上棟式(たてまえ)の記録






水と緑の街に木遣唄




 夏空に、紅白の祝いもちがいくつも幾つも宙に舞い、お父さん、お母さんに連れられた子供達の歓声がこの静かな住宅都市の一角を満たしていった。狛江市指定文化財の荒井家住宅主屋上棟式(たてまえ)は、平成13年7月15日、日曜日の午後、古民家復元ワークショップの主催でおこなわれた。この江戸時代の貴重な古民家を復元するだけではなく、復元過程でのいろいろな伝統行事を、当時のものに再現し、市民がこの文化財を身近なもとして共有するようにとの努力が続けられている。

 酷暑にもかかわらず、来場者は、市長をはじめとする関係者を含めた、市民で350人以上に達した。北多摩睦消防組第二区五番組の木遣唄に始まり、全員参加の曳綱で、白布が巻かれた棟木が、巨大な破魔矢が鬼門に対処した、屋根のてっぺんに引き上げられた。槌打ちに続き、2メートル以上はあるであろう幣串が取り付けられた。建物の四方を酒、米、塩で清め、四方もちが落とされ、鏡開きの後に、子供達の待ちにまった紅白の祝いもちが約1000組、歓声のなかに撒かれたのであった。

 現代では珍しい、この古式にのっとった上棟式は、棟梁送りで幕を閉じたが、来場者は、目の当たりに進められている狛江市の文化財復元に心を満たされて家路についたのであった。これからも続く市民参加型の古民家復元の各行事は、家庭の話題としても、体験学習としても、子供達の夢と心をさらに豊かに育てるものとなるであろう。         




                (古民家復元ワークショップ 織川






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上棟式(たてまえ)のおはなし

 昔から家を建てることには大変な努力をしました。屋敷林で育った木を切り、何年も乾燥させ、鋸で引いて柱や板を作り、屋根に葺く茅や麦藁も何年もかかって蓄えておきました。それでも足りない材料は、親戚や知り合いの人たちが持ち寄って、お互いに助けあって作ったのです。
 このように苦労して家を作ったので、その家が地震で倒れたり、台風で倒れたり、火事で燃えないことを願って、さまざまな祈願をしたのです。最初に土地の神様を鎮めるために「地鎮祭」を行い、次に、家の骨格が出来上がると「上棟式」をして大工さんの労をねぎらったのです。
 今回行われる上棟式(たてまえ)は、昔行われていたやり方を再現して、昔の人たちの苦労を思い起こし、この文化遺産を大切に守ってほしいと願い、市民の方々のご協力を得て行われます。

曳綱(ひきづな) 屋根のてっぺんは棟木で支えられています。その棟木をあげて初め て家の形が出来上がります。集まった人がみんなで力を合わせて綱で曳きあげます。
 槌打ち(つちうち) 上に据えられた棟木を固定するために、小槌で叩いてとめます。
 幣串取付け(へいぐしとりつけ) 幣串には柱と同じ太さのものが使われます。家を 支える柱が丈夫で、長持ちするように、その上部にお祝いの扇と5色の布を下げ、女性の7つ道具、鏡と櫛、お化粧の白粉、紅、髪を結うためのかもじ、こうがい、縫い物に使う針を入れた袋を取付けます。なぜこのようなものを付けたのか、各地におもしろい伝承が伝わっていますが、家を支える女性の労をねぎらうためのものであったのでしょう。
 破魔矢取付け(はまやとりつけ) 弓を家の表鬼門と裏鬼門の方向に向け、それぞれ天と地の方向に矢を向けます。これは家の邪気をはらい、魔除けのために取付けられます。
 四方清め(しほうきよめ) 家を建てる施主と棟梁、鳶頭の3人で、建物の四方に塩、米、お酒をまいて清めます。
 四方餅(しほうもち) 建物の四方に供えられていた餅を、施主が大工や鳶などの職人に感謝をこめて下に落として渡します。
 鏡開き(かがみびらき) 屋根にお供えしてあった酒樽を開けて、施主と棟梁、鳶職とで乾杯をして、労をねぎらいます。
 もちまき 上棟式が無事に終わったことを祝い、集まってくれた近所の人たちにも福を分かちあうために、もちまきが行われます。昔は餅と一緒に小銭もまかれたので、上棟式は子どもたちにとっても大きな楽しみでした。
棟梁送り(とうりょうおくり) 最後に幣串を棟から下におろして、それを先頭に捧げ持って、施主と棟梁、鳶職たちは列をつくって棟梁の家まで送り、手締めをして棟梁送りは終わりました。

                                      (古民家復元ワークショップ 稲葉