 午後7時30分 
        9月3日(金)  開演 午後7時30分
        9月4日(土)  開演 午後3時  午後7時 
        9月5日(日)  開演 午後3時  午後7時
  開演1時間半前より整理券発行、開演15分前に開場。

 作・寺山修司 脚色・演出・美術・小松杏里 作曲・千野秀一

 照明・したんけんじろう 音響・松本昭 美術協力・神保靖之 
 宣伝美術・谷村彰彦 協力・人力飛行機舎 

 出演者 岡本將臣 とりいちえ 根立登紀子 箕島裕美子 小田秀美 立石 徹
 内山真紀 中原智仁 米沢 享 城間 岳  渡辺あゆみ 天野みづえ
 大島恵子 社本 薫 二階朋子 原口知美  吉見雅 YASUKA MINT
 山本艶  松本りか 鄭 治子

 ● 舞台は、百年前にそこで「書を捨てよ、町へ出よう」が上演されたという朽ち
 た劇場。ある夜、ひとりの老女がそこを訪れる。老女は、かつての「書を捨てよ、
 町へ出よう」の出演者のひとりだった。その老女の願いによって、そこで一夜だけ
 の「書を捨てよ、町へ出よう」の舞台が上演されることになる。やがて、出演者、
 そして観客たちが集まってくる。だが、彼らは一体、何者なのか? そして舞台の
 幕が開く・・・・
 ● ジダイヲコエ イマ ヨミガエル デンセツノブタイノ ネッキョウトカンドウ
                        [印刷ビラから転載]
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「天文館・寺山修司没後10年祭」は演劇・舞踏・音楽・シンポジウムによる
一か月にわたる巨大なファイルのスケジュールですので、また後日に紹介した
いと思います。
1993,8,31 katsumi
     

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  今日、9月2日、「書を捨て、町へ出よう」の初日を観劇してきました。
  劇場その演劇の時間とは、役者たちの念力によって、この空間に、もうひとつ
  の世界を立ち上げるのだろうと思いました。
  私は68年、15歳でしたが、その当時のコスチュームと雰囲気がでてて、
  とても、なつかしいとともに、千野秀一さんの音楽が近未来的で、とても
  楽しめました。


                                    1993,9,3  塚原勝美