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トスカニーニの録音(1952年)


○1952年1月3日ライヴ−1

ウェーバー:歌劇「魔弾の射手」序曲

NBC交響楽団
(ニューヨーク、カーネギー・ホール)

純音楽的表現というか、ドイツ的なロマンティックな表現に意識的に背を向けたようなところが感じられる演奏です。ダイナミックな起伏にとんだ演奏なのですが、オペラティックな感興を呼び起こすというよりは交響詩でも聴いているような感じに襲われました。


○1952年1月3日ライヴー2

ワーグナー:楽劇「ワルキューレ」〜ワルキューレの騎行

NBC交響楽団
(ニューヨーク、カーネギー・ホール)

テンポを速めにとって・ダイナミックな力感のある表現です。旋律の歌い方がストレートで簡潔で、コンサート・ピースとして割り切った表現ですが、オーケストラの合奏能力が十分に発揮されています。響きがデッドなのでワーグナーにしては乾いた感じがしますが、これがトスカニーニのワーグナーなのでしょう。


○1952年1月3日ライヴー3

ワーグナー:楽劇「神々の黄昏」〜ジークフリートの死と葬送行進曲

NBC交響楽団
(ニューヨーク、カーネギー・ホール)

ジークフリートの死から演奏されているので、感銘はより深くなっています。心持ち早めのテンポを取っていますが、引き締まった力強い表現が素晴らしいと思います。。クライマックスの金管はジークフリートの動機をたっぷりと引き伸ばしていて・スケールが実に大きく、盛り上げが見事であると感じられます。ドイツ風の重厚な表現とは性格は異なりますが、素晴らしい演奏だと思います。


○1952年1月7日ライブ

ワーグナー:楽劇「トリスタンとイゾルデ」〜前奏曲と愛の死

NBC交響楽団
(ニューヨーク、カーネギー・ホール)

早めのテンポを取って・粘りの少ない・透明感の高い演奏だと思います。リズムを正確にとって・旋律線をはっきりと描いており、フォルムがきっちりと決まっています。NBC響の弦の力強いうねりが・まったく濁らずその透明感を維持しながら・クライマックスに向かって昇華していきます。この透明感のあるワーグナーは、ヴィーラント・ワーグナーが夢見たようなラテン的感性で照らし出した新しいスタイルのワーグナーなのです。


○1952年1月14日ライヴ

ベートーヴェン:交響曲第6番「田園」

NBC交響楽団
(ニューヨーク、カーネギー・ホール)

37年のBBC響との「田園」は描写音楽というよりは純器楽的に捉えた演奏でしたが、それに比べるとこの「田園」は基本的な解釈ではそれほど変わっていませんが、まろやかさが増したというか・落ち着きと描写性が増してそれだけ万人に受け入れられやすいものになっていると思います。特に両端楽章は出来はテンポ設定も適切で素晴らしく、ベートーヴェンの自然への喜びと感謝を素直に表しています。嵐の場面でのNBC響の迫力ある動きは言うまでもありません。全体としてトスカニーニの「田園」として完成された解釈ですが、第2楽章のテンポが若干早過ぎで、もう少しゆっくりしたテンポならバランスが良いように思われました。しかし、表現は細やかで・自然で無理のない演奏であると思います。


○1952年2月4日ライヴ

ブラームス:ハイドンの主題による変奏曲

NBC交響楽団
(ニューヨーク、カーネギー・ホール)

早めのテンポで演奏され・音楽に勢いがあって、旋律の変化がパノラマのように軽快に展開して・実に面白く感じられます。音楽がシャープに引き締まって、縦の線がしっかりとして・構成が決まっています。NBC響の名技が楽しめます。


○1952年2月11日ライヴ

ブラームス:交響曲第2番

NBC交響楽団
(ニューヨーク、カーネギー・ホール)

早いテンポで一気に描き切った活力みなぎる演奏です。しかも早いテンポであるにもかかわらず、十分に旋律を歌い込んで、まったく自由自在の演奏のように感じられます。 ドイツ的な重厚さは、イタリア的な明晰さに置き換わっていますが、まったく違和感はなく、むしろ形式のなかにロマン的感情を盛り込むブラームスの音楽の特質が、フォルムを厳格に守るトスカニーニのもとで見事に開花した感じです。特に素晴らしいのは両端楽章でしょう。 第4楽章はオケの機能性が凝縮された躍動感が、実に見事です。特にNBC響の鋼鉄のように強い弦が素晴らしい第3楽章も伸びやかな表現です。しかし、第2楽章はテンポをやや早く 取り過ぎで、旋律の歌い込みに若干の硬さが感じられるのがちょっと残念です。


○1952年3月10日ライヴ-1

ケルビー二:交響曲ニ長調

NBC交響楽団
(ニューヨーク、カーネギー・ホール)

曲が平面的で構造的に難があるように思われます。トスカニーニは引き締まった演奏を心掛けていると思いますが、いかんせん曲が曲のせいか・全体像がよく見えず・冗長に感じられるのは否めません。


○1952年3月10日ライヴー2

R.シュトラウス:交響詩「死と変容」

NBC交響楽団
(ニューヨーク、カーネギー・ホール)

テンポはやや速めで造形はかっきり引き締まって、良い出来だと思います。死の主題は厳しい表情でリズムを叩きつけるように演奏されます。トスカニー二らしい余計な思い入れを入れない行き方ですが、ヴァイオリン・ソロはとても情感豊かで歌い、その対照がよく利いています。このヴァイオリン・ソロを生かすためにトスカニーニはオケの甘味を意識的に抑えているのではないかとも思うほどです。オケの響に世紀末的感触があって、R.シュトラウスとトスカニーニとの同時代性を強く感じます。


○1952年3月22日ライヴ

ベートーヴェン:交響曲第5番「運命」

NBC交響楽団
(ニューヨーク、カーネギー・ホール)

ベートーヴェンの「運命」の出来は冒頭で決まると思っていますが、この演奏は冒頭からテンポといい音色といい、申し分なく素晴らしい出来栄えです。最後まで緊張感が持続して合奏能力も卓越しています。トスカニーニの「運命」は即物的との世評もあるようですが、ここでのNBC響の響きは力強いなかにも・艶としなやかさを持ち、そんな偏見を微塵も感じさせません。時代を超えて普遍的な表現にまで到達している偉大な演奏だと思います。全曲を早めのテンポで通していますが、特に第1楽章はその劇的構造がはっきりと見据えられた演奏であると思います。楽譜の音符を音化するだけですべてが言い表せているような感じなのです。この緊張感ある見事な第1楽章であってこそ、第2楽章が聴き手に安らぎを与えるという感じです。第3楽章も歯切れのよいリズムで進められますが、そのなかで運命の動機が回想されるときの迫力はショッキングなほどです。第4楽手ではNBC響の機動力が全開であり、リズムが力強い推進力を持ち輝かしい勝利を歌い上げています。


○1952年3月31日、4月1日ライヴ

ベートーヴェン:交響曲第9番「合唱」

アイリーン・ファレル(ソプラノ)
ナン・メリマン(アルト)
ジャン・ピアース(テノール)
ノーマン・スコット(バス)
ロバート・ショウ合唱団
NBC交響楽団
(ニューヨーク、カーネギー・ホール)

全曲通して緊張感に満ち溢れ、また各楽章のバランスが良くて・テンポ設定が決まっています。早めのテンポでリズムを明確にとった前半2楽章が素晴らしいのは予想通りです。第1楽章は推進力があって、曖昧なところがまったくない・明晰な表現です。旋律が実に力強く歌われます。第2楽章もリズムを主体にしたオケのダイナミックな動きが素晴らしいと思います。しかし、感心させられたのは第3楽章です。リズムを明確にとった前半に比して・旋律の流れと響きを大切にしているように感じられます。これが全曲の転換点としてよく効いています。第4楽章も声楽導入までの劇的盛り上げのうまさに感心させられます。コーダでは誰もがテンポを早めて聴き手を煽り立てるところですが、ここでは逆に手綱を引き締めてじっくり攻めるのがさすがと言うべきか・なかなか出来ない技ではないでしょうか。声楽の扱いも見事です。


○1952年7月29日ライヴ−1

トーマ:歌劇「ミニヨン」序曲

NBC交響楽団
(ニューヨーク、カーネギー・ホール)

スッキリと締まった表現ながら・旋律は十分に歌いこまれており、後半のポロネーズのリズムでダイナミックに締めます。まったく余分なところのない・簡潔なコンサート・スタイルの表現ですが、密度の高い演奏だと思います。


○1952年7月29日ライヴー2

ワーグナー:ジークフリート牧歌

NBC交響楽団
(ニューヨーク、カーネギー・ホール)

トスカニーニらしくテンポは速めで、旋律に余分なイメージを与えず・簡潔にまとめています。いわゆるロマンティックな情感には乏しく・若干乾いてストイックな感じはしますが、旋律線が大事にされているので、楽器のからみが面白く感じられます。 全体の構造がスッキリと見渡され、古典的な趣きさえ感じさせます。中間部からの盛り上がりではNBC響の弦の力強さが生きています。


○1952年7月29日ライヴー3

ポンキエルリ:歌劇「ジョコンダ」〜時の踊り

NBC交響楽団
(ニューヨーク、カーネギー・ホール)

雰囲気豊かに聞かせようなどいう素振りはまったくなくて、みしろストイックなほど純器楽的に聞かせようとしているのですが、それでいて旋律のすみずみまではニュアンス豊かでむずみずしいのです。 弾けるようなリズム、色彩感あふれる息の長い旋律の歌い廻し、密度が高く・引き締まった造型なのですが、それでいて随所に歌心があります。トスカニーニの至芸だと思います。


○1952年8月5日ライヴ

エロール:歌劇「ザンパ」序曲

NBC交響楽団
(ニューヨーク、カーネギー・ホール)

現在ではあまり演奏されることのない曲ですが、トスカニーニだと実に面白く聴かせてくれます。特にリズム処理が素晴らしいのです。トスカニーニは一見無愛想なくらい楽譜に忠実なのですが、実は聴かせどころのツボを十分に心得ていて、ここそというところでリズムに変化をつけているのです。それが憎いほどにさりげなくて効果的です。


○1952年8月5日ライヴー2

フンパーディンク:歌劇「ヘンゼルとグレーテル」前奏曲

NBC交響楽団
(ニューヨーク、カーネギー・ホール)

ワーグナーの影響を受けた・この愛すべきメルヒェン・オペラをトスカニーニは非常に好んだということです。この演奏においてもトスカニーニが曲に真正面に取り組む姿勢が実に面白い。中間部以降のリズム処理と旋律の歌いまわしは見事でトスカニーニのこの曲に対する愛を感じずにはいられません。この曲本来の程よい大きさを保ちながら、濃厚なロマンティシズムをその中に漂わせます。


○1952年8月5日ライヴ-3

ビゼー:「カルメン」組曲(トスカニーニ編)

NBC交響楽団
(ニューヨーク、カーネギー・ホール)

アラゴネーズ・前奏曲・間奏曲・アルカラの竜騎兵・闘牛士というトスカニーニ独自の選曲とアレンジによるもの。前奏曲は有名な闘牛場の旋律をはずして・呪いの動機から始めます。したがって威勢の良いスペイン風のリズムを前面に押し出すのではなく・暗めのドラマ重視の編曲なのです。トスカニーニならばリズムの斬れ良く色彩が飛び散るような演奏かと思いきや・意外にリズムが重く地味な印象なのはそのせいのようです。間奏曲のフルートは旋律の息を長くとって魅力的です。アルカラの竜騎兵のユーモラスな歌いまわしとリズムも印象的です。


○1952年8月5日ライヴー4

カタラー二:歌劇「ローレライ」〜水の精の踊り

NBC交響楽団
(ニューヨーク、カーネギー・ホール)

前半のキラキラした水の煌めきのリズム、後半のゆったりした水の流れが親しみやすい旋律で表現されています。トスカニーニがいつになく肩の力を抜いて・リラックスした音楽造りをしているように思われます。


○1952年8月5日ライヴー5

ウェーバー:歌劇「オベロン」序曲

NBC交響楽団
(ニューヨーク、カーネギー・ホール)

ふんわりとしてロマンティックな雰囲気を出す場面と、一転してトスカニーニ調で・早い勢いのあるテンポで一気に駆け抜ける激しさがめまぐるしく興奮させられますが、テンポの緩急の対照がやや強過ぎるようです。もう少しロマンティックに傾いて欲しかった感じです。


○1952年8月5日ライヴー6

カタラー二:歌劇「ワリー」〜第4幕への前奏曲

NBC交響楽団
(ニューヨーク、カーネギー・ホール)

短い曲ですが、前半の寒中のアルプスを現す厳しい表現から・後半の雲の合間から明るさがほの見えて来る表現まで、緊張感ある凝縮した表現を聴かせてくれます。


○1952年11月4日ライヴ

R.シュトラウス:交響詩「ティル・オイレン・シュピーゲルの愉快な悪戯」

NBC交響楽団
(ニューヨーク、カーネギー・ホール)

テンポはやや速めで造形はかっきりして、トスカニー二らしい無骨なところがあるものの、描くべきところはしっかり描かれていて、そこからR.シュトラウスのユーモアが自然とにじみ出ています。木管の響きがよく抜けて聴こえて、同時代的な乾いた感触が聴こえるところも興味深いと思います。オケの躍動感と表情の自由さが素晴らしいと思います。


○1952年11月10日ライヴ

ベートーヴェン:交響曲第8番

NBC交響楽団
(ニューヨーク、カーネギー・ホール)

引き締まった造型で・この交響曲とリズム主体に構成された第7番とのつながりを明確に教えてくれます。全体にテンポ早めなのはいつものトスカニーニの通りですが、第1楽章の手綱を引き締めて足取りをしっかり取っていることに感心させられます。この第1楽章の堅実な表現に全曲のコンセプトが集約されています。第2楽章はやや早めのテンポで音楽の流れを停滞させません。第3楽章は軽快なリズムでこの曲全体の転換点になっています。第4楽章もテンポを急かさず堅実な造型で聴かせます。


○1952年11月15日ライヴ

サン・サーンス:交響曲第3番「オルガン付」

NBC交響楽団
(ニューヨーク、カーネギー・ホール)

造型が引き締まって密度が高い名演だと思います。早めのテンポで表現に無駄のないところは実にトスカニーニらしいところですが、この曲の持つスマートな近代的な感覚とよくマッチしていると思います。NBC響の響きはやや渋めに感じられて・ドイツ的な構成感が強く出ているようにも感じられますが、色彩感が不足という感じはありません。第1楽章前半の早めのパッセー時は急き立てられるような緊迫感が素晴らしく、NBC響の硬質の弦が生きています。後半の静かな抑えた表現も全体のなかで納得できる表現です。第2楽章前半部も緊迫感が素晴らしく、後半の緊張を解き放ったような圧倒的なクライマックスまで聴き手をつかんで放しません。


○1952年11月22日ライヴ−1

グルック:歌劇「アウリスのイフィゲニア」序曲

NBC交響楽団
(ニューヨーク、カーネギー・ホール)

ドイツ的な暗めの響きで・リズムをきっりと刻んでいきますが、その印象はがっしりとした石造りの建築物を見るようで・かなり重い感じです。


○1952年11月22日ライヴー2

グルック:歌劇「オルフェオとエウリディーチェ」第2幕(演奏会形式)

ナン・メリマン(オルフェオ・アルト)、バーバラ・ギブソン(エウリディーチェ・ソプラノ)
ロバート・ショウ合唱団
NBC交響楽団
(ニューヨーク、カーネギー・ホール)

これは名演。オケ主体で運ばれる場面が多いだけに・オラトリオを聴くように密度の高い表現で、まるで音の絵画を見るが如く・場面がくっきりと描き分けられています。特に第1場は早めのテンポで地獄へ向かうオルフェオの緊迫した心情があがかれます。その急き立てる厳しい表現のなかに形式感と古典的格調が自然と立ち現れます。手綱を引き締めたインテンポの厳しい表現ですが、それでいて旋律は十分に歌いこまれて・窮屈なところはまったくありません。有名な精霊の踊りは簡素で淡々とした味わい。ふたりの歌手も節度あるなかにも素直なの伸びやかさがあって・美しい歌唱です。


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